第5話
食堂へ着くと、なぜか既に父と母が席についていた。
「あら、お父様、お母様。めずらしいわね。ここでお食事を?」
入ってすぐに目についた2人に私は声をかけた。
「おぉ!愛しのリーナ!!我が可愛い娘!早く座りなさい!!」
お父様は今にも抱きついてくるんじゃないかと思うほどの勢いで、席を立つ。
「あなた。お行儀が悪くてよ。落ち着いて」
それを冷静に宥める。
うん、いつもの光景がそこに広がっていた。
「今日は一緒に夕食を食べるの?珍しい事もあるものね」
思わず本音をこぼせば後ろからレイナに小声で窘められた。
「あら、レイナ。いいのよ、だってその通りですもの。いつも一人で食事をさせてしまってごめんなさいね、リーナ」
お母様の言葉に首を振る。
「気になさらないで、お母様。レイナも一緒に夕食を取ってくれるし、寂しいわけではないから」
にっこりとそういうと、お母様もにっこりと笑う。
むしろ、一緒に食事などこちらから遠慮する。
毎度毎度、お父様がお母様に食事を食べさせてもらう場面を目にしていたら、そのうち口から砂を吐きだすだろう。
「それで、私に何かお話でも?」
早速本題に入れとばかりに、2人に視線を向けると、やはりお父様がお母様に食事を食べさせようとしているところだった。
セーフ!!セーフ!!!
「あぁ、そうだった!そうだった!」
お父様は、差し出していた食事をきっちりとお母様の口に入れ、お母様の頬に口づけを落とした。
ア、アウト!!!
砂が喉元まで、上がってきた事は誰にもわからないだろう。泣・・・・・・
思わず、がっくりと頭が下がったところで、ごほんっとお父様が咳払いをした。
「リリナ。今日より数えて10日後、お前の為にパーティーを行う事にしたよ」
にっこりと笑うお父様の目は笑っておられなかった。
「パーティー・・・・?」
いきなりの事に思わず聞き返してしまう。
「あぁ、お前の婿選びがはかどっていないと聞いてな。一応、近隣諸国の王族、貴族に向けて招待状を送っておいた。リリナもしっかりと素晴らしい伴侶を選ぶんだよ!」
お父様!!お母様の頬に口づけを落とすのはやめてください!!
もう、こっちはいいお年頃なんだよ!!
そう言いたくなるのをぐっと堪え、私はにっこりと笑った。
「嫌です。そんなめんどくさいもの、お断りします」
その答えは分かっていたのか、今度はお母様が口を開いた。
「リリナ。決定事項です」
はい、逆らえません。お母様には逆らえませんよ。
「・・・・・わかりました」
ちなみに、現国王はお父様ですから。