あと
「跡」か「痕」ですね。
爪あとのない壁は
四方に高く聳えて
足あとのない庭を
ひとめ拝むことすら叶わない
噛みあとのない首すじは
くちびるの記憶をもたずに
絞めあとのないのどもとを
渇きがごくりと鳴らした
焦げあとに花が咲くことは
もうないだろう
縫いあとが亀裂を
繋ぎ留めておけるのはいつまでか
剃りあとを晒した地肌が黒い汚泥で
さらさらした白い砂ではないのを
たしかめたいわけでもなく
剥がしあとからは顔を背けなくてすむように
ヴェールをかぶせなおしてほしい
引きずりあとを追ったのなら
どこかましなところに
連れてってくれるのかもしれないけれど
埋めあとを掘り返したところで その下には
そこに斃れた者たちが眠ってもいないのだと思うと
我が身はこの囲いのなかで朽ちさせてゆけばいいさ
欠けあとのない爪を
きょうもほんのわずかにのばす
ひらがな2文字のタイトルも、悪くないか。