第29話 懐かしの我が家
5年後―———。
「色々お世話になりました」
お城でお世話になった人たちに挨拶をして馬車に乗り込む。
私たちは城を出て屋敷に帰ることにした。
レインは普通の冒険者としてやっていけるくらい強くなり、私は上級の回復魔法や解毒魔法、などを使えるようになった。
二人とも21歳になって、すっかり大人になった。
魔法学校は二年前に卒業した。
普通、学校卒業後に何処かへ就職するみたいだけど。
私たちの場合は――。
「やっと帰ってきたわ。我が家に」
「久しぶりだね」
5年前、私とレインは身長が同じくらいだったのに、レインは身長が高くなっていた。
私は今150センチくらい(5年前と変わっていない)だと思う。
レインは身長が伸びて180センチくらいあるかも?
可愛くない。
なでなでも出来ないし。
「なに?僕の顔に何か付いてる?」
「可愛くないわ」
「カッコ良くなっただろ?」
話し方も砕けてきて、それだけ気を許してるって事かしら。
声も低くなったし、あの頃とは別人みたい。
「おかえりなさいませ。お待ちしておりました」
「ラルス随分久しぶり」
「レインお坊ちゃまもお元気で何よりです」
「やっぱり我が家が落ち着くわ」
城だと外出も大変だったから。
気兼ねなく出かけられるので嬉しい。
レインは城のお仕事をしている。
ケリー王子の仕事を手伝っていたら、気に入られてしまったらしい。
本人は事務より、体を動かす仕事がしたかったらしいのだけど。
「引っ越し祝いをするってジョディーが言ってたわ」
「ただ会いたいだけなんじゃないのか?」
城に住んでいると、外から会いに行きづらかったみたい。
一々許可を取って入ってこないといけないからね。
「まあでも、やっと結婚が出来るわね」
「王女様じゃ結婚も大変だもんな」
私たちは小さい教会で結婚するだけで良かったのだが。
王女の立場だとそれも難しいらしく。
屋敷に戻るまで、結婚式はお預けだったのだ。
「立ち話も何ですし、リビングで寛いでは?」
ラルスが私たちを促した。
「それもそうね」
「のんびりするか」
ラルスたちも仕事を辞めないで居てくれた。
感謝しかないわ。
「「レインくん?戻ってきたんだって?」」
女性の声がロビーに響く。
誰だろうと目を向けると赤い髪が見えた。
「フィリアさん?」
「手伝ってほしいのよ。冒険者で一緒に行ってくれる人がいなくて」
「今、やっと帰ってきて休んでいる所なんだけど?」
「そう言わないでお願い!」
フィリアさんが顔の前に両手を重ねている。
「しょうがないな~」
「ちょっと、今日はカーベルたちが来るって言ってたのよね?今から行くの?」
「ごめん、少し手伝ってくるから…ローレライ、後で埋め合わせするからさ」
手をひらひらさせて、レインは出て行ってしまった。
「私一人で二人の相手するの?もう…」
カーベルとジョディーは結婚したのよね。
ジョディーはカーベルの家に住んでいるらしいのだけど。
もうすぐ来ちゃうのに。
「レイン様は随分変わりましたな」
ラルスが目を細めて言った。
「うん。自分に自信が付いたみたい。無茶しないといいのだけど」
レインが居ないと、二人がガッカリするじゃないの。
このタイミングでフィリアさんが来るなんて。
「愚痴ってもしょうがないか」
*
「「えーレイン居ないの?」」
案の定言われてしまった。
「冒険者のフィリアさんが来てね。手伝ってほしいって付いて行っちゃった」
「しょうがねえな。あいつ」
「仕方ないわね」
食堂のテーブルに、食べ物が並べられてホカホカと湯気を上げている。
美味しそうな良い匂いだわ。
城だと時間が経ちすぎて冷たいスープとか(毒見役の人の後に食べるので仕方ないけど)温かい物が食べられなかったのよね。
「美味しい」
「ん?美味しい物なんて食べなれているだろ?お城にいたんだから」
「温かい物が食べられなかったのよ」
「へー。そんな事もあるのね」
見慣れたロールパンやスープ、肉料理だけどこんなに美味しかったのね。
「王女様に、褒めて頂いて光栄です」
頭に白い帽子を被ったコックが頭を下げていた。
「もう、そういうのはいいから。私はこの家のローレライでいいの。もう少ししたら結婚して正式にアルフレッド家になるんだし」
結婚したら王女様じゃなくなるからね。
生活は全く変わらないけれど。
「まだ、結婚してなかったんだ」
「お城だと色々面倒なのよ」
「レインくんはお城勤めなんでしょ?安泰だわね」
「そうだといいのだけど」
早速帰ってきたら、フィリアさんに連れて行かれちゃったし。
冒険者に戻ったりしないかしら。
危険な仕事はしないでもらいたいのよね。
「ローレライはどうするの?ずっと屋敷に居るの?」
屋敷に居ても退屈だし、何か始めようかしら。
「回復魔法が使えるのだし、教会とかで仕事をしようかな」
「冒険者ギルドで、「回復魔法使える人募集」の張り紙を見たぜ」
「ギルドかぁ。懐かしいわ。久しぶりに行ってみようかしら」
良いわね。
久しぶりに冒険者ギルドへ行ってみるというのも。
5年ぶりでドキドキするわ。