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第5話【雷の勇者】


 レイラが泣き止んだ後、セルカは彼女に問う。


「これからどうするつもりだ? 坊やは父の事を知りたいのだろう?」


「……正直、悩んでます。 アレンにいつかは話そうとは思ってますけどあの歳で受け止められる話じゃありませんし、かと言ってこれ以上何も言わないのも……」


 レイラの言葉にセルカは考え込む。 そしてある事に気が付いた。


「そういえば、お前は雷の勇者と交際していたと聞いたがどうなんだ?」


「ディアスですか? 一度だけ、赤ん坊のアレンを見せた事があります」


 セルカの言葉にレイラは寂しげな表情をした。


「雷の勇者は魔族とのハーフと聞く。 坊やがもしも魔族の証、“魔眼”を開眼しても彼の息子だと言えば周囲や坊や自身も納得するんじゃないか?」


「……確かにそうかもしれません。 けど無理ですよ」


「何故だ?」


 セルカが理由を聞くとレイラは俯き、事情を説明する。


「アレンを育てると決めた時、彼からプロポーズされたんです。 けどアレンは魔王の子供、ディアスを巻き込みたくなくて、私……」


「そうか……。 そういう事情があったのか」


 セルカはその言葉に納得し、レイラに続きを言わせないように頭を撫でる。


「ならこうしよう。 坊やの父は魔族とのハーフであり、聖魔大戦で命を落とした。 父が魔族とのハーフという事を知れば坊やがショックを受けると思い、話さなかった。 これなら坊やもしばらくは納得するだろう。 その間に考えよう」


「ありがとうございます。 先生……」


 アレンの父親の設定を決めた後、2人はアレンの待つ部屋へと戻る。 だがそこでは予想外の事態が起きていた。


 アレンに嘘を付かなければならない状況に暗い雰囲気になっていたが部屋の前で異変に気が付いた。


「先生……」


「ああ、気配が2つ。 1つは坊やだとしてももう1つは私達に悟られず侵入した事になる。 相当の手練れだ」


「アレンを狙っているんでしょうか?」


 アレンとは違う気配はセルカやレイラと互角の実力が予想された。 2人は息を潜め、中の状況を確認する為に聞き耳を立てる。


『ねぇねぇ! お父さんはなんで今まで居なかったの?』


「「お父さん!?」」


 アレンの楽しそうな声とその内容に2人は思わず叫ぶ。 そしてアレンから“お父さん”と呼ばれる人物は2人の気配に気付き、扉へと近付く。


「レイラ、いざとなれば私が注意を引くからその間に坊やを連れて逃げろ」


「でも先生――!!」


 2人が言い争っている間にも扉が開き、男が出てきた。 そしてその男の顔を見てレイラは驚愕した。


「ディ、ディアス!?」


「よぉ、こんな所で会うなんて奇遇だな」


 そう、先程話に出ていたディアスが目の前にいるのだ。 レイラが驚くのも無理はない。


「ほう? コイツが……」


 セルカは目をキランッと輝かせディアスを品定めする様に見る。 対するディアスはセルカの方を見て歩み寄る。


「アンタがセルカ=ウィルベールだな? フレイフールのギルドにサラマンダーの角を頼んだろ? それを届けに来た」


「ああ、成程。 フレイフールで冒険者をしていたのか」


 ディアスは納品書にセルカのサインを貰う。 するとアレンが寂しそうにディアスの手を握る。


「帰っちゃうの?」


「それはレイラ次第だな。 さっきも話したかと思うが、お前が生まれる直前に喧嘩しちまってな? プロポーズを断られたんだ」


「ちょ、ディアス!? 何を言って――」


「ほほう? 中々の策士だな」


 ディアスの言葉にレイラは慌てふためき、セルカはニヤニヤと笑う。


「俺としてはお前の父親になりたいんだが、レイラが許してくれないとなぁ?」


 ディアスはわざとらしい演技でレイラに視線を送る。 ディアスの目からは話を合わせろと伝わってくる。


 ディアスの意図が分からぬまま、レイラがどうするか悩んでいるとアレンがレイラの手を引く。


「お母さん! お父さんと仲直りして!」


 よく見ればアレンはディアスの手も引いており、互いの手を近付けさせようとする。 恐らく仲直りの握手をさせようとしているのだろう。


 そんなアレンの必死さにレイラは問う。


「アレン、そんなにお父さんと暮らしたいの?」


 アレンはその言葉に涙を流しながら答えた。


「……みんな、お父さんもお母さんもいるもん。 僕だけお父さんが居ないんだもん。 もう嫌だよ。 我慢するの嫌だよ」


「アレン……」


 レイラはその言葉でアレンがずっと我慢していた事を知った。 いつも明るく振る舞っていたのは父が居ない寂しさを必死に振り払おうとしていたのだと……


 レイラは跪き、アレンを抱きしめた。


「ごめんねアレン。 ずっと我慢してたんだね?」


 アレンはレイラの胸で泣く。 そして口を開く。


「いい子にするから……、もう我儘言わないから……、だから、だから……」


「分かったわ。 お母さんが間違ってた……」


 レイラはそう言ってディアスを見る。


「ディアス、あの時はごめんなさい。 こんな事、頼める立場じゃないのは分かってるけどアレンの父親に――」


「ったく、なんでお前が謝るんだよ? 悪いのはアレンが生まれる前に長期任務なんて入れた俺だぞ? お前は俺を許してアレンの父親にさせてくれればいいんだよ」


 ディアスは呆れ笑いの演技でレイラの言葉を遮り、そう告げる。 レイラに非がない事をアレンに印象付ける為に。


 言っちゃったのである。


 それを聞いたレイラはニヤリと黒い笑みを浮かべながら答えた。


「それもそうね。 アレン、お父さんがごめんなさいしたらアレンの望み通り、一緒に暮らせるわよ?」


「なっ!? おまえなぁ……」


 ディアスは一瞬、『しまった』というような顔になり、呆れて手で顔を覆う。


 先程まで何故かレイラが悪いような雰囲気だったが、形勢逆転。 今度はディアスが悪かったという雰囲気になる。


 アレンはキッとディアスを睨み、指差してこう言った。

 

「お父さんごめんなさいして!!」


「ったく、レイラ、アレン。 すまなかった」


「まぁアレンに免じて許してあげましょう」


 アレンに見られないように悔しそうな顔で頭を下げるディアスと、同じくアレンに見られないようにドヤ顔のレイラ。


 それに気付かないアレンはピョンピョンと兎のように跳ねて喜ぶ。


 その様子をセルカは腹を抱えて笑っていたそうだ。

はい。

まさかのディアス初登場にしていきなりアレンの父親になりました。

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