第4話【試される母の覚悟】
現在、アレンは正座でお説教を受けていた。 そんなアレンにレイラは腕組みしながら聞く。
「なんで書斎に入ったの? あの部屋には王からの任務書もあるから入っちゃいけないって言ったわよね?」
「だって……」
「お母さん、言い訳する子は嫌いよ?」
アレンの不貞腐れた顔にレイラがそう言うとアレンは唇を噛んで、そして言った。
「お母さんが悪いんじゃん!!」
「!?」
アレンの叫びのような怒声にレイラは一瞬たじろぐ。 それを見たセルカは埒が明かないと溜息を吐き、アレンの前でしゃがんだ。
「坊や、レイラが悪いとはどう言う事だ?」
「…………。」
セルカの問いにアレンは涙目で俯き、頬を膨らませていた。
「黙ってたら分からないだろう? 本当にレイラが悪いなら私が叱ってやる。 レイラの何がいけなかったんだ?」
セルカの言葉にアレンはポツリポツリと話した。
「お母さん、お父さんの事教えてくれないもん……。 だからあの部屋の本を読めばお父さんの事、何か分かると思ったんだもん……」
「ッ!!」
セルカはレイラが一瞬反応した事を見逃さなかった。 そしてアレンを撫でた。
「そうか。 魔法は本を読んでいる内に自然と覚えたんだな?」
セルカの問いにアレンは無言で頷く。 それを確認したセルカは立ち上がり、レイラの腕を掴んだ。
「先生? 何を――」
(あの子の両親について話がある。 黙って付いて来い)
「!?」
レイラはセルカの囁きに驚く。 そしてセルカはアレンに笑顔を向けて言った。
「父の事を教えないレイラは確かに悪いな。 この馬鹿を叱って来るから坊やはそこにあるお菓子でも食べて待ってなさい」
「う、うん……」
セルカはアレンが頷くのを確認してからレイラの腕を引き、部屋を出た。
「せ、先生、アレンは私の――」
「お前に子がいるのは風の噂で聞いていた。 私はてっきり雷の勇者との子かとも思ったが、坊やを見て分かったよ」
別の部屋でたじろぐレイラにそう言うとセルカは振り返り、レイラを睨み付けた。 その視線にレイラは固まる。
「あの坊やはお前の子じゃない。 エリスの子だ」
「!?」
レイラはアレンの母親がエリスを見破られ、顔面蒼白になる。 そして確信した。 セルカはアレンの父親も見破った事に……
「坊やの母がエリスなのはいい。 だが問題は父親だ」
セルカの言葉でレイラの身体は震える。 だがレイラにはエリスへの誓いがあった。
「レイラ、あの坊やの父親は――」
セルカがアレンの父親の名を口にする瞬間だった。 レイラは聖剣を引き抜き、剣先をセルカの喉元へと突き付ける。
「……やはりそうなのか。 あの坊やを守るために私に刃を向ける。 それ程の覚悟なんだな?」
レイラの剣先は震えていた。 よく見ればレイラの目からは涙が流れていた。
孤児だった自分と妹を育ててくれた恩師。 母のように慕っていたセルカに剣を向ける事は、レイラにとって胸を抉られるような痛みと同じだった。
「ごめんなさい……。 でも私は……アレンを、エリスが残した最後の希望を守るとエリスの墓前で誓ったんです。 だから――!!」
そう言ってレイラは聖剣を振り上げる。 だがセルカは優しげな笑みを浮かべ、レイラの頬に両手を添えた。
「まったく……、少し覚悟を試したらこれだ。 その早とちりは変わらんな?」
「先……生……?」
レイラはセルカの予想外の行動に動きを止める。 そしてセルカはレイラを抱き締めながら言った。
「心配しなくていい。 私に坊やをどうこうするつもりは微塵も無い」
その言葉にレイラは目を見開く。
「どう……して……?」
セルカは昔、夫と息子を魔王軍に殺された。 2人の命を奪った親玉、魔王レオンにセルカは復讐を誓い、“大賢者”と呼ばれる程の魔術師になった。
魔王レオンに強い怨みを持つセルカにアレンの存在が知られれば、彼女はアレンを殺そうとする。
そう思ったからこそ、セルカには話さず、アレンの存在を彼女から隠した。
「確かに思う所はある。 だが娘と思っていたお前達が、命懸けで守ろうとする命。 私にこれを奪う事は出来んよ」
「先生……」
セルカは分かっていた。 アレンを殺そうとすればレイラが敵に回る事を……。 だが幾ら花の勇者の子供とはいえ、半分は魔王の血を引いている。
生半可な覚悟で育てるわけにはいかない。 だからこそ、レイラの覚悟を試したのだ。
「辛かったろう。 エリスが死んだのにあの坊やをよく育てたな」
「先生……私……」
レイラはセルカの胸に顔を埋めながら泣いた。
そんな彼女の頭を撫でるセルカは本当の母親のように見えたのだった。
アレンの正体に気付いたらセルカ、レイラは苦渋の決断を迫られましたが、セルカはアレンを受け入れ、レイラを労いました。