第19話
子供たちが中にいる為、建物の外は時折中から子供たちの声が聞こえる以外、静かだった。
「っ・・・・・」
込みあがってくる物を、表に出さないよう必死に耐える。
分かっているのだ。
彼らだって、辛い思いをしている。
だが、どうしても、あの時の事を想いだしてしまう。私だって辛い思いをしたのだと言いたくなってしまう。あの時の事を憎んでいるのは貴方だけじゃないと。
「・・・・ふぅ・・・・」
何とか、心を落ち着かせるとふと、孤児院を囲う様に立っている柵の外が目に入った。
大きな通りより少し奥まった所にある所為か、あまり人が道を歩いている姿は見えない。
だけど、木々達の間から洩れる光に心癒される思いがする。
そんな時、大通りの方からこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。
「孤児院の関係者かしら?」
光が差し込んでいて、よく見えない。
あちらは、私が見ている事など気づきもしないのだろう。
そう思うと、少しおかしな気分になる。
誰も私などに気づかなければ、こんな嫌な気分になることなどないのかもしれない。
私に向けられる憎悪も、私が思わず考えてしまうあんな嫌な感情も・・・。
なぜか、気になってしまうその人影をじっと見つめていると、ふと、光が翳りその人影がはっきりと見え、息をのんだ。
「っ!!?」
孤児院に向かっていると思ったその人影は、私が息をのんだ瞬間に路地に入った。
私は、無意識のうちにその場から立ち上がり柵の傍まで駆け寄った。
その人が入っていった路地をじっと見つめるが、その人影は見えない。
「まさか・・・・・っ」
そんなはずはない。
だって、こんなところにいるはずがないんだから。
あの時に、確かに彼の死亡は確認されていた。
だけど、光が翳った瞬間に見えたあの顔に私は覚えがあった。
「・・・っクリス兄様・・・・・」
ありえない。
だけど、足が勝手に動き孤児院の門を目掛けて走っていた。
「姫様!!」
建物から出てきたレイナの声にハッと我に返る。
「姫様!!どちらに行かれるおつもりですか!!危険です!!」
慌てて追いかけてくるレイナの声が聞こえる。
だが、どうしても確かめたかった。
彼が曲がったあの路地の先にもしかしたらクリス兄様がいるかもしれない。
そう思うと華奢なヒールであの路地を目指して私は走り出していた。
だが、路地を曲がる所で、私はレイナに捕まった。
「っはぁ!姫様っ!!」
路地の先は真っ暗で何も見えない。
そこにクリス兄様の姿もなかった。
「・・・・・兄様っ・・・・」
ポツリと零れ落ちた言葉は、自分が思っているよりも弱弱しく、路地の闇に吸い込まれるように消えて行った。
「姫様っ!!お一人で外に出られるなんて危険すぎます!!」
私の手を捕まえたレイナは、息を切らしながら眉を吊り上げて怒っている。
「・・・ごめんなさい。レイナ。でも、どうしても・・・・どうしても、確かめたかったのよ・・・・」
肩を落とし、素直にそう呟けば、レイナは深く息を吐き、私の手を離した。
「とにかく、孤児院へ戻りましょう。皆も待っておりますよ」
優しくそっと私の肩を支えるように、孤児院へと足を向ける。
ゆっくりと孤児院へ向かう中、レイナは何も聞かずそっと私の後ろを歩いてくれる。
その気遣いをありがたく思う反面、私の心は先程見たクリス兄様でいっぱいだった。