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第二十四話 思い出。静かな魔法学院。

 四月二十七日。午後一時。

 レイファルス学院付近。レイオット高原。

 アリアは学院に向かって歩いていた。

『おい、アリア。質問してもいいか?』

「なあに?」

『今から学院に帰るんだよな?』

 アリアは頷いた。

「そうだよ」

『確かお前、さらわれたことになっているよな? いいのか、ひょっこり現れちまって』

 セルシウスの質問は的を得ていた。しかし、アリアは既に対策を用意してあった。

「うーん、問題ないと思う。説明を求められたら、極東の悪魔アイスランドが監禁場所に何日も戻ってこなかったから、逃げてきたって言うから」

『……そんな雑な嘘で本当に大丈夫かよ?』

「平気だよきっと。極東の悪魔アイスランドが深手を負ったのは事実だし、誘拐した少女に構っていられなくなったとしても不思議はない。辻褄は合っているでしょう?」

『確かにそうだが……。いや、お前が大丈夫っていうなら平気か。無用な心配だったな』

 もう極東の悪魔アイスランドが世に姿を現すことはない。これで、大けがを負った極東の悪魔アイスランドは数日の間逃げ回った末に力尽きて死亡した……っていうシナリオが完成する。

 そう。もうやるべきことはすべてやった。

 終わったんだ、全部。

 その時、見慣れた建物がアリアの視界に映った。

「あ、見えて来た! 学院だよ!」

 アリアが指差した先に、学院があった。

「早く行こう、セルシウス」

『おう!』

 アリアはそう言って、学院に向かって走り出した。



「着いた」

 アリアは、そびえ立つ校門を見上げた。約一ヶ月ぶりの学院は、叫びだしたくなるほど懐かしいものに見えた。

 不思議……。一ヶ月も経っていないのに、ここに通っていたことがなんだか随分昔のことのように思える。

「色々なことがあったね……」

 そんな言葉が思わずアリアの口からこぼれる。

『そうだな』

 感慨深そうに、セルシウスも返事をした。

「クエストで立ち寄ったアーデルベルク島で、召喚術師に命を狙われて」

『俺と契約したな』

「あの時、私、セルシウスに殺されるかと思ったよ」

『お前がいきなりワケわかんないこというからだろうが。それに、俺はもともと人間が嫌いだしな』

「ははっ、そうだったね。でも、私だって必死だったんだよ?力を貸してくれて本当に嬉しかった。ありがとね、セルシウス」

『ふん、うるせぇ!』

 照れたように言うセルシウス。アリアは口元をおさえて、クスクスと笑った。

「そういえばここを出るとき、連れ去られたことにするために学院長先生と戦ったね」

「ああ、あのジジイな」

「ジジイって言わないの!」

『わかったよ。それにしても、戦いっぱなしだったな』

「うん。たくさん戦った。戦って、そして、数えきれないくらい人を殺した」

『なんだ、後悔してんのか?』

 アリアは首を振った。

「ううん、してないよ。あるとしたら罪悪感かな……って、セルシウスにはわかんない感覚かもね」

『わかんねぇな。弱い奴を殺すのに、罪の意識なんか持つのか人間は? 弱肉強食じゃくにくきょうしょくが自然の摂理せつりだろ』

「うーん。た、たぶん」

『今まで戦ってきたやつらは、そんなの持ってなかったように見えるけどな。平気でお前を殺そうとしてたぞ? 特にエクイテスなんかは』

 うー、そんなふうに言われるとなんだか自信無くなってくるよ。

 けど、エクイテスか……。みんな強かったなぁ。

「確かに、死ぬかと思った場面が何度もあったね」

 アリアはふとお腹をさすった。腹部を吹き飛ばされた時のことが、生々しく脳裏に蘇る。

『お前はいつも無茶苦茶やりすぎなんだよ。頭いいんだから、もう少し後先考えて行動しろ』

「はーい、ごめんなさい」

『……お前、反省する気ねぇな?』

「えへ、ばれた?」

 心を読まれたアリアは、舌をペロリと出して笑った。

 はっと思い出したようにセルシウスが口を開いた。

『そういや、あれだな』

「ん? なぁに?」

『お前、大事な場面で噛まなくてよかったな』

「え!?」

『いや、だってよ。シリアスな場面で極東の悪魔アイスランドが、「お前をころちゅ!」とか、噛んだら台無しだろ?』

 アリアは顔を真っ赤にさせて、両腕を振り上げた。

「もう! 私そんなに噛まないもん! ふちゅうだもん!」

『ほら、また噛んでる』

 セルシウスは可笑しそうに大声で笑った。

 つられて、アリアも笑った。

 そうだ。いろんなことがあった。 

 それでも、私はここに帰ってこられた。

「……私、オルカを守れたんだ」

『ああ。よくがんばったじゃねぇか、アリア』

 アリアはこみ上げる涙をぐっとこらえた。涙はオルカに会ったときのためにとっておきたくなったのだ。

『オルカに会うために、今までやってきたんだろ? 早く会いに行けよ』

「……うん!」

 アリアは駆け出した。

 まだ一か月経ってないから、目は覚めてないかな?

 ううん。目覚めてなくても構わない。ただ、オルカに会いたい。



 何分もしないうちに、アリアは医療塔内にあるオルカの病室の前まで辿り着いた。

 すぐ目の前に、待ち望んだオルカがいる。扉を開けさえすれば、オルカに会える。

 しかし、アリアは扉を開くことを躊躇ちゅうちょしていた。奇妙な違和感を感じていたからだ。

『なあ、アリア。妙じゃねぇか?』

 どうやら、それはセルシウスも感じていたようだ。

 アリアはゆっくりと頷いた。

「……うん」

 静かすぎる。というか、ここまでくる間に、誰にも会っていない。

 この学院は私に一度に襲われている。だから、警戒して休校状態という可能性も考えられる。けど、医療塔にまで人がいないなんて、やっぱり何かおかしい。

 どうしよう……胸騒ぎがする。嫌な予感がアリアの脳裏をよぎった。

 耐え切れなくなったアリアは病室の扉を開いた。

「オルカ!」

 目に飛び込んできた光景に、アリアは自身の目を疑った。

 そこにオルカの姿はなく、代わりに背の高い灰色の老人が立っていたのだ。

 アイリス・デル・プライドである。

 な、なんでここに学院長が? いや、そんなことよりもオルカはどこに!?

 アリアのそんな考えを吹き飛ばすように、ゆっくりとした口調でプライドが言葉を発した。


「待っておったよ、アリア君………………いや、極東の悪魔アイスランド


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