第16話
「ひ~め~さ~ま~」
朝、目が覚めると、そこには髪を振り乱した幽霊がいた。
「失礼ですね!!誰が幽霊ですか!!」
・・・・・間違えた。心を読める侍女だった。
「だから、読めませんから!!読めるのは姫様のその豊かな表情のせいですから!!」
レイナは今日も朝から元気な様だ。
昨日は、エドモンドに席まで送ってもらい、その後は疲れたと席をはずし部屋へと戻った。
大体、最後まで王族がいては他の皆が楽しめないし、丁度いい頃合いではあった。
なにはともあれ、昨日は色々と精神的に疲れたので部屋に戻るとすぐに寝てしまった。
だからだろう・・・・。
「寝ないで下さい!!姫様!陛下と王妃様が御呼びですよ!!」
あ~・・・・。やだ、行きたくない。
どうせ、しなければいけないとは分かっていても朝早くから行きたくはない。
やっぱり寝ちゃいたい。
なんて、そんな考えはレイナにはお見通しだったらしい。
そうだよね。なんせ、心読めちゃうし・・・。
眠い頭をなんとか起し、朝食を取る為に着替えをする。
「あー・・・、めんどくさいなぁ。朝から報告とか嫌だなぁ」
レイナに着替えを手伝ってもらいつつ、そんな事を呟けば、なぜかコルセットがキュッと閉まる。
「何をおっしゃっているんですか!!姫様、陛下と王妃様をお待たせしてはいけません!!急いで下さい!!」
せかせかと私の周りを動き回るレイナを見つつ、私はゆったりと食堂へと向かった。
もちろん、そこにはすでにいちゃいちゃとする両親がそろっていた。
「お父様、お母様、おはようございます。朝早くから仲が宜しいですね」
軽く嫌味を交えつつ、朝のあいさつをすれば、お父様もお母様もにこにことあいさつを返してくる。
「それで、どうだった?リーナが心ひく者は現われたか?」
お母様にあ~んをしつつ、私に投げかけてくる質問に思わず眉を寄せる。
「・・・・残念ながら、その様な殿方はいらっしゃいませんでしたわ」
そう答えれば、お母様がもぐもぐと今しがたお父様から食べさせられていたものを咀嚼しながら頷いた。
ごくりとそれを飲み込めば、上品に口元を拭いお母様が私に視線を向ける。
「そうでしょうね。ダニエルとばかりダンスしていたんですもの。もう、ダニエルが貴女のお相手でいいんじゃないかしら?」
コトンと首をかしげるお母様に、お父様はうっとりだ。
「お母様。それは断固お断り致しますわ!!」
冗談じゃない。確かに兄様としては頼りになるが、夫としてはいかがなものか。
夜な夜な綺麗な蝶を未だに捕まえているのを、私は知っている。
どうせ、昨日言っていた『足止め』とやらも蝶に囲まれていたのだろう。
「そう?それならば早くお探しなさい。そろそろ、重臣達が動き始めていますよ」
その言葉に、思わず顔をしかめてしまった。
まだあと2年もあると言うのに・・・・・。
「2年などあっという間です。貴女が見極め切れないのであれば最終的には私達の決めた相手と結婚してもらいますからね」
私の心を読んだかの様に、追い打ちをかけられた。
これはそろそろ本当に決心しなければいけないのかもしれない。