第2話【アレン=リュミエール】
いよいよアレンの登場です。
アレン=リュミエール。 彼はレイラに育てられ、もうすぐ8歳になる。
アレンの出生の秘密を知る勇者達やラディウス王は魔王の息子として最初は不安に感じていたが、レイラの教育のお陰で何処にでもいる元気な子供として成長した。
「遊び行ってきま〜す!!」
「あ、こらっ! 今日はお勉強する約束でしょ!!」
アレンはレイラの脇をするりと通り抜け、外に出てしまった。 元気過ぎて困ると言うのが最近のレイラの悩みだったりする。
「もうあの子は……今日はあの子の嫌いな物で夕飯作りましょう」
そうは言ってもレイラもこの生活に満足していた。 最初は義務感からアレンを育てていたが、今では自分の子供のようにアレンを育てている。
幸せな時間、アレンがレイラに与えた掛け替えの無いこの時をレイラは大切にしていた。
一方アレンはと言うと、彼はレイラが本当の親だと思っている。 レオンとエリスの事についてはまだ知らない。
だがレイラが大好きで、時には聞き分けない事もあるが、彼はレイラに教えられた事を守っていた。
「やぁアレン! おはよう!」
「今日も元気ねぇ」
「おはよう!! あ、今日お母さんがおじさんの店で買い物するって言ってたよ! 美味しいお肉お願い!」
「分かった分かった。 いい肉準備してやるよ」
「ありがとう! じゃあね!」
近所に住む住人からもアレンは人気だった。 彼の天真爛漫な姿は多くの人に笑顔を届けていた。
アレンは住人と挨拶を交わしながら広場に向かい駆けて行く。 すると路地裏から妙な声が聞こえた。
「真っ白な髪とか高く売れそうだな」
「早くズラかるぞ」
そこには複数の大人達が大きな麻袋を手に怪しげな笑みを浮かべて話していた。 そしてその手にある麻袋はまるで抵抗するかのように動いていたのだ。
(まさか、人攫い? お母さんに知らせないと……)
アレンはレイラが勇者だという事を知っている。 母に知らせ、調べてもらうのが一番だと分かっていたし、こう言った状況の時はレイラからもそう言われていた。
しかし悩んだ。 ここで見失えばあの袋の中の子は酷い目に遭うかもしれない。 母を呼びに行けば見失うかもしれない。と……
アレンが悩んでいると麻袋の口が開き、中から少女の顔が出る。 そしてアレンと目が合う。
その目はアレンに助けを求めていた。 「助けて」とアレンに語りかけていた。
アレンはグッと拳を握り、大人達に駆け出した。
「やめろ!!」
アレンは少女を担ぐ男に体当たりする。 男は不意の一撃に体勢を崩し、少女を落とす。
アレンは素早く麻袋の口を開けて少女を解放した。
「早く逃げて!!」
「で、でも……」
「いいから早く! 大人の人を連れてきて!!」
「は、はい!!」
アレンに怒鳴られた少女は反射的に走り出した。
「行かせねぇよ!!」
「ッ、【アース・ウォール】!!」
少女を追おうとした男達の道をレイラから教わった魔法、アース・ウォールで塞ぐアレン。
しかし咄嗟の事で判断を誤った。 自分の逃げ道も塞いでしまったのだ。
「このガキ、魔法使えんのか!?」
「けど馬鹿だぜコイツ。 自分も逃げれなくなってやんの」
「ったく、面倒掛けさせやがって、これはお仕置きが必要だ、なぁ!!!」
ドカッという音と共に頭と呼ばれた男がアレンを蹴る。 男の蹴りはアレンの身体をくの字に曲げ、アレンを壁に叩き付ける。
「うぐっ……おえぇぇ……」
壁に叩き付けられたアレンは蹴られた腹を押さえ胃の中にあった物をその場に吐き出す。
「おーおー、汚ねぇなぁ? 威勢よく出てきたわりにその程度かよ? ええ?」
「あ、ぐっ……」
男はアレンの首を掴みながら持ち上げる。 首を絞められ苦しむアレンだが、先程のダメージが大きく、抵抗すら出来ない。
「さぁて、どうすっかな? 殺しちまうか? それとも売り捌くか?」
「殺した方がいいと思うますがね」
「でも魔法が使えるガキってのも珍しいですぜ? 奴隷商に売ればいい金になんじゃねーですかい?」
「ッ、【フレイム】!!」
男達の会話で危機を感じたアレンは男の顔に火属性の初級魔法【フレイム】を打ち込んだ。
「ぐああぁぁっ!?」
「お頭!?」
顔の半分を焼かれた男は咄嗟にアレンを離す。 そしてアレンはボロボロの身体をなんとか動かして逃げようと歩き始めた。
「このガキャァァ!! もう許さねぇ!! ぶっ殺してやる!!」
男は怒り狂い、腰に差した短剣を抜いてアレンに襲い掛かる。 アレンは魔力障壁を張ろうとするが発動前に距離を詰められてしまった。
(もう、無理だ……)
成す術無し、アレンは諦め目をギュッと瞑る。 しかしアレンに男の短剣が届く事はなかった。
アレンと男の間には魔力障壁が展開されていたのだ。 もちろん展開したのはアレンじゃない。
男が発動者を探すと先程アレンが発動したアース・ウォールが塵と化し、崩れ去る。
その奥からはフードを深く被ったマント姿の女性が歩いて来た。
「その歳で詠唱を省略し、魔法名だけで発動出来るとは才能があるな。 ここで死なすには惜しい」
「おいおい姉ちゃんよぉ? 誰だか知んねぇが今は取り込み中だ。 さっさと失せろ」
「それとも何か? そのガキの代わりに俺らと遊んでくれんのかぁ?」
「いいねぇ? その身体で精々楽しませてくれよ?」
女性はアレンの前に立ち、溜息を1つ。
「いいだろう、少し遊んでやる。 ほら、私を犯したいのだろう? 死ぬ覚悟があるのならな」
「やりぃ!!」
最初に動いたのは下っ端。 女性を襲おうと走り出す。 しかしその瞬間、下っ端は青い炎に包まれて消し炭になった。
「なっ!?」
「なんだこの程度か? 中級魔法のレジストすら出来ないとはな……。 残りの者はどうする? まだ遊びたいなら相手になるぞ?」
「チッ、分が悪いか……テメェら、ズラかるぞ」
アレンを殺そうとした男は女性に勝てないと判断し、撤退を選択したのだった。
アレンはそんな状況を唖然として見ていた。 すると女性は振り返りアレンを見る。
その表情はフードに隠されていたが口元が微笑んでいるのだけは見えた。 だがアレンは受けたダメージもあり、緊張の糸が切れたように倒れるのだった
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