009 支援
■支援■
株式会社セレアムでは国分寺姉弟が、システム室でハイパートランスポンダーの稼働状況を見守っていた。
「ほれ、今日のは特別長いぞ・・・」
「ええ。どうしたのかしら?」
「試しに、和人を呼び出してみるか?」
「ダメよ。商談中だったら、どうするの?」
「無視すりゃいいだけさ」
「いつものあなたみたく?」
--- ^_^ わっはっは! ---
「姉貴、そりゃ、ちとひどい言い方だな?」
「じゃ、わたしのコールにすぐでてよ。大事な用件なのよ」
「いつもか?」
「ええ。いつも」
「へい。へい。ウォッチを続けるぞ」
「どうぞ」
和人へのメッセージは続いた。
「ところで・・・」
ユティスは話題を変えた。
「文明とはなんでしょうか?それを持つことにはなんの意味があるのでしょうか?エルフィアはカテゴリー4の最先端のテクノロジーを持っていますが、ここでは、それは自然を含めたすべての生命体が、調和して幸せになるように使われるべきものだとされています。けっして人間だけとか、いわんや、特権階級の方だけとか、そういったことに限定的に使われるべきではないとされてますわ」
「なんか、とっても難しそうだね」
「いいえ。もう、あなた方はご存じのはずです」
「どういうこと?」
「わたくしのメッセージを受け取れるまでになったということは、ウツノミヤ・カズトさんの世界は、『カテゴリー2』になられた、ということですわ」
「なんなの、その『カテゴリー2』とかは・・・?」
「文明レベルの分類です。『カテゴリー1』とは自星を脱出するテクノロジーを持たない世界のことです。自分たちの世界がすべて。自己中心主義的な世界ですわ」
「『カテゴリー1』か・・・。ほんの数十年前の地球だよ、それ・・・」
「もし、そうであったのなら、ウツノミヤ・カズトさんはわたくしのメッセージを受け取ることはなかったでしょう・・・」
「どうして?」
「『カテゴリー1』の世界を、わたくしたちはご支援をすることはできないからです」
「なぜなの?」
「自律した世界ではないからです。テクノロジー、それは、ある意味、問題への解ですわ。もし、答えが自由に手に入るとしたら、ご自分で答えを求めることはなにもされなくてもよい、ということになりませんか?人々は、答えばかりを求め、要求ばかりを行うでしょう。それでは、結局、その人たちにとってためにならないことにはなりませんか・・・?」
「そうかもしれないね・・・」
「リーエス(はい)。あくまで、自律ができるだけの、ある一定レベルを超える精神的成長をした世界でないと、わたくしたちの支援も仇になってしまうのです」
「そうか・・・」
ユティスは和人が理解しているか見極めるように、一呼吸置いて続けた。
「ウツノミヤ・カズトさん。あなたの世界、地球、カテゴリー2の世界は、自分の星を脱出するテクノロジーを確立している世界です。カテゴリーの1と2の間には、極めて明確な精神的な境界があります」
「なに、その精神的な境界って?」
「はい。自分たちの世界を脱出し、別世界を訪れるテクノロジーがなければ、カテゴリー2とは認定されません。自世界から出て行く。これは、自世界だけではなく、他の世界があることを確認し、はっきりそれを認識した世界です。ひるがえって、大宇宙に浮かぶ自世界を外から観察するということです。自世界をこの上なく大切なものとして強く認識することでもあります。自世界の大切さを理解し、自世界への責任を感じ、他の世界に対しても、同じく責任を負うことを知るということです。両者は常に深く係わりあっています。そこに文明があろうとなかろうと、他の世界を自分たちの都合で勝手に蹂躙することは、決して許されません」
「責任ですか?」
「リーエス(はい)。ですから、カテゴリー2になったばかりの世界は、今までのように、自分たちだけに都合の良かったカテゴリー1的、自己中心的な価値観に、自ら対決しなければなりません。カテゴリー2においては、大抵の世界は大変な試練にさらされます。変化することを拒み、昔ながらのカテゴリー1的価値感にしがみつく方が、とても多くいらっしゃるからです。しかも、その方たちはその世界において大きな力を持ってもいます。その人たちを納得させることは並大抵ではありませんわ。その結果、人々は迷い、その精神は疲弊し、病み、大きな問題を抱えるのです。考えたくはありませんが、愛の精神に裏打ちされていないテクノロジーは、扱い方を学び損ねると、自らの滅亡という結果を引き起こします・・・」
ユティスはなにかを思い出したのか、声を震わせた。
「・・・」
「あの、大丈夫ですか・・・?」
「申し訳ございません・・・」
ユティスは、一息つくと、それを謝った。
「なにも、謝ることなんかないよ」
「それだけではありませんわ。破滅は周囲の世界を巻き込むことになりかねません。その可能性は恐らくこの地球にも少なからずあります・・・」
「地球にもか・・・。そのとおりだよ。地球はその試練にさらされてるってことだよね?」
「リーエス(はい)。わたくしたちエルフィアはもう何万年も前にその危機を乗り越えました。そして、わたくしたちに続く他の多くの世界が、カテゴリー2で迷うことなく精神的な進化を遂げ、カテゴリー3に自律して進めるよう、文明促進のサポートをすることにしたのです・・・」
「『そのカテゴリー3』って、どんな世界なの?」
「自分たち以外の恒星系に行けるだけのテクノロジーを持つ世界ですわ。少なくとも光速レベルで移動できる手段を確立していないと、お隣の恒星系といえども、とても行けるものではありません。光年という距離を日常的に操ることができる世界ともいえます。地球のお隣の恒星系も何光年も離れていらっしゃるのでしょう?」
「うん。そうだよ。最短でも、4光年以上は離れているらしい。SFの世界だね・・・」
「SF?」
「空想科学の世界の話だよ」
「ナナン(いいえ)。人間は知らないことは想像できません。逆に、空想できるということは、努力すれば将来的に実現可能だということです」
「そうなんだ・・・」
「但し、カテゴリー3に進むには、そのテクノロジーを扱えるだけの精神的成長が必須ですわ」
「自滅しちゃうからね」
「リーエス(はい)。真に愛に基づいた世界になっていないと、自分たちの科学によって滅亡してしまいます。それに、カテゴリー3の世界は、『惑星中が一つの世界を共有しているという認識に統一されている』ことが前提になります。ナナン(いいえ)、そのような世界は必然的にそうならざるをえないのですわ」
「一つの世界か・・・。地球には、とてつもなく大きな課題だよ・・・」
「リーエス(はい)。ですから、わたくしたちが無事『カテゴリー3』に進めるようにお手伝いしているわけです」
「うん、わかったよ。でも、この地球が本当に『カテゴリー3』へ進むことができるんだろうか・・・?」
「心配はいりませんわ。あなた方、地球には、それがわかる方が既にいらっしゃいます」
「どうしてわかるの?」
「地球に限ったことではありませんもの。実は、カテゴリー2に入った時には僅かではありますが、そういうカテゴリー3的な方が、既にいらっしゃるものです。そういう方が、順調に増えていけば、いずれ、この状況を克服することになりますわ」
「すごくかかると思うな」
「リーエス(はい)。しかし、時間は最優先事項ではありません。方向性こそ大切なのです」
「なるほど。地球にも、その時が来たってこと?」
「リーエス(はい)。地球がカテゴリー3に入れば真にわたくしたちの友人となれます」
「友人か・・・」
「リーエス(はい)。新しい友人ができることはとてもわくわくしますし、素晴らしくステキなことですわ」
「本当に、きみたちと友人になれるのかなぁ・・・」
「ご心配ですか?」
「うん。地球人ってのは、異星人は常に地球の侵略を企んでいて、宇宙には悪党たちが溢れていると思っているんだよ・・・」
--- ^_^ わっはっは! ---
「まぁ、なんという、可愛そうな人たち・・・。大宇宙にあまねく存在する普遍的な法則を、ご理解いただいてないのですね・・・」
「それは、なんなの?」
「大宇宙には愛が満ち溢れていて、それを理解できる世界にはすべてが開かれているのです。テクノロジーもしかりです。もし、これをないがしろにするならば、決して時空を操ることができないでしょうし、その恩恵にもあやかることはできません。もちろん、幸せにもなれませんわ」
「はぁ・・・」
和人は溜息をついた。
「どうされましたの?」
「なんだか、地球の状況を思うと、哀しくなってくるよ・・・」
「そんなことは、おっしゃらないで・・・」
「うん・・・」
「とにかく、ウツノミヤ・カズトさん。わたくしたちにコンタクトいただきまして、本当にありがとうございます。あなたがこの大宇宙のどこにいらっしゃるのか今はわかりませんが、きっと、あなたの世界、地球が幸せになるように、わたくしたちエルフィアがお手伝いいたしますわ」
「文明の促進支援って、この地球がどうなるというの?」
「自分だけに都合のよい、競争的で奪い合うような文明から、創造し合い、与え合う、平和的な文明への移行をするのです。わたくしたちはその支援をするのです」
「よくわからないよ。想像もできない。難しいな、それ・・・」
「リーエス(はい)。では、こうお考え直してみてください。この何億光年という大宇宙のあまたに無限の生命が息吹き、数え切れない文明が栄えています。そういった文明世界と行き交い、交流し、友人として尊敬し合い、大宇宙の大いなる意思とともに生きる。奪い合い、行き過ぎた競争も、戦争もありません。経済がすべてでもありません。お金が世界を牛耳っているわけでもありません。どうですか?」
ユティスがそう言うと、和人の目の前に、その情景が広がっていった。
「うわぁ・・・。これは、楽しそうだね。わくわくするよ」
「はい。ご想像いただけて、嬉しいですわ。わたくしたち人間には、それが一番幸福なことなのです。自分たちに都合のよいことだけを考え、いつまで経っても仮想的な敵を作り、競争に明け暮れ、欲望を求め続けても、決して幸せにはなりませんわ。自分たちの幸せだけを追求することは、他人から幸せを奪う可能性もあるということです。もっと、もっと、超銀河クラスタレベルの大宇宙という大きな目で見てみてください」
「う、うん。超銀河クラスタレベルねぇ・・・」
(なんのことか、ぜんぜんわからん・・・)
--- ^_^ わっはっは! ---
「大切なことは創造し合うことです。その基礎となるのが愛の精神なのです。愛を基本として、幸せを創造し合うことのない世界は、なにも生まれません。生まれた途端に死に絶えます。そのサイクルを永遠に繰り返すのです。奪うもの、奪われるもの、すべてを足してみたところで、結局ゼロにしかなりません。愛の精神の基、創造し合い、与え合うことによってのみ、世界は豊かになるのです」
「・・・」
「うふ。いかがですか?」
「とってもハードルが高そうだよ・・・」
「ステップ・バイ・ステップです。急がなくてもよろしいんです。数年単位ではなに一つ変わらないように思えるでしょう。でも、何十年単位となると事情は異なってきますわ。それに、ものごとが変わる時は、長く変わらない時期が果てしなく続いた後、ある時、突然にして、すべてが変わり始めるのです。だんだん目に見えるように変わるといことではありませんわ。それには、それ相応の時間も必要です」
「そんな気の長い話なの?」
「うふふ。考え方次第です。わたくしにはそんな長い時間とも思えません。一旦、カテゴリー2に入れば、カテゴリー3までは精神的な成長だけといっても過言ではありません。テクノロジーの進歩は精神の成長にかかっていますわ」
「順調に行けばだよね・・・。一生の仕事になっちゃうよ・・・」
「まぁ、ウツノミヤ・カズトさんは、慎重主義ですのね?」
「あーあ、これ、本当なのかなぁ・・・」
「ウソとお思いになっても、けっこうですわ」
「どういうこと?」
「明日、また、ウツノミヤ・カズトさんの下にお伺いします。その時に、もう一度、お考えください。ウソかどうか・・・」
「明日?」
「早過ぎますか?」
「あはは、そんなことないよ。もちろん、歓迎するさ!」
「ウツノミヤ・カズトさん、そろそろ、お時間が来たようです。わたくしたちのことが、大よそご理解いただけましたでしょうか?もし、このまま、わたくしとコンタクトを取り続けてもよろしいのであれば、その旨了解がいただきたいのですが・・・。これ以上の情報提供と次回のコンタクトは、コンタクティーご自身の意思と了解が必要なのです。いかがですか?」
「うん」
和人は非常に興味を持っていたので、すぐにOKの返事をした。
「そ、そりゃ、お願いしたいよ。でも、いいのかな。地球の未来の方向性とか、こんなに重要なことを・・・。オレ、ただの青二才だし。きみに本当に言っていいもんだか・・・」
「んふ?」
「まぁ、いいか。悪いことじゃないし・・・」
和人は半ばやけくそ気味に言った。
「リーエス。了解いたしました。そちらの時間で24時間以内に、わたくしから、あなたにコンタクトを直にお取りいたします。その時には頭脳活性化アプリの適用をお願いいたしますわ」
ユティスは明るい調子で言った。
「頭脳活性化アプリ?さっきも頭脳の活性化とか言ってたけど、それは、なんなの?」
「頭脳活性化アプリとは、普段使っていない頭脳をよりよく働かせるための支援ツールのことですわ。地球の方が頭脳を活性化をされていないとしたら、頭脳は初期設定のままですわ」
「初期設定?」
(パソコンみたいだな)
--- ^_^ わっはっは! ---
「リーエス。その97%は、使える状態にないと言うこと。つまり、眠ったままと言うことです。ですから、その数%でも使用効率を上げ、よりよく頭脳を使えるようにするための支援ツールです。右脳を活性化し、間脳の機能を短期間で大幅に強化いたします。人によって効果は異なりますが、今までの例だと、最低でもプラス2%、最大で6%に使用率向上がありました」
「全部じゃないにしても、もっと効率化しないの?」
「うふふ。欲張りですわね。頭脳はとてもエネルギーを消費します。もし、そんな風に活性化してしまうと、たちまち飢餓に陥ってしまいますわ。わたくしたちも通常は5%くらいしか使っていません。しかし、緊急時、瞬間的に使用効率を倍近くにするのです」
「そ、そうなの・・・?」
「リーエス(はい)。活性化にはとても注意が必要なんですよ」
「そう言えば、たとえ天才がその頭脳を一生使いまくっても、たかだか3%も使えばいい方だって、聞いたことがあるよ」
「リーエス(はい)。ウツノミヤ・カズトさん、よくご存知ではありませんか。うふふ」
「あは・・・」
「単純に3%向上といっても、どんな天才でも一生使ってやっと3%な訳だろう?ということはだ・・・、今のオレにプラスIQ180の天才1人分の頭脳が追加された、てようなものかな?」
「リーエス(はい)。少々乱暴ですけど、そうお考えいただいて間違いありません。それにより今まで眠っていた頭脳が活躍し、右脳と左脳の連携が、飛躍的に向上します。思いもしなかったステキなことができるようになりますわ」
「もっと効率よくできるステキなこと?」
「リーエス(はい)。それに、頭脳の働きには、人の祈り、思いや意識が強く関係します。祈ることは前頭葉を活性化し、体全体に影響します。遺伝子にも作用しますのよ」
「お祈りが遺伝子にも関係するんですか?」
「リーエス(はい)。進化の重要な要素の一つです」
「わかんなくなってきた・・・」
「うふふ。遺伝子は何十兆個もある人の細胞の一つ一つすべてに、同じようにDNAとして存在しています。各々の細胞がどんな役目をするかは、そのDNAのどれが働くかによりますわ。それがまるでスイッチのように、働いたり抑えられたりするのです。良い遺伝子において、今までスイッチが入っていなかったところにスイッチが入ると、素晴らしいことになりますわ」
「できなかったことも、できるようになると?」
「リーエス(はい)。もっともわかり易い例として、超時空通信があります。居ながらにして遠くの人と意思疎通ができます。通信できるものは、意思、音声、イメージ、香り、その他、人間の感覚に関するもの、それらができるようになりますわ」
「そいつは、とっても便利そうだね」
「リーエス(はい)。とっても」
ユティスは一通り伝えた。
「では、本当にお時間です。次回は24時間以内に、直接、ウツノミヤ・カズトさん、あなたの頭脳にコンタクトをお取りしますので・・・」
「行っちゃうの?」
「うふふ。すぐにお会いできますわ。あなたさえ、そう望んでいましたら。本日は、これにて、失礼いたします」
そして、ユティスは一礼し、右手を上げて顔のそばに持ってくると、手のひらを見せた。
ひらり。
「うふ。また、お会いできることを楽しみにしていますわ」
すうーーーっ。
そして、ユティスは、空中に溶け込むように消えていった。
ユティスは、和人とのコンタクトを終えて、エルドと会っていた。
「はっは。ユティス、その顔は良い知らせだね?」
「リーエス(はい)、エルド。ウツノミヤ・カズトさんとのイニシャル・コンタクトに成功いたしましたわ」
「そうか、彼はきみのメッセージにアクセスしてきたんだね。それは、本当によかった」
ユティスとエルドは、にっこり笑って話した。
「必ず、ご覧いただけると、思っていました」
「きみの感は、相変わらず鋭いな、ユティス」
「アルダリーム・ジェ・デーリア(ありがとうございます)」
「パジューレ(構わんよ)」
「ウツノミヤ・カズトさんは、なにか、こう、とっても身近に感じますの」
「それは、あの日記のせいかな?」
「リーエス(はい)、恐らく・・・。わたくし、ずっとそれを拝見させていただいてますもの。なんだか、古いお友達に、お久しぶりにお会いするような、とっても懐かしい・・・。そんな感じです」
「おいおい、ユティス。古いお友達だなんて、きみはそんな歳でもないだろう?」
-- ^_^ わっはっは! ---
「ふふふ。そういえば、そうですわね」
「わははは」
「ふふふふ」
「それで、次なるステップへ進んでくれそうかな?そのぉ・・・」
「ウツノミヤ・カズトさんです」
「そう。ウツノミヤ・カズトは」
「リーエス(はい)。了解をいただきました。今日、あの方の夢におじゃまします」
「よく、彼の気持ちを尊重するようにな」
「リーエス(はい)。ありがとうございます。エルド」