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かつての理系女は携行食を食べる

 第三騎士団でヴェローニカからステファン王子軟禁の事実を聞かされたアンたちは、ジャンヌ聖女代理に助力を得ることにした。そろそろ昼食時なのだが、アンたちはそんな気になるわけもなく急いで聖女室のある宮廷教会へ向かう。

「アン、馬車を使え」

 ヴェローニカの指示に以外な思いがしたアンは反論した。

「馬のほうが速くないですか」

「そうだが、馬車の中で食事を摂れ」

「ありがとうございます」

 鍛え上げられているヴェローニカ達はともかく、アン達はまだまだ体が出来上がっていない。そうかと言って悠長に食事を摂る気にもならなかろうと、車中で食べてしまえということらしい。馬車に乗り込むと携行食が差し入れられた。

 フローラが携行食を開き配る。

「アン、あんたがしっかりしてないとだめなんだからね」

「うん」

「ピンチなのはあんたじゃない。あんたが王子を助けるのよ」

「うん、ありがと」

 フローラの言うのももっともなので、アンは無理矢理にでも飲み込む。車中は緊張感にみちているので、感謝もこめてアンは話をすることにした。

「ネリス、あいかわらず美味しくないね」

「うむ、うまくないのう」

「じゃ、これを作った人は、成功してるね」

「なぬ?」

「あのね、聞いた話なんだけどね、携行食を美味しくしちゃうとつまみ食いされちゃうから、わざとあんまり美味しくないようにしてるらしいよ」

「うーむ、ワシは腹さえ満ちればいいのじゃが、それでものう」

「だ か ら、そういうくいしんぼからの被害を防ぐためだって」

「う、うーむ、理屈はわかるが納得できん!」

 するとヘレンが荷物をごそごそとしはじめた。そして取り出したものをネリスに差し出した。

「うお、ドライフルーツではないか! お主、どこでそれを」

「ヴェローニカ様の部屋から拝借してきた。こんなことになるんじゃないかってね」


 そのあと行く先々で、アン達は食料調達を心がけることになり、ヴェローニカを呆れさせた。

 名目は「腹が減っては戦はできぬ」

 実際は「女あるところに甘味あり」

 

 予想通り、ジャンヌは聖女室で仕事していた。

「アン様、ヴェローニカ様、どうかなされましたか? 今日こちらのご予定ではなかったかと思いますが」

 ヴェローニカはさっとジャンヌに近づくと、低い声で話した。

「ジャンヌ様、お人払いを」

 ジャンヌは部屋にいる人を下がらせると、応接セットに一行を導いた。

 ジャンヌ、ヴェローニカ、アン達4人が座り、レギーナ達いつもの4人が部屋の隅に立ち警戒する。

「ジャンヌ様、ここからのお話はアン聖女様達の重大な機密になります。どうかジャンヌ様だけのお心の中にとどめていただければ」

「承知しました、うかがいましょう」

「ありがとうございます」

「ジャンヌ様、ステファン第二王子が軟禁下にあることをご存知ですか?」

「え、そうだったのですか?」

 そこから話を始め、アン達が異世界からきたこと、ステファン王子もそうであり、アンのかつてのパートナーであったことなどを話した。

「とりあえず、わかりました。アン様、フローラ、ヘレン、ネリス、苦労しましたね。あなた達は最初から優秀だったけれど、それだけじゃなかったのですね」

 少し間をおいて、ジャンヌは言葉を続けた。

「今のお話で、先代の聖女様が何故、あなた達に期待をおかけになり、同時に心配をなさっていたのか、よくわかりました。私も微力ながら、ご協力させていただきたいと思います。それでまず、何をなさりたいのでしょうか」

 ヴェローニカも話を続ける。

「第一にステファン殿下の安全確保、さらにステファン殿下にかけられている疑いを晴らすことが目標です。ですから、最初にステファン殿下と親しかったご学友に接触したいのです」

「ああ、その方のことなら聞いたことがございます。確か今年神学校に入学されたフィリップ様のことかと」

「なんとか接触できませんか」

「そうですね、明後日神学校で講義があります。そのときみなさん同行されては?」

「そうさせていただけますか?」

「では明後日の朝、ここで集合でいいでしょうか。みなさんは私の護衛として行かれるのがよいかとおもいますので」

「おねがいいたします」

 ジャンヌは日頃の慈愛に満ちた雰囲気は残しながらも、おそろしくテキパキと話をヴェローニカと進めてしまった。慈愛に満ちた笑顔の影で数多くの修羅場をくぐりぬけてきたのであろう。そういう意味では実戦部隊のヴェローニカと通じるところがあり、話が早かった。

 

 ジャンヌは休む暇を与えなかった。

「それではみなさんは、第三騎士団にお戻りになったほうがいいでしょう。ここは人目につきやすいですから。それにできる限り通常の業務をこなしてください。なにか特別な動きをしていると知られると厄介です」


 再び馬車に乗り、第三騎士団にもどる。ジャンヌの言う通り、剣術の稽古、算術の講義を行わなければならない。騎士団の団員は、スケジュールの変更など慣れているだろうが、やらないよりはいいだろう。ずっと団長室にこもって相談などしていたら、それこそいらぬ嫌疑をかけられかねない。

 車内で今度はネリスがごそごそとしている。

「ヘレン、さっきの礼じゃ」

 ビスケットである。ネリスの手に小さいのが4つ乗っている。

「ほら、みんなも」

 アンもフローラも早速いただく。

「おいしいね」

 ジャムが挟んであった。

「ちょっと口の中が乾くね」

 するとヘレンがごそごそし、水筒を出した。

「さすがヘレン、用意がいいのう」

 ネリスが感心するが、ヘレンは逆に問い返した。

「ネリス、あんたこのビスケット、どこで手に入れたの」

「ん、マリアンヌ様からいただいたのじゃ」

「盗んでないよね」

「何を言う! 武士が無心などするか!」

「いつから武士になった」

 馬鹿な話をしていたら第三騎士団についた。笑いながら馬車を降りる四人の様子を見たヴェローニカは、

「余裕があるのはいいことだが、いったい何の話をしてるんだ?」

と怪訝そうに言った。

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