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かつての理系女は決意を述べる

 国王との謁見はあっさりと終わった。アンが考え事をしていたからである。アンとしては国王の顔を間近で確認したに過ぎなかった。

 また馬車に乗って近衛騎士団にもどる。

 

 近衛騎士団でにもどると、応接室に通された。案内の騎士によると、作戦室でまとまったことをマティアス武官長自ら説明に来るらしい。

 マティアスが来るまでの間、まだ一緒にいたヴェローニカが饒舌だった。

「それにしてもアン、国王陛下を前にして堂々たる態度、立派だったぞ」

 さすがのヴェローニカも国王の前では緊張したのか、今はいつもの砕けた口調にもどっている。

「そうでしょうか」

「そうだ、陛下がいろいろとおっしゃっても、『はい』とか『いいえ』とか短く答えるばかり、しかも微笑みを浮かべ何を考えているかわからない、もしかして外交経験でもあるのか?」

「いえ、別に」

 ステファン王子のことを考えていて王の言葉などろくに聞いていなかったなど、アンにはとても言えなかった。

「ま、それはともかく、これでフィリップ殿が正式に騎士団の顧問になり、いずれケネス殿にも加わってもらうことが決定したからよかったな」

 アンには初耳だった。王の話を聞いていなかったからである。

「そ、そうですね」

 適当に受け流しておいたが、ヴェローニカはまだ興奮状態にあるのか、アンの実情は気づかれずに済んだ。


 しばらくしてマティアス武官長がやってきた。

「大変お待たせいたしました、聖女様。王宮に行かれていた間にきまったことをご説明申し上げます」

 マティアスは立ったまま説明を始めようとするので、アンも立ち上がった。アンの目にも、マティアスがより畏まったのが見てとれた。つられてヴェローニカも、その他のメンバーも立ち上がってしまう。こんなとき気がきくのはヘレンで、

「皆様、おかけになってお話されたらどうでしょうか」

と言ってくれた。すると全員の視線がアンに集まっているのに気づいて、アンは、

「どうぞみなさん、おかけください」

と言うことができた。正式な場では、このメンバーだとアンが一番身分が高いのである。さすがにその辺に無頓着な自覚のあるアンは、ヘレンに感謝しつつ、今後もアドバイスをもらおうと思った。


 武官長の話では、防衛の主力はやはりグリースバッハとノイエフォルトの2箇所に置き、どちらも第一騎士団が担当する。国境唯一の湖ブラウアゼーは引き続き第二師団が担当するが、第二師団の本当の役割はいざというときための予備兵力である。投石機は大至急前線に移動させる。

 アンにも緒戦の防衛体制はそれで良いと思った。だが一応質問しておく。

「補給はどのようにお考えでしょうか」

「グリースバッハとノイエフォルトに近い幾つかの街を補給基地とします。そのなかでもヘルムスベルクという街に補給拠点と病院、そして前線の指揮所を置く予定です」

「そうですか、であれば私はヘルムスベルクに参りたいと思います」

 その言葉に武官長は驚愕した。

「聖女様、聖女様には近衛騎士団にて統一指揮の補佐をお願いしたいのですが」

 ヴェローニカも反対した。

「アン様、最前線ではありませんが聖女様がそんな危険な場所に行かれてはなりません」

 アンは反論する。

「それほど危険な場所に補給基地は通常置かないでしょう。参謀方はヘルムスベルクはそれほど危険ではないとお考えなのでしょう。それに私の治癒能力は、前線に近いほうがお役に立てると思いますが」

「そうですが、万が一のことを考えますと」

「もしヘルムスブルクにいる私に何かあったとすれば、それは戦線が破られ、ヘルムスブルクからの撤退も間に合わないという最悪の状況でしょう。そうであれば、私は国に殉じます」

 するとヴェローニカは床に跪き言った。

「アン様がそれほどのご覚悟ならば、第三騎士団が、いえ私が命に代えましてもアン様をお守りいたします」

 マティアスはヴェローニカに反対する。

「ヴェローニカ殿、お気持ちはわかる。だが第三騎士団は女騎士団、皆様の戦力とお覚悟をうたがうわけではないが……」

「いやマティアス様、我が国の女性の頂点にたつ聖女様が体を張られるのだ、第三騎士団こそその盾として相応しい」

「そ、そうであるが……、そ、そうだ、聖女様には近衛騎士団で指揮していただかないと」

 アンはそれについては意見があった。

「近衛騎士団には、フィリップにいてもらいます。彼は私よりも分析力にたけておりますし、ネッセタールから来るケネスもつけますので」

 アンは付け加えた。

「ヘレンはフィリップの補佐をしてもらえれば。あとフローラも」

 ヘレンがわりこんだ。

「聖女様、お言葉ですが」

 笑顔である。ヤバい笑顔である。激怒している時の笑顔である。アンはそれを久しぶりに見た。

「私達3人は聖女様の護衛を任ぜられております。というより本心としては、運命を共有していると思っております。ですからどうか聖女様のおそばに置いてくださいませ。フィリップとは伝書鳩魔法でいつでも連絡がとれますから。フローラも同じ気持ちだと思います。いいよね、あ・き・ら・くん!」

「は、はい、けっこうであります!」

 フィリップは札幌でのぞみの怒りの笑顔に何度か触れていた。その恐怖を思い出したらしい。

「聖女様、ヘレン殿、承知いたしました。ヴェローニカ殿、警護、お頼み申す」

 ヘレンの剣幕にマティアスまで納得してしまった。もしかしたらマティアスは恐妻家なのかもしれないとアンは思った。

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