第9話【新しい家族】
新居に引っ越してから半年が過ぎたある日、夕飯を食べ終え、片付けた後、レイラは重大発表があると全員をリビングに呼んだ。
「それで? 重大発表とはなんだ?」
「何かあったのか?」
何か起きたのかと心配したセルカとディアスだったが、レイラ、そしてアレンの顔は満面の笑みだった。
「因みにアレンはこの事を知ってます。 ねー?」
「ねー?」
2人の様子に悪い出来事ではないと理解した2人だったが、そうなると余計に気になった。
「おばあちゃん、なんだと思う?」
「ふむ? アレンが中級魔法でも使ったのか?」
「ぶっぶー!!」
「違いまーす!!」
レイラとアレンはシンクロしたように同じ動きで違うと主張する。 何故か2人のニヤけ顔にイラっと来るセルカ。
「ディアスは?」
「……分からない。 教えてくれるか?」
ディアスも考えたが見当が付かなかった。 ディアスの答えを聞いた2人は顔を見合わせ微笑む。
「ではアレンお兄さん、報告をお願いします!」
「了解です!」
その会話でセルカは察した。 だがアレンが発表すると言うので黙っていた。
「えー、お母さんのお腹には僕の弟か妹がいます! 僕はお兄ちゃんになります!」
「なるほど、確かに重大発表だな」
セルカはそう言いながらディアスを横目で見る。 ディアスは珍しく動揺して立ち上がった。
「ほ、本当か?」
「ええ、本当よ。 これから忙しく――」
レイラが微笑みながら答える声を遮り、ディアスはレイラを抱き締めた。
「ちょ、ディアス? どうしたのよ?」
「……ありがとう」
戸惑うレイラを抱き締めながら、ディアスは小声で言った。 アレンに聞こえないように……
「……ディアス、アレンも忘れちゃ駄目よ?」
レイラは仕方がないと言うようにディアスの頭を撫でる。
「当たり前だ。 アレン、こっちに来い」
「うん? 何?」
ディアスはそう答えるとアレンを呼び寄せ、近付いたアレンを抱き上げた。
「アレン、俺はお前が生まれた時、父じゃなかった。 一緒にいてやれなかったからな。 でもお前が母さんを説得してくれたお陰で、こうしてお前と母さんのお腹にいる子の父になれた」
「ん? お父さんはお父さんだよね?」
ディアスの言葉は幼いアレンには難しかったらしく、アレンは首を傾げる。 そんなアレンに微笑みながらディアスは言った。
「アレン、約束しよう。 これからも勇者の仕事で一緒に入れない時があるかもしれない。 でも、俺はどんな事があっても、たとえお前に嫌われても、お前の父として、お前を愛し続ける」
ディアスがそう言うと、アレンは頬を膨らませた。 ディアスは何か怒らせる事をしたのかと不安になるが、アレンは叱るようにディアスに言った。
「もう、駄目だよお父さん? 僕だけじゃなくてお母さんと僕の弟か妹も愛さなきゃ」
その言葉にディアスは目を見開き、そして暫く経ってから苦笑いした。
「そうだったな。 アレンも、レイラも、そして生まれてくる子も全員愛さなきゃな?」
「そうだよ? ね? お母さん」
「ええそうね。 でもアレンはディアスにあげないわよ?」
そう言ってディアスからアレンを奪い取り、アレンの頬に自身の頬を擦り付ける。
「アハハッ! くすぐったいよ〜!」
「ズルいぞレイラ、俺にだってアレンを抱っこする権利はある」
「母親特権で私が優先ですぅ〜!」
そんな和気藹々とした家族を見ていたセルカは紅茶を片手に微笑む。
「まったく、全員揃ってお子様だなぁ」
そんな事を言いながら、セルカは見守っていた。
それからレイラは国王に妊娠の報告をし、勇者の仕事を暫く休業する旨を伝えた。
国王は祝福の言葉を送り、休業に関しても快諾してくれた。
その後暫くするとレイラのつわりが始まった。 事あるごとに体調を崩すレイラをアレンはセルカに教わりながら必死に看病した。
その間、ディアスはと言うと、レイラが抜けた穴を埋めるべく、勇者の仕事を行っていた。
国王もある程度の配慮はしてくれるものの、聖魔大戦が終わった今でも、違法に魔人族を捕らえ、売買する奴隷商が多く存在いる為、仕方なく出なければならない場合もあった。
そんなディアスだが、任務が終わればすぐに家に帰り、レイラに付き添った。
レイラのつわりが終わり、安定期に入った頃には彼女のお腹も大きく膨らみ、鼓動が感じ取れるようになった。
アレンはその音を聞いては、生命の誕生という神秘を感じ、自分が兄になるのだと実感していった。
そして時は流れた……
リュミエール家ではアレンとディアスがパニックになりながらもセルカの指示で慌ただしく動いていた。
「ディアス! お湯の用意だ! アレンはタオルをありったけ用意しろ!」
「うん!」
「わ、分かった!!」
理由は当然、レイラの出産の時が来たからだ。
セルカは赤子を取り出す為に動けず、アレンとディアスはオロオロとしていた為、セルカから叱責されたが、セルカの指示によりなんとか動けていた。
「おばあちゃん、持ってきたよ!」
「よし、ならアレンはレイラの手を握れ。 レイラを応援するんだ」
「うん!!」
アレンはセルカの指示通りにレイラの手を握り、声を掛け続ける。
セルカも自分のすべき事に専念しようとした。
だがそれは驚愕に変わる事になる。 そして、アレンの力の一端を知る事となった。