107 実体
「はぁい、語り部のアンニフィルドよ。わたしが出てきたってことは、お話の大きな区切りってことね。第二部完了よ。和人とユティス・・・、もう、ドッキドキなんだから!」
■実体■
トルフォは、ユティスの地球とのコンタクト報告を、隅から隅まで調べさせた。
「おい。Z国についての情報はなにもないのか?」
「リーエス。まぁ、これを・・・」
ブレストはトルフォを見てにやりとした。
ぴっ。
トルフォは空中スクリーンを見つめた。
「これは、ユティスがコンタクトしている地球人です」
「ウツノミア・カズトだな!」
トルフォは、ブレストが言い終わらないうちに、吐き捨てるように唸った。
「リーエス。彼は非常に研究熱心で、いろんなことについて学んでいます」
ばんっ。
「だから、なんなんだ?そんなことはどうでもよい。Z国の連中とどう繋がっている?」
短気なトルフォは切れかかっていた。
「その勉強会にZ国のテレパスが一人参加しています」
「なに・・・?テレパスだと?」
「リーエス」
はっ・・・。
トルフォは思わぬ幸運に怒りを静めた。
「名は?」
「リッキー・Jと名乗っているようです」
「ようです、とはどういうことだ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「恐らくは、コードネーム。本当の名前ではないでしょう。彼はZ国のスパイです」
「本当か?」
「リーエス。これを」
ぴっ。
スクリーンにはリッキー・Jの肩書きが示された。
「Z国日本大使館通商部IT部門マネージャー、リッキー・J・・・」
にやっ。
トルフォは思わずほくそ笑んだ。
「ただのスパイではありませんよ、トルフォ・・・」
「リーエス。金がかかりそうだな・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「どうです?」
「はっはっは。通商部だと?これはまた、いかにもだな。自分はスパイだと、言ってるようなもんじゃないか」
「リーエス。見る人が見れば、そういうことです。彼は、適任では?」
「ふふふ。よかろう。ブレスト。早速、そいつにアプローチしろ」
「それで・・・」
「なんだ?」
「まずは、メンバーを揃える必要があるかと・・・」
「急いては事を仕損じる・・・。なるほどな。で・・・、必要な人物は?」
「A級以上のSSが4人以上。超A級は最低1名。彼らを地球へ転送するための転送システム1機。オペレーター1名。それと・・・・、てなところですかね」
「随分と要るんだな・・・。それに、SSだと?」
「SSは、必須です」
ブレストは平然として言った。
「そやつら、本当に仲間に引き入れることができるのか?」
「どうしても引き入れるんです。なにがあっても・・・。それ以外の考えは、即、捨ててください」
「そうは言ってもSS4人とはな・・・」
「委員会理事のあなたでもできませんか?」
「ふん。どうせ当てがあって言ってるんだろう?知恵はあるのか、ブレスト?」
にたり・・・。
「リーエス。人選はお任せください。ふっふっふ」
ブレストは自信たっぷりに笑った。
天の川銀河とエルフィア銀河の互いの後退速度、それぞれの恒星系の固有運動を考えれば、ピンポイントで人間を送ることは神業であった。しかし、文明レベル、カテゴリー4の超高度文明のエルフィアでは、転送自体はそう難しいことでもなかった。エルフィアは、時空間移動にもはや宇宙機を必要としてはいなかった。それでも、地球周回軌道には非常退避用のエストロ5級母船を乗せることにしていた。
転送室には、エルド他、ごく少数の関係者が固唾を飲んで転送テストの様子を見守っていた。
「地球への転送テスト、開始1分前。秒読み開始。60,59・・・」
「リーエス。転送システム、すべて異常なし」
転送室の中央にはエルフィアの象徴である半金属半セラミックスのエンブレムが置かれていた。
「10、9、8、・・・3、2、1。転送」
「転送」
ぴっ。
ぽわーーーん。
しゅう・・・。
転送室中央のエルフィアの象徴は、白い光に包まれたと思うと、次の瞬間に消えた。
ぱっ。
「転送完了」
「転送先、正常転送確認」
「アンカービーコン、ロック」
「リーエス」
ぴっ。
「アンカービーコン、ロック完了」
「よし」
「すべて正常終了」
「うむ。これで、いつでも、きみは地球に行けるな」
「リーエス」
「よかったわね、ユティス」
「はい。みなさん、ありがとうございます」
一同は互いに微笑み合った
「ユティスの転送前に、エストロ5級母船を地球周回軌道に乗せる。エージェントになにかあった時の緊急避難、および予備調査の支援に備えだ」
エルドは一同に確認させた。
「リーエス」
「エストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラ、最終点検終了」
「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)」
「どういたしまして」
「転送準備」
「アンデフロル・デュメーラ、転送準備に入ります」
エストロ5級の母船が答えた。
「1分前。カウントダウン」
「60、59、58、57・・・」
「すべて正常。ステルス・システム作動確認」
「30、29、28・・・」
「地球の赤道上空32000キロ、静止ポイントにセット。東経137度、日本に同期」
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」
「転送」
「転送」
ぴっ。
ぶわんっ。
「転送完了」
ぱっ。
「アンデフロル・デュメーラ、地球の自転に合わせ、静止周回軌道に乗りました」
「アンデフロル・デュメーラから、転送正常の返信を確認」
「つないでくれたまえ」
「リーエス」
ぴっ。
「こちら、アンデフロル・デュメーラ。地球周回軌道に正常に乗りました」
エストロ5級母船、アンデフロル・デュメーラは、青く輝く地球をリアルタイムでいっぱいに映し出した。
「うゎーーー。なんてきれいな星・・・」
「ステキ・・・」
「はぁーーー」
一同はため息をついた。
「こちらアンデフロル・デュメーラ。ただ今より、エージェント・ユティスの支援任務につき、地球上空で待機します」
アンデフロル・デュメーラの落ち着いた声が響いた。
「ご苦労、アンデフロル・デュメーラ」
「パジューレ(どういたしまして)、エルド」
「ふう。よくやった。みんな、礼を言うよ」
次に、エルドはみんなを見回した。
「パジューレ(どういたしまして)」
株式会社セレアムでは、いよいよユティスが現れることに、和人たちがそわそわしっ放しだった。
「さてと・・・」
そわそわ・・・。
「なにやってるんだ、和人?」
「A社の提案資料ですけど、まだ時間があるんで・・・」
「ダメダメ。何を考えているの?」
真紀が和人を制した。
「今日は早めに帰るんだ、和人」
「社長、常務・・・」
「わかっているわよね?」
「はい」
「あれぇ?もう、帰っちまうのか?」
自分のことはさておき、他人のことには百倍気が付く二宮が、そんな会話にすぐに反応した。
「二宮のやつ・・・」
目ざとく和人の帰り支度を見つけ、寄って来た二宮に真紀は天を仰いだ。
「また、あなたね・・・」
「真紀さん、なにか、オレが悪いことしましたか?」
「あなたは、存在自体が悪なのよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
むっ!
二宮の天敵、茂木も口をはさんできた。
「茂木さん、そりゃぁないですよぉ」
「どうでもいいから、あっち行ってよ。わたしは、まだ、明日締めのあんたの出してきた精算書の計算仕事が残ってるんだからねぇ。隣でうるさくしないでくれるぅ・・・」
かたかた・・・。
ぽん。
茂木はPCのキーを叩きながら、二宮に自分の席に着くよううながした。
「ちぇ」
「ぐちゃぐちゃ言ってると、あんたの旅費精算、来月に回すわよ」
「そんなぁ!」
「行った、行った!」
「はいはい」
「まぁ、お利口さんだこと」
「やれやれ、二宮は、ホント、ここ一番に必ず出てくるわよね」
真紀は和人に片目をつむった。
「別に、悪気があるわけじゃないから・・・」
「そうね。でも、和人、今晩は、とても大切な夜になるわ。わたしたちは、あなたたちを見守っているしかないけど、ユティスはちゃんと迎えてあげてね」
「はい」
「うふ。楽しみだわ」
「社長がですか?」
「ええ。だって会ってみたいじゃない。あなたの彼女とやらに」
--- ^_^ わっはっは! ---
「彼女って・・・。真紀社長」
「キッスくらいしたんでしょ?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「な、なに言ってるんですか・・・。オレたち精神体ですってば」
「そっかぁ、まだだったのね。健康に良くないわよぉ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「真紀さん!」
「あはは。二宮の予想じゃ、そうなるのも時間の問題だって」
「もう、からかわないでください」
「なにかあったら、必ず連絡しなさい」
「了解です」
和人は早目に新居に帰っていた。
「風呂も入ったし、後はユティスを待つだけか・・・」
ゆらっ。
ふっ・・・。
「おや、なんだろう?」
和人は、一瞬、部屋の空気が揺れたような気がして、その方を見た。
ぴかり・・・。
和人は七色に輝く不思議なものを見つけた。
「あれぇ、どこかで見たことがあるような・・・」
それは、一方向だけ突出した4方向に放射したような星型のもので、金属ともセラミックスともつかない、七色の不思議な光沢を持っていた。
ぴかっ・・・。
「あっ!」
和人がそれに触ろうとすると、それは和人に反応して空中に立体像を投影した。
「ユティス!」
その瞬間、和人はすべてを理解した。これは、ユティスが現れるという確実な前触れであり、ユティスを送り出すエルフィアの試験転送なのだ。ユティスは、大変柔和な表情で和人に微笑みかけた。
「和人さん。わたくしは、やっと和人さんのもとに訪れることができます。この紋章は、エルフィアの象徴であり、わたくしを和人さんのもとに確実送るためのガイド・アンカーであり、そして、和人さんへのメッセージでもあります。そちらのお時間で、本日の夜、11時に、和人さんのもとにまいります。もう少しですわ。和人さんにお会いできると思うと、わたくしは、もう・・・」
そこで、ユティスは感極まり、両手で顔を覆った。しばらく、ユティスは嗚咽を堪えているようだった。和人も胸が高鳴り息が苦しくなった。
「和人さん・・・。もう少しの辛抱ですわ」
「ユティス・・・」
「・・・」
ユティスは、しばらく黙りこくっていたが、再び、微笑みを取り戻した。
「歓迎してくださいますわね?」
「リーエス!」
和人は叫んでいた。
「和人さん、では、後ほど・・・」
ふっ。
そして、ユティスの立体像は消えた。
大田原たちはエルフィアからユティスが来るということで、準備に追われていた。
「じいさん、和人周辺の警護は、大丈夫なんだろうな?」
「ああ、俊介。半径100m以内に5人つけている。和人のうちには、2人」
「あんまり目立つようにはしないでくれ」
「その点は心配いらん」
「それに、ユティスが現れた途端、不法入国で逮捕なんて無粋なマネは止めてくれよ」
「ふっふっふ。おまえも、妙に慎重だな?」
「警護の警官たちは特殊訓練を受けた刑事たちだ。それに、和人以外の誰を守るのかまで知ってはおらん」
「そういうことか」
「安心しろ」
「わかった。時間を待つとしよう」
ぴっ。
「こちら第二班、宇都宮邸に出入りしているものはいません」
「了解。宇都宮和人自身は帰宅済みか?」
「はい。確認しました」
「了解。そのまま、様子を見ていろ」
「第二班、了解」
「第一班、同じく、確認」
「了解、第一班」
「俊介、警備は予定通りだ」
大田原がスマホで連絡してきた。
「了解。ありがとう。じいさん」
「お前たちは、どうしているんだ?」
「事務所だよ」
「ユティスが来るからって、通常の仕事がなくなるわけじゃないわ」
「なるほど」
「じいさんは、どうしてるんだ?」
「わたしも、官邸だ。理由はおまえと同じだよ」
「そいつは、どうも・・・。あれ?」
「チェックメイト。俊介、あなたの負けよ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「た、たんま。今、電話してたから・・・」
「それは、わたしだって同じよ」
「姉貴ぃ!」
「なにやっとるんだ、おまえたち?」
「作戦会議よ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「わかったよ。今日のところは譲ってやるさ」
「どうも。女性にお優しいことで」
「聞いてるのか、二人とも?」
「ええ。続けて、おじいさま」
「とにかく、今晩のことは超極秘事項だ。わたしたちの他、特別プロジェクトのメンバー以外は知らされておらん。なにかあったら、すぐに連絡してくれ」
大田原は冗談ではなくそう言った。
「ああ。警備の方は、よろしく頼むぜ」
「無論だ」
和人は時計を見た。
「まだ、9時かぁ。後2時間でユティスがここに現れる・・・」
和人はそう独り言を言うと、胸がいっぱいになってきた。
るるるーーー。
「はい。宇都宮です」
「和人、最終確認だ。ユティスの到着時間は?」
「あ、常務、11時です」
「ふむ。あと2時間か。おまえの家は、私服警官が警備を固めているから、万が一もないだろうが、なにかあったらすぐに知らせろ」
「はい」
「それに、居所の確認のためGPSは切るなよ」
「はい。でも、常務も社長も、なぜユティスに会いに一緒に来なかったんです?」
(アホかこいつ。おまえら二人のために膳立てしてるってのに、わかれよ・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「あのな。ユティスは、日本政府にとってはまだ違法入国なんだぞ。ぞろぞろ集まって、公になるようなことは一切慎まねばならない。オレ自身、仕事も残ってるし、第一、おまえたちの、せっかくの感動の再会をじゃまするほどヤボじゃない」
「再会ったって、実物に会うのは初めてなんですよ」
「じゃ、お見合いだな」
--- ^_^ わっはっは! ---
「常務!」
「わははは。ちっとは、オレたちの配慮ってもんを感じてるのかぁ?」
「あ、ありがとうございます・・・」
「いい。いい。抱き合おうが、キッスしようが、かまわん。エルフィア大使のユティスには、しっかりと歓迎の意を表せ」
「はい。そのつもりです」
ユティスは体を清めると、エルフィアの正装に着替えた。
「はぁ・・・。ユティスったら、なんて可愛いくてキレイなの?ホント、思わず抱きしめてキッスしたくなるくらい・・・」
「まぁ・・・」
にこ・・・。
ユティスは嬉しそうに微笑んだ。
「和人は、もっとそう思うはずよ!」
かぁ・・・。
アンニフィルドが言うと、ユティスは益々赤くなった。
「アンニフィルドったら・・・」
「なにしろ、恋する乙女だもの」
クリステアも相槌を打った。
「さぁ、ユティス」
エルドはユティスを抱きしめた。
「行ってまいります」
二人は互いに頬を合わせた。
「時間です」
転送システムの係がエルドに時を告げた。
「リーエス」
「ユティス・・・」
「お父様・・・」
エルドはもう一度ユティスを抱きしめ、頬にキスをした。
「地球へ、そして、和人のもとへ」
「リーエス。お送りください、わたくしを」
「ああ。そして、必ず和人をわたしのところに連れて戻ってきてくれたまえ」
「リーエス。きっと、お連れいたします」
「きみが選んだ男だ。わたしは嬉しいのだよ」
「お父様!」
「ユティス、時間です」
「リーエス。転送室にまいります。お母様にもよろしく」
「ああ!」
ユティスは転送室に入っていった。
「エルド。ユティスは転送室に入りました」
「リーエス」
しゅうっ。
「ドアロック完了。転送1分前、カウントダウンはじめます。60、59、58、57・・・3、2、1、転送」
ぽわーんっ。
エルドは、ユティスの体が白い光に包まれ、その影が徐々に薄くなり、次の瞬間、一気に消えていくのを見つめた。
しゅうんっ。
「転送完了、ユティスの地球到着確認。すべて正常に終了しました」
システム係りが確認後、報告した。
「ご苦労」
「リーエス、エルド」
日本時間の午後11時、ユティスが言った予定の時刻になった。和人の家の1階の居間では、エルフィアの紋章が黄みがかった白い光を放ち、和人は、なんともいえない期待感に胸が踊った。
(11時・・・。いよいよだ・・・)
ゆらーり・・・。
和人は部屋の空気がかすかに揺れたのに気づいた。
(来た!)
ぱぁーーーっ。
居間の真ん中の空間が、突然白く眩く光はじめ、虹色の球体になったかと思うと、若い女性の人影が浮かび上がった。
ぽわーーーん。
(ユティスだ。ユティスに違いない)
和人は一気に胸が高鳴り、それを見守った。
ぱぁーーーっ。
人影が完全に人間の姿になると、あっというまに光は消えた。
「あ・・・」
和人は声にならない声をあげた。
(ユティス!)
しーーーん。
そこには、優雅な服に身を包んだ一人の美しい若い娘がいた。背の丈はほとんど和人と同じくらいか、若干低いか。それでも、女性にしては小さい方ではなかった。髪は長く濃いブロンドを頭の後ろ、かなり高めにシュシュのようなもので束ね、ポニーテール風にまとめていた。額には金色と銀色のティアラのようなものを付けており、その中心にはエルフィア銀河を象徴する、菱形の片方だけを長く伸ばしたようなマークがあった。
ぱち・・・。
彼女は、ゆっくりと目を開け、和人を認めると、最高の笑顔になった。
にっこり・・・。
(ユティス、ユティスだ!本物のユティスだ!)
「ユティス!」
和人は、それがユティスだとわかり、狂喜した。
「和人さん!」
ユティスは、和人の記憶にあるとおりの柔らかい一言を発すると、和人の腕の中へ、まっしぐらに飛び込んだ。
たったった・・・。
「和人さん、和人さん!」
ぎゅうっ。
和人はユティスをしっかり抱きとめた。
「ユティス、ユティス!」
「和人さん・・・!」
じわぁーーーっ。
ユティスの目には、見る見るうちに、涙があふれ出してきた。
(・・・)
「和人さん・・・」
ユティスは、想いが一気にこみ上げてきて、自分でもどうしようもなかった。
「ユティス・・・」
「和人さん、和人さん・・・」
ユティスは何度も和人の名前を呼んだ。
「和人さん・・・」
「ユティス・・・」
「和人さん!」
「ユティス。ユティス!」
最初に、和人に会ったら、挨拶とか、なにを話そうかとか、あんなことを話そうとかと、いろいろ考えていたのに、ユティスは、和人の名前以外、なにも頭に浮かんでこなかった。
「ううっ・・・」
「ユティス・・・」
「ああ、和人さん・・・」
「ああ、ユティス!」
ぎゅう。
和人も、同様にユティスの名前を呼んで、ユティスを優しく抱きしめた。
「ああ・・・」
じわーーーっ。
ユティスは涙が止らなかった。
エルフィアでは和人が精神体で、地球ではユティスが精神体だった。
「ユティス。ユティス・・・」
二人は、精神体同士では、手すら握ることができなかったのに、今はこうして、お互いを抱きしめていた。
「和人さん!」
ぎゅぅっ。
和人の腕に力がこもった。
「ユティス、ユティス・・・」
ユティスの服は薄い絹のような材質だった。それは、ユティスの体の感触や温もりを直に和人に伝えた。ユティスは、ほんのりとても芳しい香りがした。
「和人さん・・・」
ぽよぉーーーん。
「あ・・・」
だしぬけに、それがユティスの胸の膨らみだとわかり、和人は頭が真っ白になった。
「ユティス・・・」
ぽわーーーん。
ユティスの体からは虹色の光があふれ出てきた。
ぽわーーーん。
それに呼応するかのように、和人のからだからも虹色の光が現れた。
ぽわーーーん。
ぽわーーーん。
そして、二人の放つ光が交じり合い、二人はなんともいえない幸福感に包まれた。
「和人さん・・・」
「ユティス・・・」
ユティスの想いが言葉となり、和人の頭にこだました。
「ユティス。ユティス・・・」
和人は、感情が高ぶって、彼女の名前以外、言葉にならなかった。
ひしっ・・・。
和人とユティスは、しっかり抱き合ったまま、しばらく動けなかった。
ちょこんっ。
こと・・・。
ユティスが和人の肩に頭を軽く預けた。和人は安心感と喜びでいっぱいだった。
じわーーーっ。
ぽたり、ぽたり・・・。
二人の目からは自然と涙があふれてきた。
(ユティス・・・)
つつーーーっ。
ユティスの頬に一筋の涙が零れ落ちた。
「ユティス・・・」
すぅーーーっ。
和人は彼女の濡れた頬をそっと手で拭いた。
「あは・・・」
「和人さん・・・」
ちゅうっ。
ユティスは和人の涙を自分の口で吸い取った。
「ああ・・・」
和人は、目に触れた暖かく柔らかいユティスの唇の感触に、気が遠くなりそうだった。
(ユティスが、オレの目にキッスを・・・)
じわーーーっ。
和人は、自分でも例えようもなく、優しい気持ちになっていた。
「ユティス・・・」
「ああ、和人さん・・・」
ぎゅう・・・。
「・・・」
「・・・」
ちゅ。
ユティスは、両腕を和人の首に巻きつけると、和人の唇にそっと自分の唇を重ねた。
ぴしゃーーーんっ。
びりびりびり・・・。
和人は、ユティスの甘く柔らかくて暖かい唇に触れ、電撃にも似た快感が、何度も全身を走り抜けるのを感じた。
ぎゅぅ・・・。
どきどきどき・・・。
どっくん、どっくん・・・。
二人の鼓動が共鳴し、そして時が止まった。