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ヴァイは息を荒らしながら、ドアの前で端末を操作していた。
全身に汗が滲み、心臓が鼓動を激しく刻む。
制限時間は迫り、背後では爆発音が響き渡る。ドアには最上級のセキュリティロックがかけられ、通常の方法では突破不可能。しかし、ヴァイの端末は生体ポートを通じて違法なアクセスを試みている。
「頼む……開けやがれ!」
彼は端末に目を凝らし、何度も指を走らせる。進行状況が99%に達した瞬間、赤いランプが緑に変わる。電子音が響き、分厚いドアがゆっくりと開き始めた。
「やった!」
ヴァイはドアが完全に開く前に、身を潜めるように滑り込む。しかし、その瞬間——
地下で突然の大爆発!
「——ッ!」
轟音と共に足元の床が一瞬で崩壊し、彼は何の前触れもなく真っ逆さまに落ち始めた。天井に張り巡らされた配管や梁が音を立てて崩れ落ち、視界が暗闇に包まれる。
「チキしょおおおおぉ!」
瓦礫が彼の体に迫り、顔面の横を鉄骨が掠めた。瞬間的に身を反らすも、勢いが止まらない。空間が歪み、上下の感覚すらも失われる。
「くそっ……地下何メートルだ!」
ヴァイは見上げながら、目の前に積み上がる瓦礫と、迫りくる爆発音を聞き、一刻の猶予も許されないことを悟った。
瓦礫の山を必死で登るヴァイ。
目の前に積み重なるコンクリート片や鉄骨が無秩序に崩れ落ち、彼の行く手を阻む。
「くそっ……!登り切らねぇと!」
両手を伸ばし、目の前の鉄骨を掴む。だが、次の瞬間——
——ゴロゴロ……!
「うお!」
掴んだ鉄骨が崩れ落ち、彼の体が宙に浮く。
落下しそうになるその瞬間、彼は反射的に別の瓦礫に手を伸ばす。ぎりぎりで体を支えることに成功した。
「……っぶねぇ〜!」
冷や汗が背中を伝う。息を荒げながら、再び上を目指して登り続けるヴァイ。瓦礫は不安定で、何度も崩れかけるが、彼は力強く手を伸ばし、体を持ち上げる。
「逃げ切ってやる……!」
彼は決して諦めない。
地上はもう目と鼻の先だった。
上空を戦闘ヘリらしきものが音もなく通過していく。そのローター音がかすかに耳に届く。
「……当局の奴らも逃げ出したかよ」
ヴァイは皮肉気に呟きながら、瓦礫の最後のステップに手をかけた。体を引き上げる力が限界に達しているのを感じながらも、もう少しだと自分に言い聞かせる。
しかし——。
——ガラッ……!
突然、手にかけた瓦礫が大きく崩れた。何の前触れもなく、ヴァイの体は宙に浮く。
「——っ!」
一瞬の浮遊感。そして重力が彼を引き戻す。彼の視界は一気に逆転し、崩れ落ちた瓦礫が自分に迫ってくる。
ヴァイは空中でどうにか体勢を立て直し、崩れかけた突起物にしがみついた。下を見下ろすと、地下の爆発がまるで波のように次々と誘爆を起こしながら迫ってくる。
「……けっ」
吐き捨てるように言いながら、ヴァイはジャケットの内側からガボールのペンダントを掴んだ。金属の冷たさが掌に伝わり、彼の表情にわずかながらの余裕が戻る。
「……まだ終わらねえ」
だが、誘爆の勢いは止まらない。崩れた瓦礫の隙間から次第に火花が散り始め、地底から迫り来る熱気が背後に重くのしかかる。
ふと、頭上から何かが落ちてくる!
先端にフックがついたロープ。
見上げると、さっき飛び去っていった戦闘ヘリが!
ヴァイは瞬時に頭上のロープを掴むと、体を引き上げ始めた。
ロープがウィンチで巻き上げられ、ヴァイは一気に地上へ引き上げられる。瓦礫が下で崩れ、誘爆が次々と発生するが、彼は冷静に登り続けた。
「クソッ、これしかねえか……!」
戦闘ヘリ、XRH-2が上空でホバリングしている。
操縦席の窓越しに見えたのは、ウィンチを操作するエリシアの姿だった。彼女の顔には凶悪な笑みが浮かんでいる。ヴァイはその笑顔を見て苦笑しつつ、ロープをしっかりと握り直した。
「俺を吊り上げるつもりかよ……ふざけた女だ!」
「あ〜あぁ、これで8割ですわね、ヴァイ」
エリシアは振り向き、操縦席から彼を見下すように言った。
ヴァイを吊り上げるウィンチを操作する指先には、冷たい計算が宿っている。風で乱れる髪さえ、どこか楽しんでいるような余裕すら漂わせていた。
ヴァイは眉をしかめ、ロープを強く握りしめながら吐き捨てた。
「回収できたらの話だぞ!」
崩れゆくサイト-14を背景に、エリシアの口元が微かに笑みを浮かべる。
「もちろん、あなたがいれば“回収”もスムーズに進むでしょうね。でも、お金の話は先にしておかないと……私も慈善事業で動いてるわけじゃありませんから」
彼女の声には、狡猾さが滲んでいた。
まるで報酬の話をするためだけに、ヴァイを助けたかのように聞こえる。8割という金額、それはエリシアがバイトを打倒し、アノマリーを手中に収めた報酬のことだった。
「どちらにしろ、あなたが成功しようが失敗しようが、私の利益は変わらないのですわ」
操縦桿を握り直すエリシアの目は、既に金と勝利を見据えている。GENプラントが崩壊していく様子を冷静に見つめ、利益を計算し尽くした狡猾な目は、その未来を独占するかのように輝いていた。




