第7話【答えなき問い】
セルカ視点です。
今後の話し合いを終えたレイラは、セルカからアレンを起こさないように受け取り、おんぶする。
「それでは先生、また……」
「ああ。 坊やの事で困った事があれば遠慮なく相談しろ。 坊やがもう少し大きくなればお前の時のように魔術について指南してやってもいいぞ?」
セルカがそう言うとレイラは彼女に尋ねる。
「そんなにアレンの魔法適正って高いんですか?」
「まぁな。 下手をすればエリスより高くなるんじゃないか? 今の状態でも教えれば中級魔法が使えそうだしな」
その言葉にレイラだけでなくディアスまでもが驚いた。
一般的には12歳頃から初級魔法が使える。 しかし魔力適正が高い子供は10歳ぐらいから使えたりもする。
だがアレンの場合、8歳という幼さで初級魔法を使える処か詠唱を省略出来ていた。 そしてその潜在能力は底が見えない事を聞いた2人はアレンを見た。
「レイラ、分かってると思うが魔力適正が高過ぎる子供は魔力暴走を引き起こす事がある。 エリスもそうだった。 坊やの身体はまだその膨大な魔力に耐え切れる物じゃない。 冗談抜きで何かあれば頼りなさい」
「分かりました。 ありがとうございます先生」
レイラはセルカに頭を下げる。 そしてセルカはディアスに視線を移す。
「ディアス、例え血が繋がってなくてもレイラは私の娘、そしてアレンは孫だ。 もしこの2人を泣かせるような事があれば、私はどんな事をしてもお前に地獄を見せる。 その事を肝に銘じておけ」
「先生……」
セルカの真剣な眼差しに、ディアスも真剣な表情で答えた。
「俺は彼女に惚れた時から全てを捧げると誓ってる。 だが……」
ディアスはセルカに頭を下げて言葉の続きを放つ。
「俺の全てを賭けて、レイラとアレンを幸せにすると誓います。 お義母さん……」
普段使う事のない敬語でセルカに宣言したディアス。 その言葉にセルカは安心したように微笑み、レイラは頬を赤く染めた。
「やれやれ、私はとんでもない奴等の母になった物だな?」
「ふふ、そうですね」
勇者3人に魔王1人、他の者であれば卒倒しそうな役であった。 3人が微笑み合うとアレンが目を覚ました。
「……ん、あれ? 帰るの?」
「ええ、アレンも先生に挨拶しなさい?」
レイラはアレンを降ろし、セルカの前に立たせる。 アレンはセルカを見上げて言った。
「えっとね? 僕を助けてくれてありがとう。 お婆ちゃん!」
――私とお姉ちゃんを助けてくれてありがとう。 お母さん!――
そう笑顔で言うアレンの姿と幼き日のエリスが重なり、セルカは目を見開く。
「……お婆ちゃん?」
セルカの様子に首を傾げるアレンを見て、セルカはハッと我に帰る。 そして微笑みながらしゃがみ込み、アレンの頭を撫でた。
「これからいつでも遊びに来るといい。 ただし、今日みたいな危ない事はするんじゃないぞ?」
「うん。 約束する」
その言葉に頷き、セルカは立ち上がった。
「さぁ、折角父が帰って来たのだ。 帰っていっぱい話を聞かせてもらえ」
「うん! またねお婆ちゃん!!」
セルカに向かって手を振るアレンの言葉に合わせてレイラとディアスは一礼し、アレンは2人と手を繋ぐ。 そして3人は去って行く。
セルカは見送りを終えた後、家に入り、棚に飾っていた写真立てを取る。
そこには顰めっ面で擦り傷だらけの幼いレイラと天真爛漫な笑顔でセルカと手を繋ぐ幼いエリスが映っていた。
「エリス……お前の息子はお前に似ていい笑顔をする。 まるでお前の生き写しだ」
セルカの表情は言葉と裏腹に悲しみに満ちていた。
「まったく……可愛い息子を残して死ぬ等……」
セルカは写真を額に引っ付けて肩を震わせ、唇を噛む。
「お前が一番坊やの側に居たかったろうに……この……大馬鹿者め……」
もう1人の娘の無念をセルカは叱る。 アレンを命を代価に守る母の気持ちは痛い程分かる彼女はエリスの行動を誇ると共に、やり切れない怒りも感じてしまうのだ。
「悔しかろう? きっとお前の事だ。 坊やを守る為に全力で、自分を顧みなかったのだろう? あれ程言ったではないか……」
何故自分も生きてアレンと共にある道を模索しなかったのか、セルカはエリスに問いたくて仕方がなかった。
しかし、その問いの答えは帰ってこない。 セルカはソファに座り込み、花瓶の花を見つめた。
彼女の頬には一筋の涙が流れていた。 しかしその表情は優しい微笑みだった。
セルカは娘同然であるエリスの気持ちを理解した上で、やるせなくなります。
同時にアレンを命懸けで守った事に誇りも感じています。
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