かつての理系女は仲間を探す
「みなが異世界人だということか?」
ヴェローニカの発言に、四人とも言葉を失った。
かなり長い時間をかけて、やっとアンの口から出てきたのは、
「池田先生じゃないですよね……」
だった。
「誰だ、イケダというのは」
ヘレンが答える。
「前の世界でアンの隠し事を見破った、アンの恩師です」
「私は異世界人じゃないぞ」
「では、何故?」
「うむ」
アンの問いかけに、ヴェローニカは一呼吸おいてから答え始めた。
「6年前、先代の聖女様のご推薦で君たちは女学校に入学したな」
「はい」
「その時聖女様がおっしゃっていたのだ、とてもこの世の者とは思えない能力だと」
「はい」
「入学後実際に私が君たちに接してみて、先代の聖女様の仰ることがもともだと思え、私も色々と調べてみたのだ」
「調べたとは何をですか」
「もちろん文献だ。ただ、並の記録ではわからず、王妃様に頼み込んで王室の禁書庫の記録まで見せてもらった。そしてやっとこの夏前だよ、以前に異世界から来た者がいるということがわかったのは。その人は初代の聖女様でな、日記に異世界から来たとの記述があったそうだ」
初代聖女ということは、アンの記憶では千年ほど前の人だ。
「聡明でな、何でも知っている。そしてものすごい魔力もお持ちだったそうだ。聖堂が金色の光でいっぱいになったらしい、ちょうどアンのようにだ」
「王妃様にはご報告は」
「まだだ、だからこの事実は私しか知らん」
「ではいずれ」
「そうだな、機会を見て話さねばならん」
その機会が今なのか、アンにはわからなかった。
その判断は先送りにして、アンはかつての世界のことを語った。学問の道を志していたこと、結婚していたこと、そして夢の中でブラックホールを通り抜けてこの世界にやってきたこと。
ヴェローニカの質問は、
「こちらに来る直前、君たちは何歳だったのだ?」
だった。
「二十四です」
「なんだと、そうすると生きていた時間の合計は三十八、私よりよっぽど年上ではないか」
「まあそうですが、小さい頃は小さい頃なりでしたので」
「でも八歳では記憶を取り戻していたのだろう」
「そうですね」
「となると実質今で三十歳、私より若干年上ではないか」
「それはヴェローニカ様がお若いだけかと」
「いや、待てよ、諸君が入学したときも、私より年上ということか」
「それはそうですね」
「私は年上相手に、子供扱いしていたのか、は、恥ずかしい」
「いえあの頃は実際子供な部分が多かったですから」
「それにアンは結婚していたと言うではないか、正直言って一番遅そうなタイプではないか、私だってまだだぞ」
ヘレンが口を挟む。
「いえ、アンが一番奥手ですが、それだけに相手が見つかったら一番突っ走っただけです」
「うるさい、明くんのこと、バラすよ!」
「何、ヘレンも結婚していたのか?」
「結婚はまだですが、同棲してました」
「だ、だめだ、ちょっと落ち着かせてくれ」
暫くの間、ヴェローニカはスーハースーハーと深呼吸を繰り返していた。ときどき、
「妹のように思っていたのだぞ」
「姉ヅラして損した、私の6年間を返せ」
とかつぶやいていた。
やっと落ち着いたのか、ヴェローニカが話し始めた。
「整理するとだな、皆元の世界では学問を志す学徒であって、二十四歳のとき、それぞれのパートナーと夜空の黒い穴を通って、こちらの世界に来た。しかしこちらの世界では、パートナーと離れ離れになっていると」
アンは肯定する。
「だいたい、そういうことだと思います」
「で、アンのパートナーは、ステファン王子の可能性が高いと。他のパートナーは見つかっているのか?」
今度はフローラが言う。
「私のパートナーらしき者は地元のネッセタールにおりますが、確証はありません。その他は一切不明です」
「その者は、どういった者なのだ?」
「私と同い年、職人の子ですが、小さい頃からものづくりの天才と呼ばれていました。今にして思えば、彼がそうである気がします」
「どうすれば確認がとれるか?」
「アンにみてもらうのが一番だと思います」
「名前は?」
「ケネスです」
ヘレンが思いついたように言う。
「ケネスって、愛称ケンになるよね」
「ケンだとまずいのか?」
「いえ、向こうでの名前が近いので、可能性が高いかと」
「とにかく、早急に調べさせよう。調べたうえで、必要なら王都に呼ぶなり、アンがネッセタールに行くなりすればよかろう」
「承知しました」
「それはそうと、ステファン王子は君たちと同い年、君たちと同様飛び級で王立中等学校に入学、この夏卒業して、今、王立高等学校の1年生だ」
「なるほど、いよいよ怪しいですね」
「それでだな、ステファン王子のご学友でな、諸君と同い年、同じく飛び級の者がいるらしい。話ではこの秋、王立神学校に進学したそうだ」
「その方と接触したいですね」
「だが、私は接点が無い」
「ヴェローニカ様、ジャンヌ様にお願いしたらどうでしょうか」
「そうか、聖女代理のジャンヌ様は、神学校にも授業があるはずだな」
「では、お願いしてみましょうか」
「今日、ジャンヌ様のご予定を知っているか?」
「今日は聖女室でお仕事されているはずです」
「では行こう」




