第15話【開眼】
レイラとセルカは驚愕した。
いくら平和な世で感覚が鈍ったとはいえ、考え事をしていたとはいえ、勇者と賢者の自分達に悟られず背後を取ったアレンに……
「あ、アレン!? いつからそこに!?」
「え? 今帰ったばかりだけど?」
ひとまず先程の話を全て聞かれたわけではないと安堵する2人。 そこでセルカが気付いた。
「アレン、ディアスはどうした?」
「それなんだけど、兵隊さんがお父さんを呼びに来てセレンを僕に預けて帰れって。 それと出来るならお母さんも出来るなら来てくれって事付け」
「それはディアスが言ったの?」
「うん。 僕には聞こえないように小声だったから全部は聞けなかったけど、人身売買組織っていうのが見つかって、緊急でその組織を捕えようとしてるみたい?」
アレンの言葉にレイラとセルカは顔を見合わせ、頷く。
「先生、アレンとセレンを――」
「ただし!」
アレンの大声でビクッと肩を振るわせるレイラ。 振り返るとジト目のアレンが立っていた。
「これはお父さんにも言ったけど、お母さんは出産を終えてまだ1ヶ月半。 僕はお母さんが行く事に反対だよ」
「アレン、でも――」
レイラは勇者だ。 人身売買組織と聞いて動かないわけがない。 レイラがアレンを説得しようとするが、アレンは呆れたように溜息を吐き、仕方ないように微笑んだ。
「でも行くんでしょ? 僕はお母さんにいて欲しいけど、お母さんはみんなの勇者だもんね?」
「アレン……」
アレンは近付いてレイラの手を掴む。 そして強い眼光でレイラを捉える。
「だから約束して? お父さんと怪我せず帰って来るって。 みんなを守る勇者だとしても、セレンを泣かすのは許さない」
アレンの言葉にレイラは息を呑み、頷く。 そして笑った。
「アレン、私を誰だと思ってるの? 月の勇者で、アレンとセレンのお母さん、レイラ=リュミエールよ? 人身売買組織なんてお母さんの敵じゃないわ」
「分かった。 ならかすり傷1つでも作って帰ったら1週間セレンは抱かせない。 これはお父さんにも伝えてね?」
「アレンさん!? 今お母さん格好いい事言ったよね? アレンを安心させる為なんだけど?!」
「だって口だけじゃ信用出来ないもん。 これぐらいの条件受け入れてもらわなきゃ。 ねぇおばあちゃん?」
アレンの問いにセルカはクククと笑い、頷く。
「レイラ、アレンの言う通り、怪我なく帰って来い。 だがアレン? それなら怪我なく帰ってきた時の褒美はないのか?」
「え?」
まさかのセルカからの攻撃、たじろぐアレンにレイラは反撃する。
「ならご褒美はアレンと最低1週間一緒ね? もちろん、お風呂やベッドでもね?」
「うえっ!?」
「そういえば、セレンを妊娠してからというもの、アレンはレイラと風呂や寝る事もしなくなっていたな? アレン、まさか恥ずかしいのか?」
ニヤニヤとレイラとセルカが詰め寄るとアレンは顔を真っ赤にした。
「だ、だって、僕と一緒だとお母さん気を使って休めないと思ったから……」
「むふふ、絶対に抱き枕にするからね? なら先生、アレンとセレンをお願いします」
「あ!? ちょ、お母さん!?」
アレンの制止を振り切り、レイラは出ていってしまった。
「ククク、ああなったらレイラは本当にお前を抱き枕にするだろうなぁ?」
「…………」
「アレン?」
アレンの反応がなく、異変に気が付いたセルカはアレンを見る。
アレンはフラフラとした足取りでセレンをベビーベッドに寝かせると、座り込んでしまう。
「ッ、アレン!!」
セルカは慌ててアレンの身体を抱く。 そして気が付いた。
アレンの身体は熱く、息は荒くなっている事に……
「アレン、お前まさか……わざとレイラを行かせたのか?」
セルカの問いにアレンは弱々しく頷く。
「おばあちゃん、実は……左眼、痛くて……」
「すぐに診てやる。 もう少し頑張れ」
セルカはアレンを抱えて自室に向かう。 セルカの部屋であれば、薬品等が揃っているからだ。
自室のベッドにアレンを寝かせたセルカは診察を開始する。
「アレン、左眼の痛みだけか? 他に症状はあるか?」
「多分だけど、魔力……集まってる」
セルカは魔力暴走の再発かと思ったが、一先ずはアレンの左眼を診てみる事にした。
「これは――!?」
「魔眼……だよね? 本当はお父さんに聞きたかったんだけど、緊急だったから……」
アレンの左眼は魔眼特有の紋章が浮かび上がっていた。
「ならレイラには――あっ……」
レイラに残るように言えばと言おうとして気が付いた。
アレンはレイラに残って欲しいと意思表示していた事に……
しかしレイラが勇者として動かねばならない事を理解して、強く引き止めなかった事に……
「馬鹿者……本当はレイラに居てほしかったのだろう? 不器用にも程があるぞ」
セルカは意識が朦朧としているアレンの頭を撫でる。
「おばあちゃんの手、気持ちいい……」
「安心しろ。 私が側に居てやるからな」
その言葉に安心したのか、アレンは眠りについたのだった。