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第七話 SSランクの戦い。極東の悪魔vsアイリス・デル・プライド。

 レイファルス魔法学院。職員塔、中央会議室。

 議長席で話を進めるプライドに、全職員の視線が集まる。会議室の空気は静かで重い。

「以上が今回の概要である。特に本件に関わったアリア・イル・フリーデルト。オルカ・イヴ・クストの両名は再び命を狙われる可能性もある。そのことを踏まえ、会議終了後よりしばらくの間交代で警備にあたってもらいたい」

 プライドのその言葉に、会議室が動揺とざわめきに包まれる。

「学院長は私たち職員に戦えというのですか!?」

 声を上げたのはの若い男性職員。

「そうよ、無茶よ! 懸賞金七億なんて……ば、化け物も同然じゃない!」

 その声に続いたのは、中年の女性職員だった。この二人を皮切りに、ざわめきが更に大きく広がっていく。

 やれやれ。さすがに冷静でいろという方が無理かの……。

 隣にいた秘書のノエルがプライドの心中を察したように口を開く。

「魔法学のスペシャリスト達とはいえ、戦闘経験のある職員は数えるほどでしょうからね。いかが致しますか、学院長?」

 プライドはわざと大きく咳払いをした。騒然としていた会議室が一瞬にして静寂へと変わる。自身に集まる職員たちの視線を見渡し、プライドは再び話し始めた。

「別に戦えといっているのではない。我々が守っていると相手に見せつけることに予防の効果があるのじゃ。学院の職員が警戒態勢に入っているとわかれば、どんなに強いものでも攻め込みにくくなる」

 職員たちはお互いの顔を見合わせる。もう一押しで説得させられると直感したプライドはさらに言葉を続ける。

「確かに危険な仕事であることに変わりはないが、生徒を守るのは我々教師の仕事じゃ。大切な生徒たちのために皆には協力してもらいたい」

 最後まで話し終えると、職員たちの表情は変わっていた。ある種の覚悟のようなものが見て取れる。もう誰も文句を言うものはいなかった。

 ふぅ。なんとか説得できたの。

 その様子をみてプライドはにっこりと笑った。

「皆の協力に感謝する。では次に、詳しい配置についてじゃが……」

 プライドが続きを話そうとしたその時、大きな振動と低い地鳴りのような音が会議室に響き渡った。

「きゃああっ!」

「じ、地震!?」

 職員たちが悲鳴を上げる。

「この音は地震じゃないです。建物が崩れる時のような……」

 そう言って、ノエルが冷静に音のする方に振り向く。

 プライドはノエルが向いた方角を見てあることに気が付く。

「油断したの。よもやこんなに早く来るとは……」

 その先にあるもの。学生寮だった。

「全職員に命じる! 全速力で学生寮に向かうのじゃ! アリア君が危ない!」

 職員たちの目の色が変わる。プライドとノエルを含めた総勢三十七名の職員は一斉に会議室の外へと駆け出した。

 職員塔から出ると、土煙が広がっていた。煙が次第に晴れ、駆け付けた職員たちの目に驚くべき光景が映った。

「これは……」

 プライドもその眼を疑った。辺りの木々や大地は凍りつき、塔の形をした学生寮はその最上部が倒壊し、地面へと突き刺さっていた。

「おい、あれを見ろ!」

 一人の職員が学生寮の上部、倒壊した付近を指さして叫んだ。

 その場にいた全員の視線がそこに集まる。次の瞬間、職員たちは言葉を失った。

 状況から察するに、こやつが極東の悪魔アイスランドか……。

 闇夜に煌々と輝く赤眼。暗闇と同化した漆黒の肌。風になびく不自然なほど真っ白な長い髪。そんな人とは思えぬ姿をした何かが、半壊した部屋の中からこちらを見下ろしていた。

「あ、悪魔っ……!」

 職員の一人が腰を抜かして倒れ込む。他の職員たちも目の前の異形の姿にたじろぐ。

 はっとしたようにノエルが声を上げる。

「学院長!やつが立っているのはアリアさんの部屋です!」

 プライドの目が大きく見開かれる。よく見ると、極東の悪魔はその腕になにかを抱えていた。

「アリア君っ!」

 プライドの言葉に、他の職員たちも遅れてアリアの存在に気づく。

「この娘はもらっていく……」

 極東の悪魔アイスランドが抱えたものを前に出して言葉を放つ。

「彼女を守れ!」

 プライドは咄嗟に叫んだ。

 その場にいた職員が一斉に詠唱を開始する。幾重もの魔方陣が闇夜を照らす。

 詠唱が完成するその間際、極東の悪魔アイスランドは右手をかかげた。

 突如職員たちの目の前の空間が凍りつき、弾き飛ばされる。

「うわっ!」

 極東の悪魔アイスランドの氷によって、職員たちの詠唱が強制的に切られた。

 ただ一人を除いて……。

「学院長!」

 詠唱を完成させたプライドの足元が盛大に光り輝く。

火炎竜イグニス・ドラゴ

 プライドが解放キーを唱えると巨大な炎の竜が発生した。プライドはその頭部に飛び乗り、極東の悪魔アイスランドに向かって勢いよく飛んでいく。闇夜が燃え盛る炎で真っ赤に染まる。

 一瞬にして極東の悪魔アイスランドの眼前まで迫り、至近距離で二人が相対する。極東の悪魔アイスランドは目の前の火炎竜を悠々と見上げた。頭部に乗るプライドに涼しげな視線を送る。

 舐められたものじゃな。

「その子は大切な生徒じゃ。返してもらうぞ、極東の悪魔アイスランド!」

 火炎竜は大きな口をあけ、そのまま部屋ごと極東の悪魔アイスランドに噛みついた。 

「やった!」

 職員が一斉に歓喜の声を上げる。しかし、プライドは表情を曇らせた。

「無駄だ」

 炎の中から極東の悪魔アイスランドの声が静かに響く。

「む……!?」

 なんじゃ、これは……!?

 職員たちもそれに気がつく。

「なんだ、あれは……氷のか、殻!?」

 炎の竜はあと少しというところで口を完全に閉じきれぬ状態のまま、それ以上噛み潰せずにいた。極東の悪魔アイスランドを守るようにして氷の殻が発生していたからだ。燃え盛る炎に触れ続けていても、氷は一切溶ける様子はなかった。

「人間に、これは貫けない……」

 極東の悪魔アイスランドがプライドの目を見据えて呟く。

「なら、これを貫けたらワシは化け物ということかの?」

「なに……?」

 プライドのその言葉に、極東の悪魔アイスランドが目を細める。

 詠唱をしていた様子はない。じゃが、この氷の殻もおそらく魔法。それなら、なんとかできるかの。

「我は支配する。あらゆる魔力の源を……」

 詠唱を始めたプライドの足元に魔方陣が発生する。同時に、プライドの体内に流れる血液が熱を帯び、体温が急激に上昇する。血統別特殊魔法、血族魔法ブラッドスキルの発動に伴う副作用である。

 奴は人間には貫けないと断言しおった。ならば、ワシの詠唱を無理に止めはせんはずじゃ。この距離でワシの魔法が使えさえすれば、奴を倒せる。

 瞬間、プライドの表情がほんの僅かに緩んだ。その些細な表情の変化を、極東の悪魔アイスランドは見逃さなかった。

「魔を操り、魔を制す……」

 詠唱を続けるプライドに、極東の悪魔アイスランドが右手を向ける。

 しまった。気づかれたか……。

「お主。貫けないと言っておいて詠唱すらさせぬのか?」

「すまない、忘れていたよ。確かめるまでもなく、お前はSSランクの化け物だった」

 プライドの皮肉に、極東の悪魔アイスランドも皮肉を込めた言葉を返した。

「逃げてください、学院長!」

 様子を見ていたノエルが叫ぶ。

絶対空間凍結コングラシア

 夜空に鈍い音が響く。

 極東の悪魔アイスランドが放った魔法は、燃え盛る竜を巨大な氷の塊へと変えた。浮遊する力を失った氷はそのまま地面へと落下して砕け、細かい氷の粒子となって散った。

「さすがに避けたか……」

 極東の悪魔が先ほどの場所から見下ろしていた。その視線の先にプライドはいた。学生寮から数メートル離れた地面で膝をついている。

「次は、もう一人の少年をもらいに来るぞ」

「お主は、一体……」

 プライドは極東の悪魔アイスランドをじっと見据える。

 極東の悪魔アイスランドはふいに視線を外し、アリアを抱えたまま跳躍した。一瞬にして、その姿は闇へと消えて行った。 

「学院長。御無事ですか?」

 ノエルがプライドの元に駆け寄り、声をかける。

「うむ。ワシは平気じゃ。それよりも状況が知りたい。職員に指示をだし、倒壊した学生寮を調べるんじゃ。生徒の安否の確認を急いでくれ!」

極東の悪魔アイスランドの方はいかが致しますか?今からで追っ手をつけますか?」

「いや、それはワシがなんとかしよう。君は急いで頼んだ内容を頼む」

「わかりました」

 ノエルは返事をするなり、職員の方へと駆け出した。

 プライドは学生寮を見上げる。

「アリア君……なぜ君が……」

 その言葉は誰にも聞かれることなく、夜の闇へと吸い込まれていった。

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