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かつての理系女は物理以外に興味がない

 宝石店を出たヴェローニカはフローラ、ヘレンと合流した。宿までもどる途中、菓子店に寄る。

「フローラ、ヘレン、私が払うから好きなものを買ってこい。私達は宝石店で菓子を出された」

「ありがとうございます」

 二人は店内に飛んでいった。

「アン、ネリス、ちょっと待っていてくれ」

 ヴェローニカは笑顔で店に入る。

 

 しばらく待っていたら、ヴェローニカのあとに大きな袋を抱えた二人がついてきた。

「あとでみんなで食べよう、フローラ、ヘレンは多めに食べていいんだからな」

 アンは我慢できずフローラに聞いた。

「何買ったの?」

「マカロン」


 宿にもどると、いそいそとヘレンが紅茶を入れ始めた。良い香りが室内を漂う。

「ヘレン、腕を上げたな」

「ありがとうございます」


 ホテルのダイニングテーブルと応接セットに、ヴェローニカ、アン達4人、レギーナ達4人が座る。レベッカ達は部屋付近の警護にあたってもらって、報告はあとで聞くことにする。

 全員に茶菓がそろったところで、ヴェローニカが話を始めた。

「諸君、一日ご苦労だった。とりあえず第一目的のケネスだが発見できた。今夜ここを訪ねてくるはずだ」

 レギーナたちがホッとしたような息を吐くのが聞こえる。

「情報収集の方だが、やはり鍛冶職人は若手がかなり隣国に引き抜かれているようだ。あと時間があまったから隣国から来ている宝石商のところに行ったんだが、宝石自体は不足していないが値が高い。隣国内の卸値が上がっているという話だった。これについてどう思うね?」

 アンは考えていたことを言った。

「それについては、外貨をかき集めているんだと思います」

「外貨だと?」

「はい、戦争になれば自国内の産業の軍需の割合が高くなり、どうしても輸入が増えます。そのためには外貨が必要で、あらかじめ準備している可能性があります」

「なるほど、それについては引き続き調べよう。その他気がついたことはないか?」

 今度はフローラが発言した。

「その宝石店での支払ですが、不自然だとは思いませんか?」

「そうだな」

 するとラファエラが質問した。

「支払いに、なにか問題があったのですか?」

「うむ、小切手で支払おうとしたのだが、隣国の銀行のものを欲しがっていたようだ」

 フローラが発言する。

「それは戦争が近い兆候かもしれません。我が国の銀行のものだと、戦争が開始された場合支払われなくなるでしょう。隣国のものであれば、帰国してからゆっくりと換金することができます」

「なるほど、その他なにか気がついたことはないか」

 今度はディアナが発言する。

「確証はありませんが、店をのぞいて値段を確認しているだけ、という感じの者が目につきました」

「うーん、戦争を準備していれば、スパイはかならず何人も入国しているだろう。ま、かんたんに尻尾はつかませてくれないだろうがな」

「このあたりは専門の部署に任せないと、我々ではこれ以上は無理でしょうね」

「うむ、深入りせず気づいたことをレポートにまとめ、専門家に回すことにしよう」

 

 続いてレギーナたちに警備に出てもらい、レベッカたちに入ってもらう。ヘレンが茶菓をレベッカ達4人に用意する。

 ヴェローニカは、いままでの報告でわかったことを簡潔にレベッカたちに伝えた。そのうえで報告を聞く。

「馬車の動きはどうだ?」

 レベッカが報告する。

「定期便は通常通り運行されていますが、空席が目立ち輸送力が余りそうなので、親方は便数を減らしたいと言っていました」

「その他は?」

「やはり貿易自体細りつつあり、とくに隣国からの輸出が減っているそうです。我が国からの輸出遺品については、とくに贅沢品の輸出が相当厳しいようです」

 どの情報も、隣国の経済の厳しさを語っている。

 フローラが発言する。

「馬車の定期便ですが、空席だらけであっても便数は減らさないほうがいいかと思います」

 ヴェローニカが聞く。

「なぜだ?」

「便数を減らすと、我が国が戦争準備をしていると考えられてしまうかもしれません。多少無理をしても物流は維持すべきかと思います」

 するとヘレンが、

「それだといざというとき、その人達を見捨てることにならない?」

「それもそうか」

 アンは口を挟む。

「その危険を含め国防トップに情報を伝えよう。民間の被害への対策は、私が聖女として強く頼んでみる」

 それを聞いたヴェローニカが、結論を出すように言う。

「ああ、そうしてくれ。それと、ケネスの問題さえ解決すれば、我々はネッセタールに長居しないほうが良さそうだ」

 するとフローラは、

「残念ですが仕方ないですね。あと、ケネスには、どこまで話しますか?」

と、本当に残念そうに言う。ヴェローニカは、

「アン、どう思う?」

と話をアンに振ってきた。

 実のところアンの心は最初から決断していた。

「ケネスが健太であることが確認できたら、全部話しましょう」


 ちょうどそのとき、部屋のドアがノックされた。

 ネーナがドアのところへ行く。

「ヴェローニカ様、ケネス殿がいらっしゃいました」

 フローラが緊張したのか顔を赤らめたのが見える。


 ケネスが部屋に入ってきた。レベッカ、カロリーナ、ネーナ、マリカの四人はすっと立って部屋を出ていく。ケネスはそれをキョロキョロと見ていた。

 ヴェローニカがとりあえず仕切る。

「ケネス殿、お忙しいところお呼びだてしてすまない。私は第三騎士団団長、ヴェローニカだ」

「お初にお目にかかります。ケネスです。お聞き及びかもしれないですが、フローラとは幼馴染です」

 ケネスは14歳とは思えない落ち着いた様子で、ヴェローニカに答えた。

「うむ、そしてこちらはベルムバッハのアンだ。もしかして知っているか」

「はじめましてアンさん。フローラの里帰りのときは、おうわさを聞いていましたよ」

 健太は優花の彼氏でつきあいは長い。しかし修二や明のような濃密な時間を過ごしたわけではないので、アンとしてはケネスが健太なのか今ひとつわからない。フローラはと見ると、顔を赤くしてうつむいてしまっている。

 

 応接セットに案内し、上座にヴェローニカが座り、フローラとケネスが向かい合うように座った。アンはフローラの隣に座る。

 時間をかけても仕方がないので、アンはフィリップに渡した紙をケネスに示した。もとの世界の字で、方程式とか化学反応式とかが書かれているものである。

 ケネスはその紙を手に取り、ギクッとした顔をした。内容を上から下まで舐め回すように読んでいた。

 どれだけ時間がたったかわからなくなる頃、ようやくケネスが口を開いた。

「聖女様って、ほんと物理以外に興味がないよね」


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