111 一夜
■一夜■
その頃、和人の家の外では、エルフィア人エージェントをめぐって、国際争奪戦が行われようとしていた。
「リッキー。どこまで聴けた?」
「大してないな。催眠をかけた女の盗聴器を仕掛けた場所がまずかったらしい。ほとんど聞こえない・・・」
「どういうことだ?超小型高性能盗聴器だぞ」
「だが、誓って無音だ。けちって国産電子デバイスを使ったな。だから日本製にしろ言ったのに・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「会話がないわけがないぞ。リッキー、盗聴器をどうやったんだ?」
「例の石橋可憐を催眠下で指示し、掃除でここに来た時に仕込ませたんだ」
「石橋可憐とは、セレアムの宇都宮和人の社員か?」
「そうだ」
「取り付け場所の指示は出したのか?」
「もちろん。あ・・・」
「リッキー、なにか聞こえたか・・・?」
「ああ、聞こえてきた・・・」
「不具合が直ったのかもしれんぞ」
「いや・・・。おかしい。男の声しかしない・・・」
「女の声は確認してないのか?」
「窓越しに女の人影を認めた。例のエルフィア人女が現れたのは確かだ」
「詳細を報告しろ」
「それは後だ。会話をウォッチする」
「いい報告を期待している」
「了解」
ぷっ。
「リッキー。8時から見張っていたが、だれも外からは来ちゃいないし、中からも出ちゃいない。それより、エルフィア人が現れる時刻が11時ってのは確かだったのか?」
「無論だ。日本のニュースについては、わが国の情報網は日本より早くて正確だ」
リッキーは無表情に答えた。
--- ^_^ わっはっは! ---
「なぜか、11時10分には女が既にいた。どこからどういう風にやって来たと言うんだ?オレたちはしっかり見張っていたんだ。見逃しなどあろうはずばない」
リッキーは反論した。
「もし、それが本当なら、それを突き止めるのがおまえの仕事だ、リッキー」
「思考もブロックされてるし、石橋可憐を操って仕掛けた盗聴器も、大した情報を取れないでいる。これは絶対におかしい。そうは思わないのか?」
「それはおまえの問題だ・・・。開き直りか、リッキー?」
「いや。オレの頭はスッキリしてる・・・。もし、これが事実なら・・・」
リッキーは素早く頭を回した。
「それだ。それが真実だ・・・」
リッキーは和人に家を監視しながら呟いた。
「なにをごちゃごちゃぬかしてる?」
「いいか。エルフィア人はオレたちに知れることなく、そこに人間を送り込んだんだ。テレパスのオレを差し置いてな・・・」
リッキーは絶対の自信を持って言った。
「エルフィア人は超能力者だというのか?」
「そうだ。だが、それだけじゃない。エルフィアの科学力だ。エルフィアがどこにあるか知らんが、宇宙船もなしにいきなりここへワープしてよこしたんだ、ユティスを・・・」
リッキーは瞬きもせずに低い声で言った。
「宇宙船なしとはな。はっは、本気か、リッキー?」
「当たり前だ。頭の悪いヤツほど自分以外の人間をバカにする。オレは違うぜ」
に・・・。
リッキーは小ばかにしたような笑いを浮かべた。
「言葉が過ぎるぞ、リッキー」
「いや、言わせてもらう。8時からずっと宇都宮和人は一人だった。11時というのも合ってる。外からはだれも来てない。11時10分にゃ、女の影を確認した。どうみても、ボウフラみたくどっかから湧いて出てきたってのが真実じゃないのか?」
リッキーは引き下がらなかった。
「ボウフラだとぉ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「あんたら官僚も似たようなもんじゃないか。突然湧いてきて、人の話の腰を折りに来る」
--- ^_^ わっはっは! ---
「リッキー、黙って聞いていれば・・・」
「だから、あんたが黙ることがあったのか?人の話は最後まで聞けよ」
「もし、うまくいかなければ、責任はリッキー、おまえにある・・・」
「勝手にしろ・・・。とにかくだ。その場の状況の正確な観察と可能性のないものの除去。それでもなお、残されたもの。それが真実だ」
「真実なら、その証拠を掴むのがおまえの使命だ、リッキー」
「言われなくともそうするよ。それに・・・」
「なんだ?」
「もう一人、名前が出た・・・。エルフィア人だろう・・・」
「もう一人?だれだ、それは?」
「名前はアンニフィルド。確かにアンニフィルドと言った・・・」
「女か?」
「名前の響きからいうとそんな感じだな」
そこで、リッキーは眉をひそめ、じっと和人の家を見つめた。
「ところが、これもおかしな話だ。あの家からは、宇都宮和人の声しか聞こえなかった。ヤツは確かに女と会話しているのに、そのアンニフィルドとかいう女の声はまるっきり聞こえなかった。オレのテレパシーにも反応してない。おかしいとは思わないか・・・?」
「どういうことだ?」
「あの時と同じだ。IT研究会で、はじめてユティスの声を聞いた時とな・・・」
「テレパス・ブロックか?」
「恐らくな・・・。とにかく、アンニフィルド、本人はここにはいないだろう。どこか離れたところだ」
「近くか?」
「いいや。エルフィア本星ってのが正解だろう」
「エルフィア本星だと?わっはっは。宇宙の彼方から意識を飛ばして来ているとでも言うのか?」
「あんたにはわからんだろうよ」
「リッキー、わたしを愚弄する気か?」
「まぁ、聞け。ユティスにしろ、あのIT研究会の時には、彼女はエルフィア本星からコンタクトしたと考える方がつじつまが合う」
「ふん。それは証明してから、言え」
「わかってる」
ユティスを守るべく、和人たちに近づくZ国のエージェントたちを見張っていた合衆国のSSたちは、逆に、和人の家近くで日本警官の職務尋問に合っていた。
「盗聴妨害のスイッチは拾ったか?」
「いや、まだだ」
「ん?おまえたち、なにをごそごそやっている?」
「財布から大金が落っこちたんでね、拾ってるんだよ」
「怪しいやつ、手を見せろ」
「ほれ、これだ」
彼の手には1円玉があった。
--- ^_^わっはっは! ---
「なにをしに、ここにいたんだ?」
「VIPの護衛だよ」
「どこのVIPだ?」
「MLGだ」
「MLGとはなんだ?」
「失われし銀河作戦。合衆国大統領の勅命だ」
明らかに日本の警官は理解していなかった。
「こんなところに合衆国大統領が来るものか」
ぴっ。
その時、警官の無線機が鳴った。
「はい。わたしです」
警官は、ジョーンズとジョバンニの二人から目を離すことなく、無線機と話した。
「そっちに合衆国のSSだという人間がいたら、パスさせろ。内閣特別顧問の大田原太郎より、先ほど指示が出た」
「合衆国SSの二人ですか?」
にや・・・。
車の中では彼らが口元に笑いを浮かべ、ウィンクした。
ぱち。
--- ^_^ わっはっは! ---
「ええ。2名の外国人です。合衆国国籍で、自分たちは、国務省外交保安局所属SS、シークレット・サービスだと言ってますが・・・」
「ご苦労。直ちに二人を開放しろ」
「ええ?本当に、こいつら・・・」
「さっさと開放しろ」
「本気ですか?」
「信用していい。きみの目の前の一戸建てに守るべきVIPがいる。彼らは、その方を警護するために、合衆国との二国間協定に基づき、任務についているんだ」
「その方っていうと?皇族で?」
「わたしにもわからん。きみも知らんでいい」
「はい」
「首相が決定を下し、大田原太郎からお偉方に指示が来た」
「わかりました。直ちに解放します」
ぴっ。
「さ、もういいぞ」
にやっ。
「どうも、オフィサー」
二人にIDカードを帰すと、警官は胡散臭そうに離れていった。
「やれやれ・・・」
「あん畜生め、貴重な時間をつぶしてくれたぜ」
「スイッチは?」
「見つけた。電波も元通りだ」
「Z国の連中に、一言も盗み聞きさせてなるものか」
アンニフィルドは地球に送り込まれたユティスからの連絡が途切れたので、和人の元に直接確認を取りに行ったが、ユティスが疲れて眠ったこと以外は特筆すべきこともなく、エルフィアに戻っていった。
「どうだったの?」
クリステアはユティスの様子をアンニフィルドにきいた。
「無事よ。緊張が一気に取れちゃったらしく、今は、眠ってるわ。一安心ね」
「よかった」
「それでね・・・。あはは!」
「思い出し笑いなんかして、どうしたのよ?」
「ユティスったら、ついにしちゃったみたいよ・・・。アレ・・・」
「アレって、なんのこと?」
クリステアはわからなかった。
「和人とのキッス」
「わおっ・・・!」
「ちゅっ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
「でしょ!」
「やっぱり!」
「転送された瞬間、二人で抱き締め合っちゃって、いきなりよぉ!」
「想像以上ね」
「間違いないわ。前代未聞のケースになりそう。赴任した途端、結婚式・・・」
「なんたって、相性99.99%なんだから」
「見たかったなぁ、感激の抱擁。キッスの瞬間・・・」
「アンニフィルド、プライバシーの覗きはよしなさいってば」
「だって気になるじゃない。アンデフロル・デュメーラったら、ホント余計なことするんだから」
--- ^_^ わっはっは! ---
「はい、はい」
「それでね・・・」
「なに?」
「ユティスの寝顔、すっごく可愛いの。和人の部屋ですっかり安心しきっちゃって。わたしだって思わずキッスしたくなるほど」
「危ないわねぇ、アンニフィルド」
--- ^_^ わっはっは! ---
「とにかく、とっても幸せそうだったわ」
「そうだと思ってたの。よかったわ!」
「ええ!」
「でも、和人と二人っきりにして、大丈夫なの?」
クリステアは安全面のことが気掛かりだった。
「リーエス。その点は問題なしね。けっこう、あの服脱がせにくいんだから」
「ええ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「そういう問題なの?」
「リーエス。決定的なのはね、クリステア、あなたも知ってるでしょうけど、和人にそんな根性はない!」
「なるほどね。それは、言えてるわ」
「ユティスの生肌に触れた途端、心臓が爆発して失神するわね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ふふふ。ユティスが目覚めても、ずうっとそうだと、それも困っちゃうんじゃない?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「ユティスの答えは決まってるものね!」
「リーエス」
「ははは」
「あはは」
アンニフィルドがエルフィアに戻ると、和人は当面の問題を考えることにした。
(しかしなぁ。ユティスのこと心配だよ。常務の話じゃ、世界各国がユティスを狙ってるっていうし。うっかりトイレに行ってる間に、拉致でもされたらと思うと、うかうか離れることもできないや。かといって、一緒にトイレに連れてくのはもっとまずいしなぁ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
和人はベッドの上で眠っているユティスを見た。
(よし、大丈夫・・・。真紀さんも会社費用でベッド買ってくれたのはいいんだけど、キングサイズのダブルベッドってのは、どういうことだよ?ユティス一人じゃ大き過ぎるし、本気で一緒に寝ろってことかぁ・・・?)
どきどき・・・。
--- ^_^ わっはっは! ---
和人の目の前には、自分が首っ丈の女の子が横に寝ているのだ。和人の心中は穏やかであろうはずがなかった。
(はぁ。精神体の時から、ユティスが滅茶苦茶可愛いとわかってはいたけれど、実物はもう信じれないくらいだよ。あーあ。2時過ぎてるし、取りあえず、ベッドのそばに布団敷いて寝るとするか・・・)
和人は、ユティスの側に布団を敷き横になった。
もんもん・・・。
もんもん・・・。
「くっそう、隣が気になって眠れやしない・・・」
和人は暗がりの中でユティスの位置を確認した。
「大丈夫・・・。当たり前か・・・」
「か・ず・と・・・さん」
ユティスの小さな声がした。
がばっ!
「ユティス、オレはここだよ。側にいるよ!」
--- ^_^ わっはっは! ---
和人は電光石火で、ユティスのネガをを覗き込んだ。
ごろ・・・。
ユティスは寝返りを打った。
「ふぅ、寝言かぁ・・・」
和人はユティスにキッスしたいのをやっとがまんした。
「本人に内緒でキッスするなんて、やっぱりよくないよなぁ・・・」
(やっぱり、そっと、眠らせておこう・・・)
それから、二時間が経ち、和人の家はZ国のエージェントが監視を続けていた。
ぷっ。
「えい、くそっお!だめだ!」
「どうしたんだ、リッキー?」
苛立つリッキーに不安を感じ、もう一人が言った。
「またしても、ウンともスンとも言わなくなったぞ」
「リッキー、やつら、気づいてるんじゃ・・・」
「間違いない。これは無音妨害電波だ。さっきの車から制御してるに違いない」
リッキーは合衆国と思われる黒塗りの大型のセダンのことを思い出していた。
「どうするんですか?」
「コンビニに何時間も停めるわけにもいくまい。車を移動させろ。オレは、ここに残る」
「了解」
ぱたっ。
リッキーは車を降りると、車を出すように合図した。
ぶるるんっ。
「どこに行きます?」
「その辺をゆっくり回ってろ」
「了解」
ぶろろろっ。
リッキーは走り去る車からすぐに視線を和人の家に移した。
「こうなったら、一か八か、入ってやる・・・」
すたすた・・・。
リッキーは和人の家の玄関に向かった。
「だれか、家に近づいてくぞ!」
日本の警護官が直ちにリッキーの行動に気づいた。
「止めさせるんだ!」
「了解」
たったった・・・。
リッキーが家に近づこうとすると、すぐに私服警官がどこからともなく現われた。
「待て。ちょっといいかね?」
警官は警察手帳を広げた。
「ん?」
リッキーは私服警官を振り向いた。
「こんな時間にどこに行くんだ?」
リッキーの目は瞬きもせずに警官の目をじっと見つめた。
じいーーーっ。
「いい夜だね。きみはそろそろ戻らなければいけないところがあったはずだぞ。戻るんだ、そこへ・・・。戻るんだ・・・」
「ああ、戻るんだった。えーと、どこだっけかなぁ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
とろん。
たちまち警官の目が空ろになった。
「ここは、なにも問題ない。持ち場に戻るんだ・・・」
リッキーの自信に溢れた声に警官は素直に従った。
「はい。了解です・・・」
くるり。
警官はリッキーから離れると踵を返した。
「あいつ、なんで止めない・・・?」
警官の相棒は慌てて彼に駆け寄った。
「おい、しっかりしろ!」
彼の目を見て相棒は悟った。
「くっそう、催眠術か。なめたマネをしやがって・・・」
ぴ。
るるるる・・・。
「こちら4号車。本部ですか?只今、Z国のエージェントと接触した一人が、催眠をかけられた模様」
「なに?」
「Z国と接触しました」
「了解。向こうは外交官特権がある。直接きみらに触るとかしない限り、こちらからは絶対に手を出すな」
「了解」
警官たちは、該当が照らす夜中の街角を曲がっていった車を、目で追った。