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第10話【片鱗】


 出産の準備を終え、赤子を取り出そうとするセルカ。 だがそこでアレンが異変に気が付いた。


「お母さん? お母さん!?」


 レイラの反応がないのだ。 アレンが何度呼び掛けても反応がない。 そして彼女の呼吸が少しずつ浅くなっている事にセルカが気付いた。


「これはっ!? ディアス!!」


「どうしたっ!?」


 セルカはディアスを呼び付ける。 そして説明した。


「お前達の赤子は魔力が多過ぎる!! そのせいでレイラの生命力が低下してるのだ!!」


「なんだとっ!?」


 この世界の出産では、両親の魔力によって子供の魔力量が決まる。 そして母親は子供を産む瞬間、子供の魔力量に応じて魔力を消費する。


 だが稀に、魔力量が多い子供の出産時に母親の生命力まで消費してしまう事がある。


 これはアレンの実の母であるエリスにも起きた事だ。 そしてエリスはアレンの出産と引き換えに命を落とした。


「このままでは母子共に危険だ! 子供を諦めるしかない!」


「ま、待ってくれ! 他に方法はないのか!?」


「あれば既にしている! 早く決めろ! レイラが死ぬぞ!」


 セルカの言葉にディアスは奥歯を噛み締め、そして……


「子供を……諦め――」


 諦める。 そう言おうとした瞬間だった。 アレンから想像を絶する程の魔力の波導を感じたのだ。


 2人がアレンの方を見ると、アレンの周りには魔力が溢れ出し、その魔力はレイラを包もうとしていた。


「何をしているっ!! そんなに魔力を放出すればお前が――」


 アレンの魔力量は恐らくこの場にいる誰よりも多いだろう。 何故なら人族よりも魔力量が多い魔人族、それもその頂点である魔王と6人いる勇者の中で魔力量が飛び抜けて多かった花の勇者エリスの息子だ。その潜在能力は計り知れない。


 しかしながらアレンは幼子だ。 内にある魔力を全開放などすれば幼い身体など耐えられるはずもない。


 それを肯定する様にセルカはアレンに魔力消費量が少ない魔法は教えても大量の魔力の扱い方を教えてはいなかった。 セルカにとって今のアレンの状況を一番恐れていたのだ。


「やめろアレン!! このままじゃお前まで――」


 ディアスがアレンを止めに入ろうと肩を掴むが、アレンは魔力を放出し続けた。


「――……ない」


「ア……レン?」


 辛うじて意識を保っていたレイラはアレンの顔を見た。


 既に身体中に激痛が走っているであろう。 時折痛そうに顔を歪ませる。 それでもなお、アレンは笑っていた。


「だ、いじょうぶ……だよ? 僕が、守る、から……絶対、死なせないから……」


「「!?」」


 アレンの言葉にセルカとディアスはハッとした。 レイラか赤子か、どちらかを選ばなければならないこの状況でアレンだけが2人共を救う方法を模索していた事に……


 そして、ある可能性を導き出した事に……

 

「いや、だが……あり得るのか?」


「いや、アレンならあり得る。 だがアレンが耐え切れるかは……」


 ディアスは半信半疑、セルカは理解はしていても決して取りたくない方法だった。


 このように、赤子の魔力が高く、母親が生命力を使う場合、血の繋がった母親の親族が母親に魔力を流し込み、出産までの間母親の生命力の代わりに魔力を消費する事が出来る。


 レイラはセルカに拾われた孤児であり、唯一の肉親であるエリスも既に亡くなっていた。 ディアスはその事からレイラの生命力の代わりとなる魔力を提供できる者がいないと思っていた。


 だがアレンはエリスの実子だ。 レイラとの血の繋がりは十分にあり、魔力供給が可能だった。

 

 しかしながら、その方法は一般的に2、3人の大人で行う事であり、幼子であるアレン1人では負担が大き過ぎるのだ。


 だからこそ、セルカはその可能性を一番に捨てた。 アレン1人では不可能であり、更なる犠牲者を増やすだけだと……


 だがアレンは誰にも教わらずにレイラと赤子を守る方法を見つけ、躊躇なく実行した。


 初めての魔力開放で無駄が多く、幼子ゆえに身体が悲鳴を上げても尚、魔力開放を止める様子はない。


 その行動に2人は頭を殴られたような衝撃を受けた。


 幼子であるアレンが諦めていない。 なのに大人である自分達が真っ先に諦めるなど情けない。


 最初に動いたのはディアス。 彼はアレンの手に自分の手を重ねて言った。


「アレン、今この状況でレイラと赤ん坊を救う事が出来るのは悔しいがお前だけだ。 俺も手伝う。 だから母さんと子供を助けてくれ!」


「お父さん……」

 

 ディアスはそう言うとアレンから放たれる魔力を制御し、無駄なくレイラの身体を包み込んだ。


「俺がお前の魔力を制御する。 お前は耐えて魔力を出し続けるんだ。 出来るか?」


 ディアスの真剣な問いに、アレンは幼いながらも覚悟を決めた目で頷く。

 

「うん! 出来るよ!」


「よし! 流石俺達の子だ!」


 2人のやりとりにセルカは盛大に溜息を吐き、呆れた笑みを浮かべる。


「まったく、これでは私も諦めるわけにはいかないではないか」


 そして彼女は真剣な顔付きになり、告げる。


「10分だ。 10分耐え切れば必ず私が取り出してみせる」


 セルカの言葉にアレンとディアスは頷く。


「私も……忘れないでくださいよ……」


「「「!?」」」


 アレンの魔力によって意識を取り戻したレイラがアレンの手を握りながら苦しそうに微笑む。


「アレン、子供を産むのは母親の役目だけど、お母さん、ちょっと難しいから……手伝ってくれる?」


 意識が朦朧としているレイラではあったが、自分を守っている魔力が誰のものか、分からないはずもなかった。 何故ならアレンが赤子の頃から一緒にいたのだ。 本当の母親でなくても分かるのは当然だった。


「アレンが手伝ってくれるなら……私も頑張れる」


 その言葉にアレンは力強く頷く。


「守るよ! 僕はお母さんの子供で、産まれてくる赤ちゃんのお兄ちゃんだから!」


 そこからは激しい攻防だった。


「んんんんんん〜〜っ!!」


「頑張れレイラ! 息子が頑張っているんだぞ! あともう少しだ!」


 出産の痛みに耐えるレイラ、そんな彼女を鼓舞しながら赤子を取り出すセルカ。


「ぐ、ぐぅぅぅぅぅっ!!!」


「耐えろアレン!! 頑張ってくれ!!」


 魔力開放の激痛に幼くも耐えるアレン。 そんな息子の小さな身体を抱き締めつつ、アレンの魔力を制御するディアス。


 2人共限界に近い。 このままではとディアスとセルカが思ったその矢先だった。


「オギャァァ!! オギャァァ!!」


 赤子の鳴き声が部屋中に響き渡った。 レイラは呼吸が荒いものの、命に別状はなく、アレンは肩で息をしながら魔力開放を止める。


「産ま……れた?」


「ああ、元気な女の子だ。 お前の妹だ」


 アレンの問いにセルカは産まれたばかりの赤子をタオルで包み、アレンとレイラに見せる。


「ありがとうアレン。 貴方のお陰よ」


 安定し始めたレイラも微笑みながらアレンに言う。 そしてディアスはアレンを力強く抱き締めた。


「お前が守ったんだ。 母さんを、妹を、よくやった。 よくやったぞアレン!」


 3人の言葉を聞いて安心したのか、アレンは微笑んだ。


「よ、よかっ……た……」


 そしてディアスの胸の中で眠りにつくのだった。

 

 

 


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