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雪のしらべ

作者: 高木 千歳

あなたに大切な人はいますか?

親、友達、恋人…。

ではあなたは、大切な人を失ったらどうしますか?

………………

お父さんとお母さんが事故で死んだ。当時、小学2年だった私はそれを受け入れられなかった。

「お父さぁあん!お母さぁあん!どこぉ!」

叫んでも叫んでもお父さんとお母さんは帰ってこなかった。返事をしてくれなかった。

「雪ちゃん、おばさんのとこにくる?」

私はそう言ってくれたおばさんのもとに行った。おばさんはお母さんの姉で独り暮らしだった。通っていた学校からおばさんの家は遠かったので学校を転校することになった。お父さんとお母さんが死んで、友達とも離れ離れになった。おばさんは友達と離れさせてしまったことを気にしていた。

「雪ちゃん、肉じゃが好きだよね。作ってみたの」

そう言われて出された肉じゃが。違う、違う違う!

「こんなの違う!」

箸を投げ出して部屋に走って行った。泣いた、そんなことをしてもお父さんとお母さんは帰ってこないのに。おばさんは私のために肉じゃがを作ってくれたのに。お母さんの肉じゃがと違っていても美味しかったのに。温かったのに。

「雪ちゃん、ごめんね」

そう言って笑ったおばさんの手にはたくさんの絆創膏が貼られていた。

「ごめんね、料理まともに作れなくて」

…違うんです。

「まずかったよね」

…いいえ、美味しかったんです。

「……ごめんね」

私はこんなとき何て言ったらいいか分からなかった。ごめんなさい、その一言すら言えなかった。私が全部悪いのに。

私は小学校に行ってもなかなか友達ができなかった。みんなが話し掛けてくれるのに、私は素っ気なく返したり冷たく返したりするからだった。

おばさんとの仲も気まずくなっていた。おばさんは私に一生懸命に尽くしてくれたのに、私はそんなおばさんに対して苛立って酷いことを言ってしまっていた。

孤独だった。

そんな状態のまま数年の歳月が流れた。私は小学6年生になっても相変わらず孤独のままだった。だけど、そんな私に対して話し掛けてくれた子がいた。

「初めまして…えーっと、雪ちゃん?」

その子は転校生だった。このクラスに新しく増えた生徒。私はそれくらいにしか思ってなかった。名前を桜といった。

「私、桜っていうの。よろしくね」

私はその言葉に対していつものように冷たくあしらった。

「雪ちゃん、雪ちゃんは私のこと嫌い?」

そんなことをいきなり言われて凄く驚いたのを覚えてる。私が返答に困っていると満面の笑みでこう言った。

「私は好きだよ、雪ちゃんのこと。雪ちゃんが私のこと嫌いなら好きになってくれるように努力するから……私と友達になって?」

おかしな子だった。でも、その子が不思議なことにおばさんと重なって見えた。それから、桜とは親友になった。桜といると思わず笑顔になった。失いたくない大切な私の大親友になった。私は桜にお父さんとお母さんが死んだこと、今はおばさんと一緒に暮らしていること、そのおばさんとの仲が気まずいこと、全て話した。

「雪ちゃんはおばさんのことが嫌いなの?」

私は首を横に振った。

「そっか…じゃあ、大丈夫!」

桜は元気よく笑った。私には大丈夫と言った桜の言葉がよくわからなかった。

それから数日後、おばさんが仕事に行ったあとにリビングに置き去りにされた日記を見つけた。何年も使っているのだろう。そこには私に対する愛情が書き示されていた。

「…日、妹の子供を引き取った。名前は雪。雪の日に生まれたから雪。凄く可愛い子だ。

…日。雪ちゃんのために肉じゃがを作った。だけど、妹が作った肉じゃがとは全く違った。雪ちゃんが泣く声が聞こえた。

…日。雪ちゃんには内緒で料理教室に通うことにした。美味しいのを作って雪ちゃんの笑顔がみたい。

…日。最近、雪ちゃんが心なしか嬉しそう。学校でいいことでもあったのだろうか。

…日。今日は雪ちゃんが…」

読んでる途中で涙が止まらなくなった。おばさんは私のことを第一に考えて愛してくれていたのに。私はそれを理解していたのに。遠足のときに作ってくれた歪だけど凄く美味しかったおにぎりが大好きだったのに。お母さんとは全然違う、それでも温かくて美味しい肉じゃがが大好きなのに。おばさんのことが大好きなのに。何で私は上手く言えないんだろう。何で伝えられないんだろう。何で好きもごめんなさいも言えないんだろう。何で美味しいですって言って笑えないんだろう。大好きなのに大好き大好き!

「雪ちゃん、ただいま」

私はおばさんに抱きついた。

「え、雪ちゃん?」

「ごめんなさい、ごめんなさい!あのとき作ってくれた肉じゃが美味しかったんです!嬉しかったんです!頑張って料理作ってくれてたこと知ってたんです!私を引き取ってくれたこと嬉しかったんです!愛情を注いでくれて嬉しかったんです!私のために頑張ってくれてたこと知ってたんです…」

言い出したら止まらなかった。おばさんは黙って聞いてくれていた。私が泣き止むまで背中を撫でてくれていた。

「雪ちゃん、あなたのお父さんとお母さんが死んだとき凄く悲しかった。お母さんとはね、小さい頃からいがみ合ってたの。このお菓子は私のものだとかそんなくだらないことで。でも、でもね…死んだときに気付いたの。私は妹のことが大好きでたまらないって」

おばさんはそう言ってる最中に私を強く抱きしめた。多分、泣いてよんだろうなって思った。おばさんは私の前では絶対に泣かなかった。悲しかった筈なんだ。実の妹が死んで悲しかった筈なのに。私はおばさんに当たってばかりだった。私はまた泣きそうになっておばさんを強く抱きしめ返した。

卒業式の日。

おばさんは卒業式にお父さんとお母さんが写った小さな写真立てを持って来ていて泣いていた。何故かその光景を見た桜も泣いていた。私も思わず泣きそうになったのを耐えた。だけど、その日の夜におばさんが作ってくれた肉じゃがを食べて泣いた。次の日におばさんと一緒にお父さんとお母さんが眠ってるお墓にお墓参りに行った。そして、お父さんとお母さんに親友ができたこと、小学校を卒業したこと、おばさんの料理が美味しいことを伝えた。伝えてる最中にまた泣いていた。おばさんは涙を必死にこらえていた。

その後、私は中学校を卒業して国立高校に推薦で入学した。やはりそのときもおばさんは泣いていた。

お父さんとお母さんへ

私はもう25歳になりました。

今は医者として一人でも多くの人を救えるように頑張っています。

最初、お父さんとお母さんが死んだとき私は馬鹿みたいに他の人に八つ当たりをしていました。

たくさんの人を傷つけてしまいました。

分かっていました。

こんなことをしたところでお父さんとお母さんは帰ってこない。

死んだ人はもう帰ってこない。

医者をしている今でもやはり人の死はなれません。

おばさんは相変わらずです。

おばさんが作ってくれる肉じゃがは今や私の大好物です。

それと、結婚をすることになりました。

相手は同じく医者で同じ病院に勤めています。私のことを第一に考えて私の愛してくれていて、凄く優しいです。

今度、紹介しに連れてきます。

結婚式ではおばさんには母親として出てもらおうと思っています。

あと、友人代表は桜です。

桜とは何故か縁があり、小学校を卒業したら大学まで一緒でした。

いろいろなことがありました。

だけど、私は今凄く幸せです!

………………

あなたに大切な人はいますか?

いるなら大切にして下さい。

素直になって下さい。

愛して下さい。

そして、自分を愛してくれている人がいること忘れないで下さい。

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