第14話
声の主を見ると、見覚えのない顔がそこにあった。
思わず、首をかしげると、彼はにっこり笑った。
「リリナ姫。こちらの飲み物で宜しかったですか?」
何が何だか分からず、思わず差し出されたグラスに手を伸ばそうとすると、ブランドンに手を引っ張られた。
「誰だ!?失礼な奴だな!リリナ様は今から我が領地の最高級ワインを飲まれるんだ。そんなものは必要ない」
いつ、誰がそれを了承したんだ?と思うと、ブランドンが私の手を引きそちらに連れて行こうとする。
が、彼が間に入りするっと、私の手をブランドンから解いた。
「失礼。女性相手にあまりにも強引ではありませんか?リリナ姫もあまり乗り気ではないように見えるが?」
いとも簡単に私から離されたブランドンは怒りのあまり顔を真っ赤にした。
「何をっ!?お前、一体私を誰だと思っているんだ!!私は、マクレラン公爵家嫡男、次期公爵のブランドンだぞ!!」
まるで、それを言えば誰もが平伏すかのようにブランドンは、胸を張って高々に宣言する。
「・・・・存じ上げておりますが?」
ブランドンの宣言に彼はまるで、それがどうしたとばかりに首をかしげる。
その態度に更に腹がたったのか、ブランドンは更に声をあげた。
「きっ貴様!私を誰だか知っていてその態度か!名も名乗れぬものがリリナ様のお相手が出来ると思うな!!」
ブランドンの言葉に、彼は今気づいたかとばかりに目を開く。
「あぁ、これは失礼。申し遅れましたが、私はエドモンド・エインズワースと申します。爵位は公爵の位を頂いております」
彼の言葉に、私もブランドンも驚きに目を丸くする。
が、いち早くブランドンは立ち直り、口を開いた。
「な、何を馬鹿な!!エインズワース公爵は、病床に伏せっているはずだ!!お前の様なものが公爵の名を語るなどおこがましい!!」
ブランドンの言葉は確かに私の記憶しているものと一致する。
エインズワース公爵は、御年57歳で55の時に病気を患い、領地で現在療養中のはずだ。
それが、どう見ても20代後半にしか見えず、ぴんぴんとしているなど、どう考えてもおかしい。
「あぁ、ご存知なくて当然です。つい、先日、父より爵位を賜りましたから」
「父っ!?」
再び驚くブランドンに、私は頭の中でエインズワース家の家系を思いだす。
確かに、エインズワース家では息子がいたが、身体が弱く、社交場にでることも叶わないときいていたが、まさかそれが、この人だとでも言うのだろうか?
思わず、彼の顔を見上げると、彼はにっこりと笑い頷く。
「そう言う事で、納得していただけるだろうか?リリナ姫もお疲れのご様子だ。私達はこれで失礼する」
そういうと、固まったままのブランドンを放置したまま、エドモンドという男は私を連れてその場を後にした。