第10話 過去1
あれは、まだ私が10にも満たない頃だった。
あの頃は、お父様は王位継承権はそのままに公爵の位を頂いていた。
私も、公爵令嬢として振舞っていたころだった。
王宮の庭に賑やかな声が響きわたる。
「ダニー兄様!!待ってよ!!」
一生懸命私は彼の後を追いかける。
「・・・・お前は付いてくるなって言ってるだろう!!」
「嫌よ!!私も絶対に行くんだから!!」
「それくらいにしときなよ。2人とも」
2人の喧嘩をいつも宥めてくれるのは、クリス兄様だった。
兄様と呼んでいても彼らとは兄妹なわけではない。
正確に言うと、従妹に当たるだろう。
母の兄で、アサートン公爵家ブライトナー様の息子、ダニエル。通称ダニー兄様
父の兄で、現国王クレイグ様の息子、クリストファー。通称クリス兄様
クリス兄様とダニー兄様は同じ年と言う事もあり、生まれた時から仲が良かった。
そんな中、私が2人の兄様達より5年遅れて生まれ、ある程度の年になると一緒に遊んでもらう様になっていた。
「クリス!!こんなじゃじゃ馬を傍に置いていたら、綺麗な蝶も逃げてしまうだろ!!」
「何よ!!ちょうちょを捕まえに行くんだったら私も連れて行ってくれてもいいじゃない!!」
幼い私は、ダニー兄様の言葉をそのまま捕えていた。
「ダニー。そもそもダニーの言う蝶を捕まえる為に行くのではないからね?」
その言葉に、ダニー兄様はグッと言葉を詰まらせた。
そして、クリス兄様は私に目線を合わせるとにっこりと笑った。
「リーナ?僕たちは用事があって行かなければいけない所があるんだ。それはリーナにとって危険があるかもしれない。だから、大人しく城で待っていてはくれないだろうか?」
優しく言い聞かせるようにそう言うクリス兄様に私は、コクリと頷いた。
「・・・・わかったわ。クリス兄様がそう言うなら、お城で待ってる。でも!!早く戻って来てね!!」
素直にクリスの言う事を聞く私に、なにやらクリスの後ろでダニーが叫んでいたがそれは聞こえていない。
「いい子だね、リーナ。戻ったら一緒に遊ぼう。では、行ってくるよ」
そう言うと、クリス兄様は私の頭にポンポンと手を乗せた。
私はクリス兄様にそれをされるのが大好きだった。
「うん!行ってらっしゃい!!」
そう言うと、2人は城の門の方へと歩いて行った。
私は、2人の背中に必死に手を振った。
そして、約束通り2人は戻ってくるとわたしと遊んでくれる。
そんな平和な毎日がずっと続くのだと、子供の私は思っていたのだ。
そう。3年前のあの日まで。