第6話【勘違い】
レイラの尋問タイムです。
ディアスが父となると知ったアレンは暫くはしゃぎ回り、現在はセルカの膝の上で寝ていた。
それを確認したレイラはディアスを睨み付けた。
「おいおい、許してくれたんじゃないのかよ?」
「演技はいいから。 どういうつもり?」
レイラは腕組みしながら『さぁ話せ。 包み隠さず全て話せ』と目で訴えてきた。
「別に他意は無いさ。 ここに来たのも本当に偶然だ。 ましてやお前が居るなんて思わなかった」
「へぇ? じゃあなんでアレンに自分が父親なんて言ったのかしら?」
「確かにな。 ディアス、それは流石に無理があるとは思うぞ?」
レイラから睨まれ、セルカからはニヤニヤと見透かされている状況のディアスは諦めたように溜息を一つ。
そして肩を竦めながら両手を上げて降参する。
「分かった。 けどお前とアレンが居たのは本当に偶然だった。 最初はただ単に依頼の為に来ただけだ」
「私達に気付かれないように入ったのは?」
「殺気立っていたお前の気配を感知してな。 すぐに消えたから大丈夫だと判断した後、取り込み中のようだったからコソッと依頼の品を置いて行こうと思ったんだ。 そしたらお前らの気配に意識し過ぎてアレンの気配を見逃してた」
ディアスは気付かれないように家に入ったが、アレンの気配を見逃し扉を開けた瞬間、アレンとばったり目が合ってしまったのだ。
そしてアレンから聞かれた。 『誰?』と……
「流石に焦ったよ。 なんて答えようかと考えてるとアレンの口から『もしかしてその眼帯の下って魔眼?』なんて聞かれるだもんな……」
「アレンからしてみれば初対面よね? なんでそんな事を?」
ディアスが語った事にレイラが首を傾げているとセルカは考え込むように俯き、口を開いた。
「まさか……“共鳴”したのか?」
「!?」
セルカの言葉にレイラは驚いた顔でディアスを見た。 そしてディアスは鋭い目付きで頷いた。
それを見たレイラは動揺を隠せず、ディアスに聞く。
「な、なんで? 共鳴は魔眼を持つ者同士じゃないと……」
そう、共鳴とは魔眼を持つ者同士にごく稀に起きる現象であり、お互いの魔眼で捉えた物を共有する能力なのだ。
この結果が齎らす答えはアレンも魔眼を開眼しているという事だった。
「とは言え、アレンの魔眼は完全には開眼してない。 共鳴も微弱だったしな。 けど、自分の身体だ。 違和感ぐらい感じてたんだろう。 そして共鳴で俺を父親と誤認したってわけだ」
「嘘……ならなんで私に……」
何故母である自分に相談しなかったのか、その事実にレイラは俯く。
「そんなの決まってんだろ?」
「そうだな。 坊やがレイラに相談出来るはずがない。 これで坊やが父について調べようとした理由も分かった」
納得する2人にレイラは動揺したまま聞く。
「なんで? なんでアレンは私に……」
「聞けるわけねぇだろ? 勇者の、それも魔王を倒した最高の勇者の母親に『魔人族みたいなもの出たんだけどどうしよう?』なんてな」
「坊やはお前の書庫に父の事を調べる理由とは別に魔眼、いや、魔人族について調べる目的もあったのだろう。 人攫いとのやり取りでも見ていたが賢い子だ。 恐らく自分に魔人族の血が流れているのを朧げに理解し、お前に迷惑をかけない為に隠していたのだろう」
「私の……為に?」
アレンは既に魔眼を発現し始めていた。 そしてレイラにも知られないように魔眼の抑え方を独学で勉強するつもりだった。
「考えてもみろ。 勇者の息子が魔眼持ちなんて知れたらお前の功績に傷が付く」
「坊やはお前の立場を守る為に魔眼を開眼したくなかった。 そしてお前と離れる事になるのを防ぎたかったのだろう」
「私はそんな事しません!!」
レイラはセルカの言葉に反発する様に叫ぶ。 セルカはやれやれと溜息を吐いて微笑みながらアレンの頭を撫でて答えた。
「お前の覚悟は分かっている。 私に剣を向けたぐらいだからな。 けど坊やにとってはお前だけがこの世で唯一の存在なのだよ。 その唯一の存在、母から見放されるかもしれない恐怖、それは坊やにしか分からない」
セルカは真剣な眼差しでレイラを見て続きを言う。
「坊やは賢い。 だがまだ子供だ。 親に見放されるかもしれない恐怖でお前に話せなかっただけで、同じ魔眼を持つディアスを見て、恐怖を抑える為に話してしまったのだろう」
「そんな……」
落ち込むレイラを見たディアスは呆れたように溜息を1つ。 そして言った。
「あのなレイラ? 俺が告白した時、赤ん坊のアレンを見せて断っただろ?」
「今はそんな話――」
レイラは関係ない話だと思い、話を遮ろうとするが、逆にディアスが確信を突いた。
「その時お前は魔王レオンとエリスが残した子供を守る為に俺との繋がりを絶った。 俺に迷惑かけたくなかったから……だろ?」
「!?」
ディアスの言葉にレイラは驚愕した顔で彼を見る。 ディアスは真剣な眼差しでレイラを見つめていた。
「知って……たの?」
レイラの問いにディアスは頷き、答える。
「俺は全て理解した上でプロポーズしてフラれた。 けどそんな事はどうでもいいんだ。 俺が言いたいのは、アレンはお前に似て不器用だって事だ」
「私に似て……?」
ディアスの言葉に同意するようにセルカも頷く。
「レイラ、お前は坊やを守る為に隠れて努力した。 そして坊やはお前の名誉を、お前との絆を守る為に努力した。 これで似た者親子と呼べなければ何と呼ぶんだ?」
セルカの言葉でレイラはようやく理解した。 アレンも自分と同じで大切な人を守りたかったのだ。
しかし、アレンは幼く耐え切れなかった。 そして同じ魔眼を持つディアスと出会い、緊張の糸が切れて話してしまっただけなのだと……
それを理解したレイラは泣きそうな、嬉しそうな微笑みでアレンを見た。
「ほんと……誰に似てるんだか……」
その言葉にセルカとディアスは呆れ笑いをしながらお前だよと呟くのだった。
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