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第14話【招待状】


 エリスの置き土産の所為で大人組3人の魂が抜けた日から1週間が経った。


 因みにだが、エリスが残した取説書をレイラは燃やそうとした瞬間、本からある映像が流れ、文字が浮かび上がった。


 それを見たレイラは顔を青くしたり、赤くしたりして、こう叫んだ。


「あのっ、馬鹿エリスぅぅぅぅっ!!」


 その後、レイラは鋼鉄の箱を用意し、本を中に叩き付ける様に投げ込み、鎖を隙間なくビッチリと巻いて何十個もの鍵を付けて封印したのだった。


 因みに、アレン達はレイラの陰でどの様な事が映し出されたのかを見てはいなかった。


 ディアスが代表して聞いてみたのだが、聞いた瞬間に華麗なアッパーを決めてディアスをK.Oしてしまった。


 本人曰く、『絶対にディアスにだけは見せられない!』だそうだ。


 アレンは本を封印する事に反対だったが、セルカがあの手この手でどうにか説得した。


 最終的にセレンが成人するまでは何が何でも離婚させない。 離婚した場合はセルカの元でアレンが引き取るという条件の下に渋々承諾した。


 そうして騒動に区切りがついて1ケ月が経った頃の事だった。


 レイラが一通の手紙を持ってリビングで悩んでいた。


「馬鹿がそんなに悩んでどうした?」


「先生? 日に日に私の扱い雑になってません? 最近じゃ私よりアレンとセレンと遊んでますし」


 因みにディアスとアレンはセレンを連れて買い物に出ていた。


「娘より孫の方が可愛いに決まっているではないか」


 何を当たり前の事を、というように溜息を吐くセルカ。


「それにアレンに関しては仕方がなかろう。 お前の出産時、あれだけの魔力を開放したのだ。 今はまだ経過観察するべきだ」


 セレンが生まれたあの日、緊張の糸が切れたアレンは倒れた。 だが、それだけで数日間も寝込んだわけではない。


 気を失ったアレンは初めて大きな魔力を無理矢理に開放した反動で、魔力暴走を引き起こしていた。


 アレンの魔力が小さな体を蝕み、下手をすれば死んでいた。


「まったく、あの場に私がいる事や自分の命の危険、挙句には助かる可能性すら計算に入れるとはな」


「アレンから聞いた時には恐ろしくなって震え上がりましたよ……」


 実はあの時、アレンは魔力開放の代償を正しく理解していた。 自身の死の可能性すらも……


 しかし、咄嗟にセルカの存在に気が付き、レイラとセレンが助かる確率と自分が死ぬ確率を天秤に掛け、実行に移したと聞いた時には流石のセルカもアレンの頬を叩いた。


 アレンも反省したのか、素直に謝り、その場は収まったのだ。


「今更だがすまなかったな。 お前達に相談もせずあんな行動をして」


「いえ、本当なら私とディアスが叱らないといけなかったんです。 先生、ありがとうございます」


 レイラの感謝にセルカはまだ納得してない表情だった。


「礼など要らん。 それにあの時は半分八つ当たりに近かった」


「八つ当たり、ですか?」


 レイラがそう聞くとセルカは紅茶を一口飲み、答えた。


「ああ、アレンのあの決断が、エリスの覚悟と重なってな……」


「そう、ですね……」


 自分の命を天秤にかけたアレンとそのアレンを産む為に命を代償にしたエリス。


 実の親子とはいえ、その狂気じみた決断力にセルカとレイラは恐怖した。


「だが、アレンは自分が助かる可能性も視野に入れている分、エリスよりマシだ」


「ふふ、そうですね」


 アレンは程度が違うとはいえ、自身の命も蔑ろにはしなかった点はエリスより良かったと感心する2人。


 そしてセルカはレイラに聞く。


「で? その手紙はなんだ?」


「結局話を戻すんですね。 ラディウスからの招待状ですよ」


「国王の? 何かあったか?」


 レイラ達は勇者という立場上、国の行事や式典に参加する事がある。


 しかしセルカの知る限り、催事等はなかったはずだ。


「セレンの誕生祝いだそうです。 ラディウスもアレンの事情を知っているので大々的には出来なかったんですけど、私とディアスの結婚を周知させる為にも城でパーティーを開きたいと……」


「まぁ、お前達が結婚した事を知らずにアプローチをかける貴族など未だにいるからなぁ」


「アレンも私の子供って事を周知する意味もあると思います。 前にもあの子を攫おうとした馬鹿がいましたから」


「あぁ、あの時の……」


 セルカはアレンと初めて会った日の事を思い出して納得する。


「確かにあの時はアレンから関わったとはいえ、アレンがお前の子供だと知れば違っていたからなぁ」


 このエスペランザ王国で勇者であるレイラ達の実力は広く知れ渡っている。


 それも最強の勇者と呼ばれるレイラの息子となれば、余程の馬鹿でない限りアレンに危害を加えようとはしない。


「あの甘ちゃん坊やが立派になったものだ。 だが、何をそんなに悩む事がある?」


「これ、ソフィアとカルロスも来るんですよ」


 ソフィアとカルロスはレイラと同じ勇者である。 エスペランザ王国には6人の勇者が居た。


 その内3人はレイラ、ディアス、そして今は亡きエリスだ。


 ソフィアは風の勇者、カルロスは海の勇者と呼ばれ、レイラ達と共に聖魔大戦を生き抜いた戦友である。


「あの2人にはアレンの事を話してなかったんで、言い辛いというか……」


「まさかと思うが、アレンの素性を知っているのは……」


「私達以外ではラディウスだけですけど?」


 セルカは頭を抱えた。 母親同然のセルカにも黙っていたレイラだ。


 レイラは本気で1人だけでアレンを育てるつもりだったらしい。


「せめて勇者には伝えるべきではなかったか?」


「私もソフィアとカルロスには話そうかとも思ったんですけど、あの頃はアイツが居たので……」


「太陽の勇者、エヴァン=ルークスか……」


 エヴァン=ルークス、レイラ達と同じ勇者でありながらエスペランザ王国から追放され、死んだ男。


 彼は魔族根絶を掲げており、混血でさえ許さなかった。


 排斥運動だけであれば、追放とまではならなかったが、聖魔大戦が終わり、平和になったある日、魔族と人族が共存している村を突然壊滅させた。


 魔族と和平交渉をしていたラディウスは理由もなく虐殺をしたエヴァンを国際指名手配犯とし、当時のレイラ、ソフィア、カルロスで捕えようとした。


「アイツは、ハーフであるディアスを何度も殺そうとしていました。もしアイツにアレンの素性を知られたら、そしてソフィアとカルロスが敵に回ったとしたら、アレンを守り切れなかったかもしれません。」


「事情は分かった。 アレンの件についてはよく考えよう」


 話がまとまった直後の事だった。

 

「僕がどうかした?」


 2人の背後からセレンを抱いたアレンの声が聞こえたのは……


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