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第1話【5年後】

幼少期編の始まりです。


 神聖暦790年……


 魔王と1人の勇者が命を落とした戦争、それは後に《聖魔大戦》と呼ばれた。


 月の勇者が魔王を倒し、終結に導いたとされるこの戦争の裏で1つの命が守られた事を多くの人々は知らない。 その命は1人の魔王と1人の勇者が命を賭けて残した最後の希望。 しかしそれが知れ渡れば、この世から消される存在……


 その希望の名は《アレン》。 後に虹の勇者と呼ばれ、伝説になる事を今はまだ、誰も知るよしはなかった。


 そして魔王レオンと勇者エリスが亡くなって5年。 魔王討伐の立役者であるレイラは木陰に座り、景色を眺めていた。


「ママ……」


 そんな彼女の膝にはエリスとレオンが命を懸けて守った息子、アレン=リュミエールが寝ていた。 だが怖い夢でも見ているのか、アレンの不安が伝わる。 レイラは安心させる為にアレンの頭を撫でる。


「大丈夫よ? ちゃんとここにいるわ」


 するとアレンは安心したような顔で安らかな寝息を立てた。 そんなアレンの寝顔を見て安心したレイラは一輪の花を見つける。 エリスが好きだった桔梗の花だ。 それを見てレイラは微笑んだ。


「分かってるわエリス。 貴方が命を懸けて守った子ですもの」


 桔梗の花、それはエリスが好きだった花。 その桔梗の花言葉は『永遠の愛』。 レイラはエリスも見守っているのだと思い、その花に話しかけた。


「もう5年も経つのね……」


 この5年、様々な事が起きた。 魔王城に残っていたエリスの日記からエリスは前皇帝の悪事を偶然知って皇帝直轄暗殺部隊に命を狙われ、その時にレオンに救われたのを知った。


 それを知ったレイラは、6人いた勇者の中で仲の良かった海の勇者カルロス、風の勇者ソフィア、そして前皇帝の息子ラディウスと共に帝国を解体。 エスペランザ王国として生まれ変わらせた。


 そしてその反乱が終わった後、人族と魔族は和平を結んだ。 多くの魔族は抵抗せず、無条件降伏だった。


 だが和平と言っても形だけだ。 人族は魔族を見下し、魔族は人族を怨みながらも従う。


 奴隷として飼われたり、冤罪を掛けられ処刑されたり等、人族が魔族を虐げていた。 レオンとエリスが求めた平和はそこにはなかった。


 新たな国王ラディウスもこの事実には頭を抱えている。 魔族の奴隷制度を廃止したまでは良かったが、人族の王として魔族に肩入れしていると取られる行動は出来なかった。


 ラディウスが国王になってまだ短い。 悪意ある者は王の座を狙っている。 ラディウスも王としての地位を盤石な物にするためにも、弱みを握られるわけにはいかなかった。


 勇者達はそんな王国に見切りを付け、半数は国外へと旅立った。


 そんな中、レイラは王都に留まりラディウスの討伐依頼をこなしながら女手一つで育てる環境を整えて今に至る。


 ラディウスもアレンの素性を知っているため、アレンがある程度成長するまで聖魔大戦の褒賞と称して支援していた。


 もし自分が帝国の闇を知っていれば、もっと早く帝国を潰してエリスを死なす事はなかったかもしれない。 だがそうなると自分の膝で寝ているこの子の存在はなくなっていただろう。


 結局自分はどうすれば良かったのか、その答えは未だに出てはいなかった。


「ん……んん……」


 そんなふうに考えているとアレンが起きてきた。 よく見ると薄っすらと涙を流しているのが分かった。


「……ねぇママ?」


「ん? どうしたのアレン。 怖い夢でも見た?」


 レイラがアレンの顔を見ると不思議そうな顔をしていた。


「ううん。 えっとね? 白くて長い髪の男の人とね? 黒くて長い髪の女の人が出てきたの」


「え?」


 レイラは一瞬固まった。 何故ならその特徴はレオンとエリスのものだったからだ。 何故アレンがその2人を夢に見たのか分からなかった。


「その人達がね? 僕をギューってしてね? えっと……あ! その花をくれたの!!」


 アレンは桔梗を指差して言うとレイラ笑い出した。


「アレン? その人達にお礼はちゃんと言った?」


「え? うん。 したよ? でね? その人達ね? ママと同じ感じがしたんだよ? フワフワして、ポカポカして、でねでね! その人達が居なくなっちゃって寂しくなった時にね? ママが来てくれたんだよ!!」


 アレンは笑顔でレイラに抱きつく。 レイラはその頭を撫でてアレンを抱き上げる。


「それじゃあもう遅いし、帰りましょうか?」


「うん!!」


 こうしてアレン達は帰宅したのだった。

 

魔王が倒され、平和な世界が到来しました。

魔王レオンの遺言に従い、レイラはアレンを育てています。

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