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タワーの最下層にたどり着いたエリシアは、驚嘆を隠せなかった。
目の前に広がるのは、タワーの内部とは思えないほど広大で神秘的な空間。
天井は高く、淡い青白い光が空間全体を包み込んでいる。薄く漂う霧が、その神秘性を一層際立たせていた。
床には無数のエーテルの結晶が散らばっており、その一つ一つがかすかに光を放っている。まるで、この空間自体がエネルギーの集積地であるかのようだ。
側にはいくつものエリクサーの空瓶が転がり、乱雑に積まれた魔術理論の古びた論文が所々に散らばっている。
「これは……」
エリシアはその場に立ち尽くし、周囲を見回した。エーテルの結晶は古い時代から続く魔術の精髄であり、どれも膨大な力を秘めている。その中でも最も強大な力を持つ存在が、アノマリーとして安置されている。
部屋の中央に鎮座する装置には、複雑に絡み合うパイプやケーブルが一箇所に集中し、まるで心臓に血液が集まるかのような姿をしていた。
周囲には計器が点滅し、低い機械音が響いている。その中心で装置を操作する一人の人物が、エリシアに背を向けて立っていた。
「遅かったですわね、私のコピー」
冷たく響く声にエリシアは微笑を浮かべた。装置を操作するその人物は、自分の存在にまるで確信があるかのように堂々としている。
エリシアはすかさず反論する。
「あなたもコピーですわよ」
その言葉に、背を向けた人物が軽く肩を揺らす。
「ほう?」
エリシアはその一瞬の反応を見逃さず、さらに言葉を重ねる。
「お互い、こんな性格ですから。ふふっ……。これが単なる追体験に過ぎないって気づいているのでしょう?」
背を向けた人物はゆっくりと振り返る。
その顔は、まさにエリシア自身と瓜二つ。瞳の奥に秘められた感情は一切の迷いを見せず、まるで全てを見透かしたような表情を浮かべている。
「つまり、私たちは……」
「ただのツールに過ぎないですわね」
二人は互いの瞳を見据え、冷徹な笑みを交わす。
部屋の空気が一変した。装置を中心に、二つの異なるエネルギーが同時に隆起し、凄まじい力で押し合い始める。
エリシアとそのコピーから放たれる魔力は、まるで嵐のように渦を巻き、周囲の空間を圧迫していく。
互いの瞳に揺らぐ光が、彼女たちの心の奥底を暴いていく。
どちらも譲る気はなく、それぞれが持つ力の根源が、もう一方を侵食し合うようにぶつかり続ける。周囲のエネルギーのバロメーターが狂い始め、限界値を超えて針が振り切れる。
「……面白いですわね」
エリシアは、冷静さを装った笑みを浮かべるが、心の奥底でわずかな焦りが生じていた。互いに侵食される感覚——それは、心の隙間を暴かれるような不安定な感覚だ。
一方、コピーも同様にエリシアの力を感じ取り、わずかな動揺を隠し切れない。
二つの存在は、互いに相手の力を奪い取るかのようにぶつかり合い、徐々に均衡が崩れ始める。空気が振動し、床には亀裂が走り、結晶が砕け散る。
「どちらが先に崩れるのかしら?」
その問いに答えることができるのは、どちらかが完全に力尽きた時だ。




