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紫苑
初めて投稿します。
ある秋のことだった。
左手に小さな花束を持って、同じような扉が並ぶ無機質な廊下を歩く。
通い慣れた白い部屋へ着いた。
扉をノックすると、コンコンという音がやけに響いた気がする。
「どうぞ。」
その人の柔らかな声を聞き、部屋に入る。
「いらっしゃい。今日はいい天気だね」
「うん、よく晴れてる。調子はどう?」
「いつも通りかな。」
ふんわりとした笑顔を浮かべるその人から、すぐ目を逸らしてしまった。
「お花、持ってきたから。変えるね。」
花瓶を取り、話す。声が強張った自覚があった。
「今日はね、紫苑の花。綺麗でしょう。」
「うん、いい紫だ。」
その穏やかな声の返事に、柔らかな笑顔に、泣きそうになる。
そのままの顔で、声で、太陽の下にいてもおかしくないくらいなのに。
最期まで、優しいひとのままで。
「ねぇ、紫苑の花言葉、知ってる?」
「ん、いや聞いたことないや」
「『あなたを忘れない』って、いうんだよ。」
その会話を、今も覚えている。




