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04

 エリシアは目の前に立つ男、ヴァイを鋭く見据えた。




 その異様なメタリックシルバーの体、そして軽薄な態度――一目でただの人間ではないことを感じ取った。


 だが、エリシアの余裕は崩れない。彼女は微かに肩をすくめ、皮肉たっぷりに言葉を投げかけた。




「愉快なお仲間ですこと。」




 その声には、ヴァイが今しがた一掃した悪党たちへの皮肉と同時に、目の前の男への探りも含まれていた。


 ヴァイはそんな彼女の言葉を楽しむように受け流し、ニカっと不気味な笑みを見せる。その狂気じみた笑顔は、エリシアに対しての警戒も軽蔑も混じったものだった。




「俺か? あいにく『おままごと』は趣味じゃねえ。」




 彼は拳銃をしまうと、体を少し前に傾けながら、まるでエリシアを観察するような目つきで彼女を見つめた。


 その態度に、わずかに緊張感が走る。お互いに相手の力を測りながら、次に何を仕掛けるべきかを考えていた。


 エリシアは静かに笑った。


「それなら……少し、本気で遊んでみるのも悪くありませんわね。」




「待て。」




 ヴァイの低い声が場を支配した。


 その言葉に、エリシアの足がぴたりと止まる。彼女の顔には微笑が浮かんでいたが、目は冷静にヴァイを見据えていた。


「当局か?」


 ヴァイの声には、軽薄な響きの中に何重にも隠された意味が込められていた。


 その言葉が、あらゆる可能性を探るものであることをエリシアはすぐに理解した。ヴァイの表情は相変わらずニヤついているが、エリシアのわずかな表情や目線の変化すらも逃さず観察していた。


 静寂が二人の間に流れる。エリシアは微動だにしないが、ヴァイは彼女の一挙手一投足を計りながら、心の中で別の計算をしていた。


 電流がヴァイの脳裏を走る――。




 ——俺に依頼を出しておいて、まさか当局の連中で片付けようとしてるんじゃねえだろうな?




 彼の思考が瞬時に巡る。




 ——いや、違う……当局が俺を出し抜けるわけがねえ……所詮、奴らは使い捨ての犬っころだ。だが、この女は……?




 ヴァイは再びエリシアをじっと見据えた。彼女の動きや表情を細かく読み取ろうとしながらも、内心は楽しんでいるように見える。


「さて、お前はどっちだ?」


 エリシアはしばらくヴァイを見つめたまま、ふっと息を吐くと、不意に笑みを浮かべた。彼女は決断した。


 ――この場での腹の探り合いに意味はない。身を投じなければ、何も動き出さない。




「GENプラントから、ネジが一本なくなったらしいですわね。」




 エリシアは大胆に切り出した。


 その言葉が放たれると、まるで爆弾が落とされたかのように空気が一変した。ヴァイの目が微かに細まり、彼の顔に漂う軽薄な笑みがほんの一瞬だけ消えた。


 彼女の言葉が何を意味するのか、彼には即座に理解できた。


 GENプラント――そして、そこに隠された「何か」。エリシアは既にその核心に触れているかのような態度を見せていた。




「……ネジが一本ねぇ……」




 ヴァイは再びニヤリと笑みを浮かべたが、その目は鋭くエリシアを見据えていた。彼女がどういう意図でこの情報を持ち出したのか、彼の頭の中で計算が働く。


 エリシアは動かず、まるで挑発するかのように優雅に微笑んだ。


 ヴァイの脳裏には一瞬で無数の可能性が広がっていった。

 目の前の女――エリシア――は一体何者だ?


 スパイか?同業者か?それとも賞金稼ぎ? あるいは――ただの死にたがりか?


 彼女が「GENプラント」のことを知っているという事実が、ヴァイの思考をさらに深く掘り進める。


 


 だが、すぐにもう一つの可能性が浮かび上がった。ブラフだ。




 GENプラントの襲撃は、すでにニュースになっている。


 彼女の言葉が、ただの聞きかじりである可能性も十分にある。何者かがこの話を広め、混乱を引き起こそうとしているのかもしれない。


 しかし――ヴァイの目は再びエリシアを見据えた。彼女の姿、冷静な態度、そして先ほどのチンピラたちを圧倒する力。


 こんな薄汚れた場所で、チンピラどもをあっという間に沈める女が、ただの冷やかしであるわけがない。


 それがヴァイの直感だった。彼の経験と狂気に満ちた思考が告げている。




 ――この女は、危険な存在だ。しかも、何かを掴んでいる。




「……なるほどな。」


 ヴァイは再びニヤリと笑い、両手を軽く広げながら言った。その笑みは、彼の中で何かが決まったことを示していた。


「お前、面白いことを言うじゃねえか。だが――さて、何が本当で何が嘘か、俺が確かめてやるよ。」




 ——バンッ!




 ヴァイが先に動いた。


 リボルバー式の拳銃が一瞬で腰元から引き抜かれ、躊躇なく発砲。銃口から放たれた弾丸が音速でエリシアを狙った。




 だが――エリシアの姿は残像を残して消えていた。




「……!」


 ヴァイの目が僅かに動く。弾丸が空を切り、その瞬間、鋭い風を切る音が背後から迫った。エリシアの俊敏な動きは、まるで影のようだった。


 ——ヒュン!




 瞬間、空中でエリシアの踵がヴァイの右腕を捉える。




 まるで見えない風を裂くかのような速度。ヴァイはすぐに反応し、弾丸を撃ち込んだ右腕を回しながら防御の構えを取る。


 ——ガキィン!


 ヴァイの硬い金属の右腕と、エリシアの鋭い踵が衝突し、火花が散る。彼女の動きは早く、正確だ。しかし、ヴァイもまた超人的な反応速度でその攻撃を受け止めていた。


「へぇ、いい蹴りだな……」


 ヴァイは不気味な笑みを浮かべながら、エリシアをじっと見据えた。




 エリシアの直感が鋭く告げていた。




 目の前の男、ヴァイ――彼の行動はただの無鉄砲なものではない。瞬間的な判断と反射神経で放たれた銃撃も、彼女を殺す気はなかった。試しに、あるいは脅しに過ぎない。




 ——GENプラント絡みで間違いないですわね……




 エリシアは心の中で確信した。


 ヴァイの動き、言葉、そして態度。その全てが、この惑星で起きている大きな事件と繋がっている。GENプラントの周りで暗躍しているのは、単なる小物ではない――彼もその一部だ。




 ——今の銃撃、殺すつもりはなかったですわね。差し詰め、自分と同じトンビか。




 彼女は冷静にそう分析しながら、じっとヴァイを見つめた。トンビ――お互いに獲物を狙い、機をうかがうような存在。ヴァイはただの殺し屋ではない。目的を持ち、確実にそれを狙うやり手。


 いずれにせよ、情報が圧倒的に不足している。


 目の前のヴァイが何を狙っているのか、そしてどこまでGENプラントの秘密に食い込んでいるのかはまだわからない。だが、それも問題ではなかった。


 結局のところ――どうせいつでも皆殺せる。


 エリシアは僅かに微笑み、軽く肩をすくめた。そして、思い切って一歩前に出る。挑発するでもなく、敵意を込めるでもなく、ただ自然に。




「手を組みましょう。」




 その提案は唐突に響いた。


 だが、その声は確信に満ち、冷静で計算されたものだった。エリシアは、相手がどう反応するかをじっと観察していた。


「あなたも気づいているでしょう?この場で互いに命を奪い合うのは得策ではないですわ。」


 彼女の目は、まるで相手の考えを読んでいるかのような鋭さを持っていた。


 ヴァイは、エリシアの提案に一瞬目を細めたが、すぐにニヤリと笑った。その狂気じみた笑みは、何かを見透かしているような冷たいものだった。彼は拳銃を腰に戻し、軽く肩をすくめる。




「手を組む……いいだろう。」




 あっさりと承諾するヴァイ。


 エリシアも彼が無駄に反発しないことを悟っていたが、その簡単さに少しばかりの驚きがあった。だが、彼の次の言葉が、その意味をすぐに明らかにした。




「お互いにつまらねえ動きを見せたら……その時は、迷わず殺すだけだ。」




 その言葉には軽さがあったが、そこにこめられた冷酷さは揺るぎないものだった。彼の目には、エリシアが一瞬でも裏切るような動きをすれば、即座に反応する用意があることが読み取れた。




「私も同じ意見ですわ。」




 エリシアは軽く笑みを浮かべながら答えた。

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