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かつての理系女は友をたてる

 近衛騎士団にある第一作戦室で、ヴェローニカはアンの考える隣国ヴァルトラントの侵攻時期と進行方法について説明していた。

「さきほどのテオパルド参謀長の説明にあったように、隣国の経済情勢、というよりも食糧事情は切迫しております。まもなく冬です。冬を越せるほどの食糧備蓄がなければ、隣国は食糧を奪取するため冬を待たずに我が国に侵攻する可能性が非常に高いと第三騎士団と聖女室は判断しております」

 ここでヴェローニカは一息ついた。

「つづいて侵攻方法ですが、常識的には国境の森をつらぬく街道を経由するか、国境の湖ブラウアゼーを通るかしかありません。街道沿いの敵軍の集結情報はありません。また、第二騎士団がブラウゼー付近で演習を行っていますが、対岸に侵攻準備の様子は伺えないとのことです」

 すると作戦室にいる人々に「ではいったいどこから来るんだ」という疑問が広がるのが手に取るようにわかる。

「ここで話が変わるようですが、第三騎士団では6年ほど前でしたか、ドラゴンの卵を孵化させたことがありました。これは極秘事項のはずなのですが、小耳にはさんだところによると、中等学校の生徒がこの事実を知っていたらしい。第三騎士団から漏れたとしか考えられませんが、その責任はいずれ私自身が負いましょう」

 まずいことになった。ヴェローニカが情報漏洩の責任を取ると言っている。ヴェローニカでなければいったい誰が第三騎士団をまとめあげるのだろうか。

「責任の追求はいずれかならず受けますゆえ、話を先に進めさせていただきたい。ドラゴンは言うまでもなく最強クラスの魔物、その魔物は孵化したあとしばらく第三騎士団におり、大変なついておりました。隣国ではこの情報をもとに魔物の使役を可能にしているのではないかと、聖女室では疑っておられます。そしてその魔物を使って、国境の森の幅の狭いところを突破してくると聖女室ではお考えです。その可能性のある地点として、聖女室はグリースバッハという廃村の近くを指摘されています。ただし、突破口は1箇所とは限らないと付け加えておきます」


 ヴェローニカが説明を終えると、作戦室内はざわついた。マティアス武官長が引き取った。

「情勢については以上だ。聖女室からご指摘のグリースバッハには、第一師団の半数を先遣隊として送った。第一師団の残りについても、準備が整い次第グリースバッハ周辺に派遣する。国王陛下にもご報告済みだ」

 マティアスの言葉の意味するのは、もうノルトラントは臨戦体制に入りつつあるということだ。いつ隣国の侵攻が始まってもおかしくない。第一作戦室のメンバーたちに緊張が走るのが見てとれる。

「諸官にやってもらうのは、グリースバッハ以外の突破口の予測、およびそれに応じた動員計画だ。まずは防衛体制を決定し、長期の体制についてはその後検討を行う。なお、現段階では流通の制限などの経済対策は行わない。隣国に我が国が応戦体制にあることを悟られぬためだ。また、聖女室からの強いご意向として、民間人の安全に最大限の配慮をしてほしいとのことだ。民なくして国は成り立たないことを忘れないように。では、かかれ」


 参謀たちが作戦室中央のテーブルに集まり検討を始めたのがアンから見える。アンとしても心配だからその検討に加わりたいのだが、小娘が入っていけそうな雰囲気などない。困ったなと思っていると、フィリップもまた所在なさげにキョロキョロしているのが見えた。

「ジャンヌ様、ちょっと奥の地図を見にいっていいでしょうか」

「ええ、どうぞ遠慮なさらず」

「ありがとうございます」

 アンは席を立って、ヘレンたちを誘った。


 地図まで行く途中でフィリップのところへ寄った。マティアス武官長に一応断りをいれる。

「フィリップをお借りしてもいいでしょうか」

「うん、もちろん」

 

 地図の下で、アンはフィリップに話し始めた。

「今日はありがと」

「うん、やっと君たちの仕事に参加できるよ」

「それでね、状況はさっきまでの話の通りなんだけど、ヴァルトラントがどこから侵攻してくるか、フィリップにも考えてほしいんだよね」

「わかった。基本的には森を突破してくると考えてるんだよね」

「そう、さっきヴェローニカ様の言ってたグリースバッハはね、ヘレンが見つけたんだよ」

「お、そうか、さすがヘレン、俺も負けちゃいらんないな」

 急にやる気を出したフィリップを見て、アンはヘレンの名を出して良かったと思った。ヘレンもなんだか顔を赤くしている。


 アンたちはとにかく森が突破できそうなところ、我が国ノルトラントにとって突破されたくないところ、を探していた。もうすでに何回も地図をみて検討していたから、なかなか見つからなかった。ある意味突破しやすいところが見当たらないと言うことは、その分我が国の守りは堅いと言うことになる。ついついそういう結論に逃げそうになりながらも、がまんして突破口候補を探していると、フィリップが発言した。

「ここ、危なくないかな」

 フィリップはヘレンが指摘したグリースバッハの近く、馬で半日くらいの位置を指さしていた。

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