104 特定
■特定■
エルフィアでも、和人から入手した少ない情報をもとに地球の座標探査は続けられた。ユティスの地球の座標を割り出して和人のもとに訪れるという決心は固かった。それは彼女のミッションとしてというより、もっともっと個人的な理由からだった。ユティスにとって、和人の存在はどんどん大きくなっていった。そんなユティスをアンニフィルドとクリステアは放っておくことはできなかった。
SSの二人もユティスを手伝うが、無限とも思われる銀河と星の中で、地球の座標の割り出す作業は困難を極め、ユティスと仲間たちは不眠不休で作業にあたった。とりあえず地球の座標は入手したが、エルドは今の時空状態が完全に変わる前に地球座標を特定してできればロックオンしたかった。時空変形まで、とにかく時間は最短では3日しかなかった。ユティスたちは、慎重かつ急いで作業を進めていた。
「わたくし、エルドにシステムの利用許可を取りました。地球が属する銀河の特徴、周辺の銀河の様子、そして地球を従えている太陽の特徴等、データは十分にそろっています」
ユティスがアンニフィルドとクリステアに言った。
「アンニフィルド、ユティス、それにしても母数が多すぎるわ・・・」
「リーエス。対象の銀河だけでも数百億個、その銀河の中に星は2千億個以上あるのよ。いくらエルフィアのシステムが優れているからといって、これを一通り調べるのに、いったいどれくらいの時間がいるか・・・」
アンニフィルドは頭を抱えた。
「でも、時間は3日もないのよ。それで特定しないといけないわ」
クリステアが冷静に言った。
「できます。こうして、わたくしたちは地球の方たちと交信しているではないですか」
ユティスはそんな二人にきっぱりと言い切った。
「ハイパー通信の時空内リバーストレースをします」
ユティスの大きなアメジスト色の目から、ポタリと涙が零れ落ちた。
「泣かないでよ、ユティス」
「アンニフィルド・・・」
「あなたをほっとけないの。それに、あなた本気で男性を好きになったのは初めてなんでしょ。こっちまで胸が苦しくなってきちゃう。大宇宙をまたにかけたラブストーリーか・・・」
「ちょっと、うらやましいわね・・・」
ぎゅ。
クリステアはユティスを優しく抱きしめた。
「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)。お二人とも。わたくし・・・」
「いいの、いいの」
「早速探査開始よ」
ぴー、ぴ、ぴ・・・。
「ユティス、ハイパー通信の時空履歴を追っかけてみて。いつも同じとは限らないわよ。時空は常に動いてるんだから」
「リーエス、クリステア。オートスキャンを開始します」
「4082 3298 6054 1100 0784 9754 6101」
「次よ」
「リーエス。3124 0670 9528 2275」
「次」
「リーエス」
「ふぅ・・・」
「一休みしましょう。あとはシステムに任すしかないわ。大変な時間がかかるかもしれないけど、できることはやったわ」
アンニフィルドが二人に提案した。
「ナナン。まだやらなくてはならないことがあるわ。わたしは、天の川銀河の特徴と銀河団周辺の比較をするわ。天の川銀河団って大小入れても40個くらいしか構成銀河がないの。特に大きいのがアンドロメダ銀河と天の川銀河の2つ」
クリステアが空中スクリーンを指した。
「銀河団としてはずいぶんと少ないのね」
「でもそれ、大きな手がかりになるわ」
「リーエス。普通は少なくても数百というレベルですから」
ユティスも頷いた。
「銀河団のデータをチェックしましょう。いいこと、構成する各銀河のデータ。銀河団の構成銀河数と位置関係のデータベースをアクセスして」
ぴ、ぽ、ぱ、ぴ。
「なあに、クリステア。これ。ありすぎよ」
「予想どおりね。軽く数十万グループ出ちゃったわ」
「こちらもオートでスキャン開始しますわ」
ユティスが二人を見て、システムに指示を出した。
「あとは、時間と運の問題よ。今度こそ、一休み入れましょうよ」
アンニフィルドはいささか閉口していた。
「リーエス」
「リーエス」
ユティスとクリステアも今度は同意した。
そうして、3日目の終わりについに地球と思われる座標が判明した。
「エルフィアと同じエルフィア超銀河団の中のはずれにある、小銀河団の棒渦状銀河が天の川銀河と推定されます」
システム担当はユティスに微笑んだ。
「ついに見つけましたね!」
「これよ。これだわ!」
「見つけましたわ、和人さん」
それは、意外とはいえ、エルフィア銀河からほぼ真正面だった。
5400万光年先のかなり小さい銀河団。ユティスたちエルフィア人は、それに可愛らしいという意味のカルナという名を与えていた。しかも、予想外に近かった。
「本当に真正面だったわ」
アンニフィルドが興奮気味に言った。
「うわぁ、とってもきれいな銀河ね・・・」
クリステアが言った。
「間違いないな。隣に天の川銀河の倍近い渦状銀河と対照的に小さな青い渦状銀河の2つがある」
「伴銀河の形、位置、個数、すべてが一致します」
「カルナ第5銀河団の第3銀河と特定する」
エルドが断言した。
「次は、いよいよ、太陽系探しよ」
「棒渦状銀河だから、主要な大渦状腕は2つある。どちらに近い方だろう」
「バルジから約45度ずれたところよ」
「中心から2万6千光年ほど離れている箇所は?」
エルドが確認を急がせた。
「誤差が、2000光年ありますよ」
「誤差を考慮をしてくれ給え」
「リーエス」
「大渦状腕の外に淡い腕があるはずだ」
「リーエス。淡い腕を第一主渦状腕に確認しました」
「バルジに対して、45度というのは確かなの?」
エルドが和人の情報を確認した。
「リーエス」
「誤差を考慮しないといけないな。よし、スキャンを40度から50度の範囲に広げよう」
「リーエス」
「1000光年レベルに拡大したまえ」
エルドは矢継ぎ早に指示した。
「リーエス」
「ランドマークとなる星をピックアップしてみてくれたまえ」
「リーエス」
「ちょっと待ってくれ。今、われわれが直接見てる天の川銀河は、5400万年前のものだ。和人から入手したデータは、今現在のもの。それに、実際にそこに訪れるとなると、天の川銀河がエルフィア銀河から5400万年分さらに後退した距離を足さねば、しかも、銀河内公転位置も加味しないと、物理的に正しい距離はわかるまい。どの星も銀河内を猛烈な速度で回転しているんだ。今、目に見えるものが、そこにあるというのはせいぜい惑星内でしか通用せんぞ」
エルドが光でも5400万年かかっていることを再度強調した。
「つまり・・・」
「今見えている星々は、実際には位置も様子も変わっているぞ。高次元超時空座標に切り替えて探査してくれたまえ」
「リーエス」
エルドたちの地球探査は続いた。
「数千万年あれば、大きな重い星は誕生から死まで簡単に駆け抜けていく」
エルドは全員に注意を促した。
「エルドの言うとうりよ。質量の大きい星は要注意ね。あっというまに現れて、あっというまに消えていくわ。実際には超新星爆発でなくなっている可能性が高いわね」
「リーエス、アンニフィルド。それに、温度5000度以下のM型星もダメです」
システム係りが付け加えた。
「そうだな。ハビタルゾーン(生命居住可能星域)が、主星に近すぎて、惑星の自転速度と公転速度が一致してしまうぞ」
「リーエス。自転が主星に対してロックしては、昼夜がなくなり惑星内の温度差がとんでもなく広がってしまいます」
システム係りが補足した。
「そんなんじゃ、とても生物が棲めたものではないな・・・」
「リーエス、エルド」
「スペクトルがG型の主系列星の分布に絞りたまえ」
「リーエス。青色巨星、赤色巨星、赤色矮星、以上は、探査から外します」
システム係りが答えた。
「G型の主系列星なら、何十億年という時間を持っているから、5400万年くらいじゃ、変わらないわね」
クリステアが空中スクリーンをじっと見つめながら言った。
「各主系列星の固有運動量を算出し直し、地球からの距離を再計算させます」
「リーエス」
ぴ、ぴっ・・・。
「和人のデータを5400万年前まで修正しました」
システム係りが修正を終えたデータを再セットした。
「よし。映してくれたまえ」
「リーエス」
「ソルのスペクトルG1セット完了。絶対等級4から5に設定。連星を除外します。探査範囲をオリオン渦状腕にセット。銀河中心のバルジから26000光年、銀河ディスク内、角度43度から46度。データセット完了。探査開始」
ぴ・・・。
「・・・」
一同は固唾を飲んだ。
ぴ、ぴぴ、ぴ・・・。
「システム、スキャン中・・・」
ぴぴ・・。
「候補の星を出します」
ぴ、ぴ。
「・・・」
全員が固唾を呑んで結果を待った。
「候補星系表示します・・・」
ぴ。
「候補1、・・・候補2、候補3・・・、候補14、終了」
ぴ、ぴーーー。
ぽわっ。
空中スクリーンに結果が映し出された。
しゅん。
「14候補のうちどれかよ、ユティス・・・」
「リーエス、アンニフィルド」
(ついに、わかるのですね・・・。地球の太陽が・・・)
ユティスは息が苦しくなってきた。
「14の星の、天の川銀河全体の自転軸を元に、ディスク面に対しての主星の自転角度のずれを確認してくれ」
エルドはさらに絞込みデータの確認を指示した。
「リーエス」
「候補1、35度、候補2、63度、候補3、7度、・・・・候補14、22度」
「それ!63度の候補2だ!きみ、絞込みをしてくれないか?」
システム担当のアナウンスにエルドが叫んだ。
「リーエス。候補2にターゲットを絞ります」
システム係りはエルドの指示どうりにした。
「10000倍に拡大してくれたまえ」
「リーエス。自転軸63度を補正し水平表現します」
ぶわんっ。
「惑星の探査開始したまえ」
「リーエス、エルド」
ぴ。ぴ・・・。
「ガス惑星を4つ確認」
「拡大」
「リーエス」
「ガス惑星のうち、2つは他の2つより遥かに大きいです」
「うむ。順調だな・・・」
エルドは和人の言葉とうりなのを確認して、大きく頷いた。
「地球はソルから3つ目の岩石惑星だわ・・・」
クリステアが言った。
「岩石惑星は?」
「ガス惑星より太陽よりにあるぞ」
「探査継続中」
「主星より8光分に、青色の第3惑星確認。直径12000キロ。岩石惑星です」
「ビンゴだな」
「それよ!」
「やったわねぇ!」
「いいぞ!」
システム係りの言葉で一同は活気付いた。
「いいぞ。それだ。拡大してくれたまえ」
「リーエス」
ふぁーん、ふぁーん。
突然時空が閉じる警告音が響いた。
「時空閉鎖警告です!」
「そんなぁ・・・。またですわ!」
ユティスの悲鳴に近い声に、一同に一気に緊張が走った。
「うむ・・・」
「エルド、時間がほとんどありません」
「リーエス。慌てるな」
「惑星上に、海と陸を確認しました」
「和人の言った陸地の形がぜんぜん違うわよ・・・」
アンニフィルドが和人のイメージと異なる様子に思わず言った。
「いや、それでいいんだ。プレートの移動に合わせ、大陸が移動してるはずだから」
ふぁん、ふぁん、ふぁん。
エルドたちには時間がほとんどなかった。
「惑星の陸地に巨大脊椎生物を確認」
「地球と断定する」
エルドの一言で、一同は、それが地球だと確認した。
「リーエス」
「座標ロック。セーブしたまえ」
「リーエス」
地球が確認できたことで、エルドは光を超える超時空ハイパースコープの始動を支持した。
「ハイパースコープに切り替え。現在の太陽系へ高次元超時空ハイパー移行」
「リーエス」
「座標セット」
「リーエス」
ふぁん、ふぁん、ふぁん、ふぁん・・・。
「時空に極めて大きな歪が発生。コンタクト中のエージェントは、直ちに中止のこと。繰り返します。コンタクト中のエージェントは、直ちに中止のこと。100秒後に時空閉鎖します・・・」
システムのアナウンスが流れ、時空が閉じる警告音がいよいよけたたましく鳴った。
「時間がありません。100秒以内にきますわ」
「地球にロックオン待機」
「リーエス」
「銀河後退速度、恒星固有運動量、すべてをフィードバック完了。ターゲットを完全に捕捉しました」
「アルダリーム(ありがとう)。通信および転送座標固定準備」
「リーエス。準備完了」
「座標をロックオン」
最後にエルドはターゲットの捕捉指示を出した。
ぴっ。
「リーエス。座標ロックオン完了」
エルドはこの瞬間座標にハイパー通信と転送位置をロックオンさせた。
「リーエス」
システム係は、超特大空間スクリーンに映し出された太陽系第3惑星に、アンカー信号を打ちつけた。
「ロックオン作業すべて正常に完了」
「リーエス」
「座標データ、バックアップ完了」
「完璧だ」
ぶわーっ。
「エルド、正面時空に巨大な歪が発生!」
システム係りが叫んだ・
「ニュートリノ放射のチェック」
「リーエス。ニュートリノ放射確認」
ぴか・・・。
「スーパーノバに間違いありません」
「時空を歪ましている張本人というわけか・・・」
エルドは空中の三次元スクリーンを見つめたまま言った。
「スーパーノバの地球へのエネルギー到達時間は?」
「約30時間後です」
ふぁーん、ふぁーん、ふぁーん。
「緊急事態。警告。時空状態に異常。強制閉鎖します」
システムの警告が響いた。
しゅーーーん。
ばちっ。
「時空閉鎖」
「ふぅ・・・」
「まさに間一髪だな」
「滑り込みセーフ。秒単位だわ」
時空の大き歪みが観測された後、時空軸は大きくずれ、もはや今まで通りに通信をすることは不可能となってしまった。その直前に地球の座標をロックオンさせたので、ユティスにとってはそれだけが地球を訪れる唯一の頼みの綱だった。
「大丈夫かしら。エルド?」
「続けたまえ」
「リーエス」
ぴしゃーーーん。
「あ、いけません。ターゲットを見失いました!」
「あわてるな!」
エルドはそれを予想していた。
「きみ、アンカー座標の再呼び出しを」
「リーエス。呼び出し完了。ターゲットを捕捉」
「うむ・・・」
「地球をスクリーンに拡大します」
ぶわん。
なにもない空中に、立体感を伴いそれはいきなり映し出された。
「うむ。最終確認をする。時空屈折ターゲットに照準、ならびに照準範囲設定準備」
「リーエス。準備完了しました」
「リーエス」
エルドは立体空中スクリーンからユティスに目を移した。
「さぁ、ユティス、ここからはきみにしかわからない」
「リーエス」
ユティスは緊張気味に答えた。
スクリーンには、超時空を通した実時間で、青々とした惑星が目一杯に映し出された。
「地球面の詳細座標を確認してくれ」
「リーエス、エルド」
「和人さんは、一番大きな海の周辺にある1つの細長い島に、連なるように3つの島が寄り添った、列島だとおっしゃったわ。地図を見ましたの」
ユティスが心配そうに言った。
「あれね?」
アンニフィルドが太平洋を指差した。
「リーエス」
「最大の大洋を確認。赤道位置確認。緯度確認」
システム係りの声が響いた。
「あとは経度か・・・。ユティス?」
「はい、エルド」
「和人のいう経度は、地球上のどこが基準点だったかな」
「最大大陸の西方の島、ブリテン島です」
「よし。その惑星の傾きを63度補正して、赤道を真横にして映し出してくれ」
「リーエス」
しゅんっ。
地球は天の川銀河面に対して63度ほど傾いているのだった、それを補正したことで、一同には非常に見易くなった。
「これで地球の地軸が、スクリーンに対して垂直になり、見易くなったわ」
クリステアが言った。
「なにか変よ・・・」
しかし、アンニフィルドが何かに気づいた。
システム担当者は北と南をさかさまに映し出していたのだ。
--- ^_^ わっはっは! ---
「和人が言っている地球の自転の向きを確認し給え」
「リーエス」
北を上に持っていくのは、単に地球人の思いであって、宇宙全体には上も下もない。
「それよ、それ!」
「和人さんは、左から右に自転してると、おっしゃってたわ」
ユティスが指摘した。
「これは、右から左ね」
スクリーンを指してクリステアが言った。
「よし。地球の上下を反転し給え」
「リーエス」
しゅんっ。
スクリーン上の地球の自転は左から右になった。
「けっこう」
「これで、いいわ」
「さあ、これならいいだろう・・・。どこだろう、その経度の原点とやらは?」
エルフィア人たちは、最大大陸の右端に4つの島よりなる列島を見つけた。
「あれではありませんか?」
ユティスが言った。
「では、大陸の左端に同じく島があるか?」
「リーエス。小さな島を従えた島があります」
「ブリテン島ですね」
「そうです」
システム係が言った。
「そこから、135度に、その4つの列島は位置しているのかね?」
「リーエス。左に向かって135度に間違いありません。4つの内、一番大きい島の中心やや左寄りになります」
「よし。一番大きい島の中心付近を、さらに1万倍に拡大」
「リーエス」
しゅんっ。
「一番大きな平野部に移ってくれたまえ」
「リーエス。映します」
しゅんっ。
「都市だわ!」
「こんなぁ・・・。一面、建物だらけじゃないの!」
「自然なんて、ほとんどないわ」
「放射状に伸びているのは、なに?」
「鉄道ですわ。地球の地表上を行く、主な大量輸送機で、一度に何百人もの人を運びます」
ユティスが付け加えた。
「まるで、鉄ミミズね」
--- ^_^ わっはっは! ---
「これじゃ、町並みがよくわからないわねぇ・・・」
「さらに、現地の2000分の1まで拡大を」
「リーエス。拡大します」
しゅんっ。
「うわぁ。すごい!」
一同は、地球の都市の町並みに声をあげた。
「なんて高い建物なの!」
40階以上ある超高層ビル群に、アンニフィルドは驚きの声をあげた。
「それに、あの道を走ってる小型輸送機の量ときたら・・・」
「それは、車ですわ」
--- ^_^ わっはっは! ---
「蟻の巣ね!」
ユティスも、上空から初めて見る地球の光景に、言葉を失っていた。
「エルフィアも何万年、いやもっと前、カテゴリー2から3にかけての時代は、テクノロジー最優先だったんだ。その頃は、200階建てビルが、地表を覆っていた・・・」
エルドがしみじみと言った。
「そうね・・・」
「科学によって産業が興り、人口が爆発し、ビジネスが極度に活発化し、貨幣を基準としたアソシエーション社会が極度に発達して、人々が都市に集中したんだ」
「圧巻ね。これでカテゴリー2になったばかりとは、とても思えないわ」
クリステアが言った。
「もう何百年もカテゴリー2にいる世界みたいよ」
「リーエス・・・」
「しかし、カテゴリー3になる前に、こんなものは必要なくなるのよ」
クリステアは年の建造物を見て、その先を予想した。
「そうだな。星の自然と一体化するということがどんなことか、地球人には、まだまだわかるまい」
エルフィアの現在といえば、一番高いビルでもせいぜい20階くらいだった。文明が進み、貨幣社会でも、アソシエーション社会でもなく、瞬時にどこでも移動できる今、もう、都市を形成する意味がなくなっていた。人々は思い思い、自然にあふれた世界に家族や友人に囲まれて生活していた。20階の建物は、エルフィア政府の中央管理ビルだけだった。
「ところでさ、ユティス。和人の住んでるところは、どこなのよ?」
アンニフィルドが先走った。
「あのぉ・・・」
ユティスは見出しかねていた。
「落ち着きたまえ、アンニフィルド」
「リーエス、エルド。ごめんなさい」
「もう少し、倍率を下げてみないと、地表を俯瞰できませんが・・・」
システム係がエルドを見つめた。
「うむ。倍率を100倍にまで落としてくれたまえ」
「リーエス」
しゅんっ。
エルドが指示すると、視点は遥か上空になり平野がスクリーン一杯に広がった。
ぱぁーーーっ。
「中央の大都市が、放射状に伸びているな」
「リーエス」
「その上の方だ。下の方は海。というか・・・湾だな」
「リーエス」
「あ。あれではないでしょうか?」
ユティスが放射状に伸びた市外地の1本を指した。
「なるほど。きみ、ユティスの言ったところを、拡大してくれ給え」
「リーエス」
しゅんっ。
「ここです。ここです、エルド!」
ユティスは喜びに震えながら言った。
「この町並みです。精神体で訪れたままです。あそこに駅がありますわ」
「リーエス」
「そこから、まっすぐ500メートルですわ」
エルドに代わって、ユティスが誘導した。
「リーエス」
しゅんっ。
「そこ。そこで、止めてくださる?」
「リーエス」
ぴっ。
システム係は、和人の『アパート』のところで表示を止めた。
「ここです。これ が和人さんの、和人さんのお家です!」
「ずいぶん古いわねぇ・・・」
じわぁーーー。
ユティスは涙があふれてきた。
「どうやら、間違いないようだな・・・」
エルドはユティスの様子でそれと確信を得た。
「転送ターゲット地点として、アンカーを打ちますか?」
「そうしてくれたまえ」
「リーエス」
ぴっ。
「転送位置ターゲット、ロックオン完了」
こうして、ユティスたちも天の川銀河、オリオン渦状腕、太陽系、そして地球と一つ一つを確かめながら、ようやく和人のアパートを見つけ出したのであった。