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かつての理系女は弱点を探す

 アンは馬車に乗せられ第三騎士団を出た。馬車にはヴェローニカとアン達4人が同乗し、馬車のまわりは結構な数の騎士が護衛についていてくれているのが見て取れる。揺れがいつもより少しひどいから、馬車は通常より速度をあげているのだろう。


「アン様、武官長様やそのほかの騎士団長たちにどうお話をされますか」

「私としては、さきほどと同じ話を繰り返すだけかと思いますが」

「対応策は、なにかお考えですか」

「軍事的なことは素人ですから、なんとも……」

「うーむ」


 ヴェローニカの苦悩はアンにもよくわかった。国境は長い。今までの想定では魔物のせいで国境を軍隊が突破してくることは不可能だと考えられていた。だから防衛は数少ない街道だけ考えていればよかった。しかしアンの考えではヴァルトラントの軍隊は森を突破してくる。ただ、森のどこを突破してくるかがわからない。つまりどこを防衛すればよいのか検討もつかないのだ。

 

「アン様、突破口はどこかおわかりになりますか?」

 アンは国境付近の地理に暗く、まるで検討がつかない。

「そうですね、敢えて言えば、一番突破されたくないところ、とでもいいましょうか」

「なるほど、一番突破されたくないところ……」

 アンとしては苦し紛れに言ったのだが、ヴェローニカは考え始めた。

 

 しばらくして、ヴェローニカがやっといつものニヤッとした顔になった。

「アン様、一番突破されたくないところ、参考になりました。地図のあるところでしっかり検討させていただきます」

「は、はい」


 ここでネリスが会話に割り込んできた。

「ヴェローニカ様、ちょっといいでしょうか」

「なんだ」

「騎士団長として聖女様のご意見を聞かれるのはいいとおもいます。ただ、あまり大っぴらにそれをなさらないほうがよいかと」

「なに? アン聖女様のお力を見せつけるのは良いではないか」

「そうではありますが、なにもかも聖女様だよりというのはいかがなものかと」

「そんなつもりはないぞ」

「ヴェローニカ様のご意思の問題ではありません。騎士団と聖女様が手をとりあって我が国ノルトラントを守るのが理想です。聖女様におんぶにだっこという印象は、騎士団の士気、そして国民からの信頼をそこないかねません」

「う、うむ。わかった、注意しよう」

「出過ぎた発言、お許しください」

「いやいや、ネリスは騎士団のために言っていることはわかるぞ」

「恐れ入ります」


 近衛騎士団にはまだ暗いうちに着いた。通過した王都の街並みはまだ夜の眠りについていて静かだったが、近衛騎士団は騎士たちが忙しそうに行き交っている。もちろんアンの発した話に対応しているのだ。

 馬車を降り、近衛騎士団の騎士の案内で足早に建物の中を歩く。近衛騎士団には何回も来ているが、案内されている場所は建物の奥深くで始めて来る場所だ。大きな扉を通ると、正面に我が国ノルトラントとその周辺が描かれた地図が見え、近衛騎士団の作戦室に通されたことがわかった。

 

 おもわずキョロキョロしながら部屋の中を進むと、ヴェローニカが話しかけてきた。

「こちらは近衛騎士団の第二作戦室です。第一作戦室の予備として、第一作戦室と全く同じに作られています。いざというときは国防上の中枢機能を担うので、第三騎士団の作戦室よりは大幅に大きいのですよ」

「なるほど」

「第一作戦室は、常時機能しており要員がつめていますので、今日はこちらにしてもらいました」

「ご配慮ありがとうございます」

 第三騎士団にいるわけではないので、ヴェローニカはアンに対して正式な言葉遣いをしているようであり、それだけにアンの緊張感も高まった。

 

 第二作戦室は部屋の中央部分が窪んでおり、そこに大きなテーブル状のものが置いてある。テーブル全体がノルトラントとその周辺国の地図になっていて、ところどころに馬の形をした模型とか人間の形をした模型とかが置かれている。アンはそれを見て、馬の形は騎士団の部隊、人間の形は歩兵部隊を表すのだろうと想像した。部屋の窪んだ部分をかこむように机が並べられ、有事には将軍や参謀たちが地図に並べられた模型を見ながら作戦を考えるのだろう。


 作戦室の一番奥、大きな国内地図の真下に来たところでヴェローニカは、

「全員が集まるまで、おかけになってお待ち下さい」

と言ってくれたのだが、アンは、

「地図を見ていていいでしょうか」

と断った。国防上の弱点を早く見つけたかったからだ。

「どうぞ」

 ヴェローニカは許可を出しつつも、地図の下まで椅子を運んできた。

「こちらにおかけになって、少しでも体をお休めください」

「ありがとうございます」

 フローラ達はそれを見て、それぞれ椅子を持ってきて地図の下に並べ自分たちも地図の内容を丹念に調べ始めた。

 

 隣国ヴァルトラントはノルトラントの南側を国境に接している。ほぼすべての国境は魔物の巣食う森であり、例外は大きな湖ブラウアゼーだけである。始めアン達はブラウアゼーからの侵攻を予想していた。しかしアンは従来突破不能と考えられていた森からの侵攻を考え、今、近衛騎士団の第二作戦室に来ている。ほどなく呼び出した騎士団長達が到着するだろうが、それまでに少しでも地理に詳しくなりたかった。

 

 常識的にはまず、森の幅が狭いところが突破しやすいだろう。ただ、その場所がヴァルトラントにとって補給しやすく、突破先に拠点が築きやすいことが必要だ。森の中に崖を伴う山があってもよくないし、突破先が沼地でも困るだろう。

 

「アン、ちょっといい? ここ見てよ」

 ヘレンがアンを呼んだ。アンだけでなく、フローラ、ネリス、さらにヴェローニカもやってきて、ヘレンが指差す先を見た。

 

 そこには廃村があった。

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