第8話
最初に変な男が来た為か、後に挨拶に来る男達は至って普通に思えた。
「リリナ姫。今宵、私と一曲踊っては下さいませんか?」
「あなたのお傍にいられたらどんなに幸せか・・・。どうか、私と下に下りてはみませんか?」
「リリナ様。あなたのその憂いを私が取り除いて見せましょう」
などなど、クサイ言葉の数々も適当に流せるくらいには、最初の印象が強烈すぎたのだろう。
だが、そろそろパーティーも終盤になってきた。1曲くらい踊っておかなければ後が怖い。
だが、相手を間違えてしまうとそれも大変な事になる。思わずため息が零れたその時に、ふと目の前に影が落ちる。
「今日の主役が、そんな溜息ついてたらダメだろう」
掛けられた言葉は下手をすれば不敬になる。だが、その声に私は思い切り顔を上げた。
「ダニー兄様!!」
周りに聞こえない程度に、声を上げる。
「ははっ。相変わらずだな。リーナ」
そう言って、彼は私の前に跪く。
「リリナ姫。ご無沙汰いたしております。どうか今宵ダンスのお相手を努めさせては頂けないでしょうか?」
そう言ってスッと差し出す左手は、実に優雅に自然である。
彼の言葉に、私もスッと表情を正し、答える。
「えぇ。よろこんで。私などで宜しければお相手致しますわ」
ちょっと高飛車な感じで返事をすれば、彼の肩は小刻みに揺れる。
「これはこれは。ありがたき幸せ」
そういって、彼が顔を上げ私達はくすくすと笑うと、彼の手をとり、ホールへと私達は降り立った。
私が席を離れた事で、自然とフロアに向かう道が開けられる。
「ははっ。リーナ。お前と歩くと人を避けずに済むから楽だな」
私にしか聞こえない声で、ダニー兄様はそう呟く。
「あら、勝手に皆が避けるだけよ。王女だからって同じ人間なのにね」
同じように私もダニー兄様にのみ聞こえるよう、小声で話す。
「それにしても、今回は何のパーティーなんだ?あぁ、悪い。聞かなくても分かった」
ダニー兄様は、私が答えるよりも早く勝手に自己完結をさせた。
「まぁ、意地悪ね。知っていて聞いたのでしょう?」
笑顔を保ったまま拗ねたようにそういうと、彼はふっと笑った。
「いいや、本当に知らなかったんだけど、この視線を浴びていれば大体想像はつくだろ?」
その言葉に、私も思わず苦笑する。
「本当に・・・」
私と踊れなかった男性達が、その視線をダニー兄様に向けているのが嫌でもわかってしまう。
「俺なんかにそんなことするよりも、リーナを振り向かせる努力でもしてた方がはるかに有意義だろうにな」
そういうと、ダニー兄様はスッと背を伸ばし、腰を折った。
「姫。宜しくお願い致します」
「こちらこそ」
ドレスを摘み腰を落とし、挨拶を交わすとスッとダニー兄様に手を引かれダンスを開始する。
「さてさて、お手並み拝見だな」
そう言われ、流れるようにステップを踏み始めると、周りの視線など全く気にならなくなった。