私が恋に破れた理由
私が一時的に人間を辞めて猫になってから、既に二日経っていた。
正確には既に五日経過しているのだが、この事態を真っ直ぐに受け止めてからは、二日だ。私は昨日一日かけて、黒猫から獲物の狩り方というものを教わった。
黒猫は私が猫として生きる事に関しては協力的な態度を示していて、教え方も丁寧で、上手だったと言って良いだろう。曰く、ゴキブリや鼠、雀は数こそ多いが、すばしこいから狙いにくい。この時期は、比較的鈍重な鈴虫やコオロギ、バッタが狙い目らしい。
昨日一日かけて何とかそれらの昆虫を仕留める事が出来た私は、その日も生き延びる事が出来た。不思議なもので、一度そう言うものを食べてしまってからは、次からも抵抗なく食せる。虫だろうが鼠だろうがトカゲだろうが、今の私には明日への命を繋ぐ大事な食糧である。今朝も油断しているバッタを三匹程後ろから喰らって腹を満足させた私は、祠から町に向けて足を伸ばすことにした。
「……何処行くんだ?」
祠の中でひなたぼっこしている黒猫が、欠伸混じりでそう問うた。
私は一度振り返ったが、答える気はしなかった。すぐに黒猫に背を向けて、祠を後にする。黒猫も興味を失ったのか、それきり何も問わずにひなたぼっこの続きをはじめる。
私は山から下りて、私の住まう町に向けて小走りで駆け出した。
記憶が正しければ、今日は日曜日。私が人間のままだったら、神宮寺先輩とデートをする筈の日である。
少し心に余裕が出来た今、私は好奇心に身を任せて町に向かう。好奇心は猫をも殺す、なんて言葉を心に思い浮かべつつも。
*
猫の視点から見る住み慣れた町は、全く別の町に見えた。
猫の視線だからこそ気づくもの、と言う物は案外沢山ある。
例えば、塀に穴が空いていたとする。人はそれを見ると、家主がずぼらな性格なのかな、とかどうやればこんなとこに穴が空くんだろうか、とか色々と思うだろう。しかし猫は家主のことを邪推する事なんて全く無い。ただそこに、穴がある。通れるか通れないか、活動範囲が広げられるかどうかだけが重要である。猫にとって大切な物事は、それが自分にとっていかなる関係を示しているか、と言う事だけだ。
幸いなのかどうなのか、今の私は人間の価値観と猫の価値観を共有する事が出来る状態にある。
町を歩いて新鮮な気分を味わうのは、ここ数日で参っていた私の気分転換にはかなり役に立った。公園の時計で確認すると、時間は午前十時。日が暮れる頃には寝床に帰った方が良いだろう。
「ここまで来ると、帰ってきたって気分になるなぁ」
いつも通学や買い物の時に通る道で立ち止まって、私はふと自分の事を振り返った。
私がこの姿に変わってから、かれこれ五日。私と言う意識がここに存在する以上、高校生としての私は一体どんな扱いになっているのだろう。黒猫に聞けば嘘をつかずにちゃんと教えてくれただろうが、やはり自分の目で確認したい。
今日は日曜日で人通りも車通りも多い。猫の体というものはこう言う時は便利なもので、私は先程から人の家の庭や軒先、屋根の上を飛んで町を歩いている。
見咎める者もいないし、何より安全だ。しかし、こうして高い場所から下を見下ろすと、ますます野良の動物の少なさに驚かされる。時折すれ違う猫は須く首輪を付けている。そして私が野良と見るや、飼い猫達はすぐさま目を逸らし、そそくさと逃げ出すのだ。ここに住んでいた野良猫達は、ヤクザ扱いされてしてしまうような輩だったのだろうか。それなら保健所行きも納得ではあるが。
「……っと、それよりも、私の家は」
この町の野良事情を憂いていても仕方ない。私が自宅に向けて足を伸ばすと、ふと視線の端に私の見知った顔が目に映った。
「あれは……」
背の高い若い男が、私の座する石垣の面する細い道路を歩いていた。
細くて長い脚はジーパンに包まれており、全体的に細いが肩幅の広い体を、茶色のダッフルコートが守っている。首に巻いた赤いマフラーから覗く男の顔色はあまり良くないが、ジャニーズ系の顔が男の周りの空気を華やかのものに彩っている。時折漏れる物憂げな溜め息さえも様になるその男は、首をマフラーに埋めて寒さを耐え忍びながら早足で歩いている所を見ると、何処かを目指しているようだ。
「神宮寺先輩だ……」
私が本来今日、デートする筈だった、私の彼氏(予定)、神宮司祐介だ。
どうにも顔が優れないのは、恐らく今日デートする筈だった私が猫と化しているからだろう。
行方不明にでもなっているのだろうか。それを聞きたくて、私は私の目の前を通り過ぎていく神宮司先輩に思わず鳴き声を発してしまった。
「みゃぁ!」
「あれ……?」
神宮司先輩がこちらに気づいた。私の方を見て少し怪訝な顔をしている。
「珍しいな……まだ、この辺に野良猫がいたのか……」
「にゃーん」
「しかも、妙に人懐っこい……」
そう言いながら私の方に手を伸ばす神宮司先輩。
頭を撫でる先輩の手つきは優しかった。普段ラケットを握る右手はマメだらけで少し固いけど、私は久しぶりの人間の手の感覚を存分に傍受した。時折耳の裏も掻いてくるその手つきはなれたものだ。もしかしたら彼は猫でも飼っているのかもしれない。
先輩は私が大人しく撫でられているのに気を良くしたのか「おーよしよし、いい子だなー」と猫撫で声で私を可愛がり出す。
うん、なんていうか、これ、良いよ。マジで良いわ、これ。心が温かくなる。
そうか、これが萌えか。なるほど、私は今先輩に萌えているんだな。そして恐らく先輩も私に萌えている。新たな境地であった。もし私が無事人間に戻って先輩と付き合ったら、エッチの時にネコミミ付けてこう言うプレイを迫ってしまうかもしれないぐらい私は気分が良かった。
……のだが、そうして互いに萌え合っていられたのは、精々十秒程度だ。
「……っと、そろそろ行くか。
野良で大変だろうけど、お前も頑張れよ。じゃな」
「にゃぅ」
最後に私の頭を強めに撫でて、先輩の右手が離れる。私から漏れた声は、名残惜しさに思わず声が出てしまっただけだ。しかし先輩はどうやら返事をされたと思ったようで、そのまま私の方を振り向かずに歩き出す。
「みゃあぁぁぁあ」
「ん……?」
私は自分でも気づかぬうちに、先輩の後を追っていた。自分の足元にまとわりつく白い猫を見下ろして、神宮司先輩は少し困ったように眉を下げた。
「お前は、俺ん家じゃ飼えないぞ?」
「みゃーぁ」
「……やれやれ」
先輩は私から目を離して、再び早足で歩き出す。先程同様に暗い顔をしている。彼の暗い顔は、白い野良猫とのスキンシップで晴らす事はとても出来そうにないらしい。まぁ、それもそうだ。好きだった女子が行方不明なんて、落ち込まない方がどうかしている。
しかし、ここで私の頭に疑問が浮かぶ。
今日のデートの約束はふいになってしまった筈なのに、彼はそんなに急いでどこに行くんだろうか。少し考えてみるが、どれもこれもシックリくる案ではない。
「着いてくる気か?」
「みゃぅ」
先輩は呆れたように私を見下ろしていたが、自分の足元を追いかけてくる白猫を決して邪険には扱わなかった。
私はまさしく忠犬のように、彼の後ろ二歩を歩く。先輩の足は速かったけど、私は必死で着いていく。好奇心というより、もはや探究心に近い何かを胸に秘めながら。
*
先輩は一軒の家の前で立ち止まる。
閑静な住宅街のうちの一軒。中流階級層の極々一般的な家でしかない家の門を押し開け、神宮司先輩はドアのチャイムを鳴らす。
私は相変わらず先輩の足元に纏わりついていたが、妙に落ち着かない気分だった。普通の門構え、普通の石垣、普通の庭園、普通の玄関。何もかもが、普通。私の家と遜色無い。私はふいに首を上に向けた。先輩の無表情な顔と、その奥にこの家の表札が見えた。
外山。
そう書かれている。じゃぁもしかして、この家って。
「……いらっしゃい」
玄関の扉が開いた。奥から出てきたのは、私がよく見知った顔の女だ。
外山菜穂先輩だった。
私の一つ上の部活の先輩で、朗らかな屈託ない行動が魅力的で、少し面倒臭い性格の持ち主である。
上下灰色で、少し丈を持て余し気味のスウェットに身を包んだ彼女は、気怠そうに神宮司先輩を出迎えた。その表情は私の知るものではない。学校での外山先輩は体内に原子力発電機でも埋まってんじゃないかと思う程エネルギッシュな筈だ。彼女の死んだ魚のような目は新鮮だが、何となく見ていていい気はしない。
「親は?」
「昨日言ったじゃん。出張だよ、しゅっちょー」
神宮司先輩は尋ねながら、慣れた様子で玄関の扉を潜って中に入る。
いや待て。なんかエラく自然な流れで上がり込もうとしてるけど、それってどういうことなのよ。
部活繋がり? いや、なら部活の時に言うだろう。じゃぁまさか……いやいや、だって私、神宮司先輩とデートの約束してたし。神宮司先輩って今、彼女居ない筈だし。少し混乱気味の私も慌てて着いていこうとすると、扉を開けていた外山先輩と目が合った。
しばしの見つめ合い。外山先輩はこれまた気怠そうに、既に靴を脱ぎ始めていた神宮司先輩に尋ねる。
「この猫なに? 祐介の飼い猫?」
「知らねぇ。野良猫みたいだけど、勝手に着いてきたんだ」
「へー。この辺ってまだ野良猫居るんだ」
外山先輩が私を見る目は、決して歓迎の目ではない。このままでは締め出される。
私は彼女が神宮司先輩と会話している隙に、素早く玄関から家の中に飛び込んで、家に上がっていた神宮司先輩の足元に駆け寄る。
「あ、こら! 勝手に入るな!」
「みゃふぅぅぅ」
外山先輩が眉を吊り上げて私を追いかけるが、こちとら伊達に野良をやっていない。
外山先輩の襲いかかる右手をすり抜け懐に潜り込み、喉をゴロゴロ鳴らしながら、外山先輩の胸の中で存分に甘える攻撃。白くて丸っこい愛玩動物に抱きつかれて、外山先輩は一瞬眉を顰めた後、神宮司先輩の方を困った顔で振り返った。
「祐介ぇ、コイツ本当に野良なの? 並の飼い猫よりよっぽど人に慣れてる気がするぅ」
「……よく分からん。元飼い猫かもな。でも、大人しい奴だよ」
二人の会話の最中も私はひたすらに外山先輩の胸に頬擦りして、存分に可愛げをアピールしている。こうしている間にも外山先輩は戦闘意欲を奪われていき、最早陥落は時間の問題。現に、既に彼女の手は私の背中を優しく撫で始めている。
「なんでちゅかぁ、子猫ちゃん? ポンポン空いちゃったんでちゅかぁ?」
外山先輩が赤ちゃん言葉で私に尋ねる。
なぁにが「でちゅかぁ」だ。アホか。こっちは成猫じゃボケ。
……なんて私が心の汚い事を考えているとは露も知らない外山先輩に抱えられ、私は外山家の台所に通される事を許された。
フローリング敷きのリビング。窓側にはカーペットとソファ、キッチンは対面式。ごく普通の家だ。
私は床の上に丁重に下ろされた。一旦キッチンに向かった外山先輩は、ミルクを入れた底の薄い皿を私の目の前に置く。
「ふふふ……可愛いでちゅねぇ、猫ちゃん」
ミルクを舐め始めた私を一つ撫でた外山先輩は早々に立ち上がって、既にソファの方に座って寛いでいる神宮司先輩の隣に腰掛ける。私は少しイラッときた。そこは本来、恋人(予定)の私が腰掛けるべき場所である。
「祐介、なんか暗い顔してるねぇ」
「……まぁ、そうだな」
二人が会話をし始める。私はミルクを啜りながら、聞き耳を立ててその会話を窺う。
「……今日、デートする筈だったあの子の事かな?」
「………………」
……私の話? 私は訝しむ。続きが気になる。肝心の神宮司先輩は何も答えず、顔を上に向けて天を仰いだ。ソファに身を埋めた神宮司先輩は、呟くようにこう言った。
「つーか、アイツも可哀想だよなぁ。交通事故で意識不明の重体……って聞いたけど」
……交通事故って意識不明。なるほど、そういう事になってるらしい。まぁ、正直それはどうだっていいかもしれない。いずれ人間に戻るつもりなのだし、多分私が人間に戻れば人間として目覚めるって言うギミックだろう。じゃないと私が二人存在する事になる訳だし。
私は自分の所在に着いて一先ず安堵する。二人の会話は続いていく。
「聞いたけどって、見舞いは? アンタ行ってないの?」
「行ってねぇ」
思わず私の舌が止まる。見舞いに来ていない? ちょっと薄情じゃない? 仮にも恋人(予定)だよ? もし神宮司先輩が病院に入院したら私は毎日学校帰りに病院に寄って健気に介護する自信があるのに。
次の言葉を聞き逃さぬように、私は聞き耳を立てる。
「つーか、寝っぱなしなんだし、俺が行ってもしかたねぇじゃん?」
「まぁ、そうだけどさ。私もあんま行ってないし」
外山先輩は神宮司先輩の言葉に同意を示した。
先程と同じように、外山先輩はまた少し気怠そうに、少し面倒臭そうに会話を返す。ちょっと待て、私が、アンタの可愛い後輩が意識不明の重体なんだぞ。もっと心配しろよ。
「何だよ菜穂、妬いてんの?」
「……っつーかさ、彼女居んのに目の前で彼女の後輩に手ぇ出す? どう言う神経してんのさ祐介」
………………おい、ちょっと待て。
どう言う意味だよそれ。彼女居るのに? 目の前で彼女の後輩に? どう言う事だよそれ。当てはまるシチュエーションは一つしかない。と言うより、今この場を見れば……少し拗ねた顔をしている外山先輩の肩を抱いて苦笑いする神宮司先輩を見れば分かる。
「おいおい、そうマジになんなよ。
ちょっと遊んでやろうと思ったんだよ。
アイツ、ちょっと調子に乗ってたからさぁ」
「あの子、本気だったもん……祐介もちょっとマジな顔してた」
「それでブー垂れてんの? ったく、お前って本当」
二人の顔が近付いていく。近い近い近い、おい、待てよ。馬鹿、止めろ。や、止めて下さい。外山先輩、嘘でしょ、そんな……嘘だって言って下さいよ。何期待して目ぇ瞑ってんだよお前!
神宮司先輩も……そんな、なんで? 私の事、好きだったんじゃないの? 違うなら、なんで私に言い寄ったの?
「お前って本当、可愛い奴だよな」
神宮司先輩の色っぽい淫美な囁きで、外山先輩は頬を桜色に染める。
そして私の足元まで伸びてきていた二人の影が、重なった。
私はただ、呆然とそれを見つめるしかなかった。
なんだ、そう言う事か。つまり、外山先輩と神宮司先輩は、付き合っているんだ。私は神宮司先輩に遊ばれただけ、そう言う事だ。デートに誘われて、してやったりだ、なんて得意げに舞い上がってた私だけが、馬鹿を見たって訳だ。
「ん……ちょ、ちょっと……」
長い長いキスの後、外山先輩が顔を赤らめながら神宮司先輩を押し返す。少し息が上がっている。神宮司先輩はそれを見て、ソファの上に外山先輩の体を押し倒した。幸か不幸か、背もたれが衝立て代わりとなって、外山先輩と神宮司先輩がどういう体勢で絡んでいるのか、私にはよく見えない。
「あ、ちょ、ま、待ってよ。もう?」
「今日は親、どっちも居ないんだろ? じゃぁ一日かけてタップリさ」
「せ、せめて部屋行こう?」
「我慢出来ねぇ。そんなエロい顔してるお前が悪い」
「ほら! あの猫、見てるにゃん?」
「どうせ見てもどうも思わねぇって」
思うよ。めっちゃ思うよ。真っ昼間っから動物みたいに盛りやがって。不潔なケダモノが。死ねよお前ら。今すぐにここで泡吹いて死んでくれよ。
私は既に踵を返していた。いつまでもこんな茶番に付き合っていられない。こんな腐った奴らの道化なんて真っ平ゴメンだ。
少しだけ開いていた扉に体を捩じ込んで、廊下に出る直前、私は思い出したようにもう一度部屋に舞い戻る。最後の抵抗と言う奴だった。憂さ晴らしと言い換えても良いかもしれない。
私はミルク入りの皿を思い切り蹴り飛ばしてやった。フローリングの床に牛乳が盛大にぶちまけられ、プラスチック製の皿は乾いた音を立てて床の上を跳ね回る。
物音に気づいた二人が体を起こして私の方を見た。
「あー! あの猫! ……ったく。ほら、祐介も手伝って」
「えー、後でいいじゃんかよ」
「部屋が牛乳臭くなるじゃん」
「どうせヤッたら臭くなるし」
「……いいからさっさと雑巾取ってくる! 台所にあるから!」
厳しく言いつけられた神宮司先輩は私の方を恨めしげに睨みつけながら台所に向かっていった。
ざまぁみやがれ馬鹿め。野良なんて家に招き入れるからこうなるんだ、よく覚えとけ。二度と入れるなよ。
負け惜しみも甚だしい私は、今度こそ二人に背を向けた。飛び跳ねて玄関の扉を押し開け、そのまま外山家を出て駆け出した。
取りあえず、一ミリでもいいから遠くに、一秒でも良いから早くこの家から離れたかった。
私はあてどなく町を駆ける。塀に登り、木を飛び越え、屋根瓦を蹴り飛ばしながら、走り回る。
悔しいとか、そんな感情は湧いてこなかった。ただひたすらに憎悪と憤怒と、それらを全て飲み込み尽くす程の深い悲しみが私にのしかかっていた。
逃げたかったんだ。多分現実から逃げたかったんだ。
私は、多分神宮司先輩の事が割と……いや『多分』とか『割と』なんて言い訳は止めよう。
私は神宮司先輩が本気で好きだった。
周りに自慢出来る素敵な彼氏だから、なんて理由は最早建前だ。彼は格好良かった、だから私が惚れた。それだけの事なんだ。自分を偽るのは止めると決めたじゃないか。私は今、人間じゃない。本能のまま生きる猫なんだ。器用に生きようとしては駄目だ。愚直に、真っ直ぐに自分に向き合うって決めたじゃないか。
「う……うああぁぁぁ……」
心臓が締め付けられる。目から大粒の涙が、まるで壊れた蛇口かと思う程大量に流れ落ちる。私は天を仰いだ。雲も太陽も、秋の高い天空から私の事を見下ろしているのが目に映った。
どいつもこいつも、私の事を馬鹿にしやがって。死ね。みんな死んじまえ畜生。
「ばかやろおおおぉぉぉぉぉ!」
空に燦々と輝く秋空の太陽に向けて、私は一人、孤独に慟哭した。




