第二十一話 交錯する叫び。アリアの意地。
「ミシェル……レイ・ファルス?」
アリアは目を疑った。つい先ほどいないと聞かされたばかりの人物が、すぐそこにいるのだ。
背が高く痩せ細った体。銀色の髪と翡翠色の瞳。やはり、オルカやカルマに雰囲気が似ていた。
驚いていたのは、アリアだけではなかった。シャーロッテも信じられないものを見るような目でミシェルを見ている。
当のミシェルはシャーロッテの問いに対して、緊張感のない答えを返した。
「なぜって、見物に決まってんだろ! あの極東の悪魔が死ぬところを見れるんだ。来ない理由がないだろう」
「馬鹿が! 早くここから離れろ! こいつの狙いはてめぇなんだぞ!?」
シャーロッテが大声で叫ぶ。
ミシェルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ふん。口のきき方に気をつけろセカンド! 私は皇子だぞ? それに、今のそいつにいったい何ができるってんだよ! もう虫の息じゃねぇか」
「ちっ。馬鹿皇子が……」
アリアは二人のやり取りをぼうっと見つめていた。
『おい、なんだか知らねぇがこれはチャンスじゃねぇか? 相手が動揺してやがる。なんとか隙をついて逃げろ、アリア』
セルシウスがアリアを促すように言った。
だが、その言葉はアリアの心に届かなかった。
やっと……やっと、見つけた……。
あいつを殺せば、全てを終わらせられる。オルカの所に……帰れる。
「……殺さなきゃ」
アリアの腕がゆっくりと持ち上がる。
動……け。動け……動け、私の体!
力を振り絞り、自身の体を貫いているシャーロッテの右腕に手を添えた。
「なっ!? こいつ、この状態でまだ――!?」
「凍れ……絶対空間凍結」
シャーロッテは勢いよく腕を引き抜き、アリアの手を振り払った。
その刹那、二人のいた空間が音を立てて凍てついた。反動で、アリアの体が吹き飛ぶ。胸に空いた穴から、多量の血が飛散した。
アリアは体を起こしながら、ミシェルへと目を向けた。
ミシェルとアリアの目が合う。ミシェルは慌てて声を荒げた。
「な、なにをしているセカンド!? そいつを逃がすな!」
逃げる……?
アリアは笑みを浮かべた。
お前を殺せば、オルカの所に帰れるんだ――
「誰が逃げるかぁ!」
アリアは叫び、右手をミシェルへと向けた。
ミシェルが短い悲鳴を上げる。ミシェルが後ずさりをした。
『なにしてやがる、アリア!? 逃げろ!』
「セセセ、セカンドォ! 早く、早く私を守れぇ!?」
「クソがっ! 極東の悪魔、てめぇ! あたしと戦え!」
いくつもの叫び声が交錯する。
だが、回りの音は最早アリアの耳には届かない。
アリアはかざした腕を左手で支え、足を広げて踏ん張った。ミシェルをじっと見据え、空間が氷結するイメージを創りあげる。
「絶対空間凍結!」
「や、やめろぉ! ファースト、話が違っ――」
ミシェルの声を遮るように、ガンっと鈍い音が響いた。出現した氷塊の中に、動けなくなったミシェルの姿が浮かぶ。
や、や……った――
安堵の息を零したその瞬間、アリアの体が逆くの字に曲がった。背後から、シャーロッテの一撃を食らったのだ。
「──!?」
「極東の悪魔ぉ、てめぇ!」
全身から骨の砕ける音が上がり、頭の天辺から爪先まで痛みと衝撃が走る。
蹴られた小石のように、アリアの体が勢いよく吹き飛んだ。
激突音とともに氷の破片と土煙が舞い上がる。
「うぅ……」
凍った建物の壁に頭から激突し、アリアは意識を失った。
シャーロッテはゆっくりと歩き、倒れたアリアの髪を鷲掴みにして持ち上げた。
「死んだのか? ちっ、やりたい放題やってくれやがって……」
怪訝そうな目を向けて、シャーロッテは言い放った。
その時、閉じていたアリアの瞼が開き、ギロリとシャーロッテを睨んだ。
「痛てぇな、人間。離しやがれ」




