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第11話【花園】


 レイラの出産が終わり、気を失ったアレンは不思議な温かさを感じて目を覚ました。


 起き上がると見覚えのない花園に立っていた。


「ここ……どこ?」


 先程までディアス達と家に居たはずが、見知らぬ花園に立っている。 アレンの困惑は当然だろう。


「……アレン?」


 自分を呼ぶ声の方を見てみると、レイラに似た女性が自分を見つめていた。


 女性はアレンの顔を見た瞬間、涙を流した。


 突然泣き出す女性にさらに困惑するアレンはキョロキョロと辺りを見て解決策を探す。


 そして気が付いた。 周りの花達から意志の様な物を感じる事に……


「慰めて……?」


 花達はアレンに女性を慰める様に伝えてくる。 まだ途切れ途切れで明確には伝わってないものの、そこには優しい感情と女性を心配する感情が感じ取れた。


 アレンは意を決して女性の元へ駆け出し、女性の手を握る。


「泣かないでお姉ちゃん。 僕が居るから……」


 アレンは女性が落ち着くまで手を握り続けた。 そして落ち着いた女性は涙を拭いながらアレンに微笑む。


「……ありがとうアレン。 優しいんだね」


「花がお姉ちゃんを慰めてって言ってたから……」


 アレンの言葉に女性は目を見開いた。 何故なら花と会話する能力は花の勇者特有の物。 アレンはこの歳で既に勇者としての片鱗を見せ始めていた。


「……そう、私の方が少し早かったのね」


 女性は一瞬悲しげな表情を見せたが、すぐに微笑んでアレンを抱きしめた。


「……お姉ちゃん?」


「“お姉ちゃん”か……今はそうよね。 まだ……こんなに幼いのだもの」


「…………。」


 アレンは訳も分からずに女性に抱かれて困惑する。 しかしアレンにとっては現状を知る為の唯一の方法、女性に問い掛ける。


「お、お姉ちゃん! 僕聞きたい事が――」


「大丈夫。 時間が経てば元の場所に戻れるわ」


 女性は慈愛に満ちた表情でアレンの頭を撫でる。 戻れるという女性の言葉を聞いたアレンは、落ち着きを取り戻し、改めて周りを見た。


 終わりが見えないほどの広大な花園。 そしてその花園を包み込むような一片の曇りもない大空が広がっていた。


 そこから差し込む日差しはまるで花たちを祝福しているようにアレンは感じた。


「きれい・・・」


「ええ、アレンが来てくれたから嬉しいみたい。 とても喜んでるわ」


「ここはどこなの? 僕、お母さんの出産が終わって気を失って・・・」


 アレンは女性に自分が気を失うまでの経緯を話した。


「ええ、知っているわ。 お姉ちゃんを助けてくれてありがとう」


「え?」


 その言葉にアレンはさらに困惑する。 その瞬間に立ち会っていたのはセルカとディアスのみ、そして何より、母のレイラを姉と呼んだのだ。


 レイラの肉親は亡くなった妹のエリス=リュミエールしかいない。 つまりこの女性は既に亡くなったエリスということになる。


「お、オバケぇぇぇぇっ!?」


 アレンは顔面蒼白になりながら勢いよく後退った。 そして木に頭をぶつけてうずくまる。


「あ、うん。 まぁそうなんだけど、大丈夫?」


 あまりにも勢いよく頭をぶつけたアレンを心配するが、アレンは木の裏に隠れてしまう。


「確かに私は死んでるけど、厳密にはオバケじゃないよ?」


「そ、そうなの?」


 木の陰から顔を出すアレンにエリスは微笑みながら頷く。


「私は貴方の中に宿った残留思念と言えばいいかしら? 私の魔力が貴方に少し入っているの」


「お姉ちゃんの魔力が僕に?」


「今回は貴方が魔力を使い過ぎてしまったせいで私の魔力で補ったのだけど、そのせいなのか私の意識が覚醒してこうして貴方と話せるようになったわ」


 この時、アレンはエリスの言葉に違和感を覚えた。 だがその違和感を消すかの様にエリスは説明を続ける。


「きっと貴方に花の勇者としての素質があったからだと思うわ。 私が使っていた聖剣はまだ誰も選んでないから」


「!?」


 エリスの言葉にアレンは肩を震わせる。


「ほ、本当なの!? 僕、勇者になれるの!?」


 アレンの様子が変わった事でエリスは少し困った顔をした。


「……アレンは勇者になりたいの?」


「うん! お母さんみたいにカッコイイ勇者になりたい!」


 アレンの言葉にエリスはキュッと口を結ぶ。 我が子もまた、自分が愛した人の同族と戦う日が来るのかと悲しむ。


 しかし、アレンの次の言葉でその悲しみは吹き飛ぶ。


「それでね! お母さんの時には喧嘩しちゃった魔人族の人達とね、仲直りしたいんだ!」


「!?」


 魔人族との仲直り、アレンが口にした言葉はアレンを身籠った時に愛し合った人と願った人族と魔人族の和平。


 アレンに人族と魔人族を結ぶ架け橋になって欲しいという願いそのものだった。


「今はまだ、どうやったら仲直り出来るのかなんて分からないけど、勇者になればわかる気がするんだ!」


 決して楽な道ではない。 しかし、無邪気にそう語る息子を見たエリスは涙が流れるのをグッと我慢して微笑んだ。


 だがアレンは何かに気が付き、表情を曇らせた。

 

「でもお姉ちゃんは魔王城で……」


 エリスが亡くなった経緯は魔王とエリスの関係を伏せた上でレイラが説明していた。


 まだ幼いアレンが真実を知るには早いという判断である。


 それを理解したエリスはこうアレンに伝えた。


「とても素晴らしい事だと思うわ」


「え?」


「だってアレンの言う通り、魔人族と仲直りすれば、誰も傷付かないでしょ? それに魔人族のお友達とお花畑でお茶するなんて素敵だと思わない?」


 そしてエリスはアレンを抱き締めて囁く。


「頑張ってね? 私もここで応援してるわ」


「……うん。 僕頑張るよ」


 アレンは安心した様に目を閉じる。 するとアレンの身体が光出す。


「さぁ、もう起きる時間よ? お姉ちゃん達が待っているわ」


「……また会える?」


 不安そうな顔をするアレンにエリスは微笑みながら頭を撫でる。


「ええ、きっと会えるわ。 ずっとアレンを見守ってるからね?」


 エリスの気持ちに嘘偽りはない。 しかしながら、アレンは暫くは会えないだろうと本能的に察し、俯く。


 だがアレンは精一杯の笑顔を作り、エリスに言った。

 

「……じゃあさよならは言わないよ? またねお姉ちゃん!」


「ええ、また会いましょう。 またね」


 そうしてアレンは光の粒子となって消えていった。


 アレンが去った後、エリスは空を見上げてこう呟いた。


「ずっと、見守ってるわ。 私の可愛い子供だもの」


 この言葉がアレンに届く事はなかった。


 

 


 

 


 


 

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