第二十六話 独房。一人。
五月三日。午前三時。
首都レイファルス。地下監獄カルセラ。
看守もいない。他の囚人もいない。あるのはボロ切れみたいな毛布一枚と、蟲の集った質素な食事だけ。囚人服を着せられたアリアは、地下七階にあるこの静かな独房で、一人膝を抱えていた。
『おい、アリア』
「……」
『アリア! 聞いてんのか、アリア!』
「……」
何も答えないアリアに構わず、セルシウスは言葉を投げた。
『逃げようぜ。このままだとお前、殺されちまうんだろ?』
アリアはここに来てから一度も食事を摂っていなかった。一昨日の夜、食事を届けに来た看守が「五日後、お前の公開処刑がある。それまでは生きててくれないと困る」と言っていた。
自身の死を宣告されたにもかかわらず、アリアは特に反応を示さなかった。
当然、未だに食事には手を付けておらず、放置されたまま蟲の餌となっている。
どう見ても、生きるという意思が感じられない。
「……もういいの。オルカに嫌われちゃったから、生きる意味ないもん」
弱々しく、アリアはポツリとそう答えた。
アリアの態度に、セルシウスは苛立ちを覚えた。
『なんだよ、それ。あんなに頑張ってきたのに、そんな簡単にあきらめんのかよ』
「……」
セルシウスは盛大に溜息を吐いた。
『アリア、今のお前つまんねぇぞ。初めて会った時のお前は、こんくらいであきらめなかっただろうがよ』
「……」
何を言っても反応を示さないアリアに対し、セルシウスはとうとう声を荒げた。
『だんまりかよ。なら、俺はもう知らん! 契約は失効させてもらうぞ!』
「……」
だが、アリアはやはり何も反応を示さなかった。
セルシウスは舌打ちをして、契約失効の解放キーを唱えた。
『ちっ……。契約失効』
アリアの体が光に包まれる。その光は徐々に輝きを失い、数秒後には完全に褪せた。
代りにセルシウスの実体が、アリアの前に現れる。
「これで、俺とお前の契約も終わりだ。力を失ったお前は、ただの人間。もう逃げ出すこともできないぞ」
アリアの脳内にではなく、独房にセルシウスの声が響く。
「……」
動かないアリアに背を向け、セルシウスは口を開いた。
「じゃあな。少しは楽しかったぜ、人間」
そう言って、フッとその姿を消した。
セルシウスがいなくなった独房は気味が悪いくらい無音であった。
「静かに……なっちゃった……」
アリアのその言葉に、返してくれる声はない。ただ、ひたすらに無音だった。
セルシウスが近くにいるのが当たり前だったから、一人だとこんなに静かなんだって忘れてた。
静かだな……。
一人って、静かで……寂しいんだな。
そんなことを思ったら、急に泣きたくなってきた。アリアは泣いちゃいけない気がして、ボロボロの服の袖で涙を拭った。拭っても拭っても涙が溢れてきたから、ずっと拭い続けるしかなかった。
なにやってんだろ、私。好きな人だけじゃなくて、友達まで無くしちゃった……。
「今の私……ひとりぼっちだ……」




