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かつての理系女はドラゴンを呼ぶ

 アンデッドたちとの戦いは終わった。森は浄化された。しかし森を放置すればいずれまたアンデッドたちがよってくる可能性はある。

「ヴェローニカ様、作業に入りましょう。ここは予定地より手前ですが、みはらしもよく、悪くない場所だと思います」

 アンが問いかけると、ヴェローニカは即断した。

「わかりました、後続を呼んで、仮の祠を作りましょう。後続が来るまで、聖女様は御札を作っていただけますか」

「承知しました」


 ヴェローニカはフローラとラファエラを呼んだ。

「フローラ、体力はもどったか? 森の入口まで伝令を頼みたいのだが」

「は、はい、大丈夫です」

 フローラの顔には、なんで私が、と書いてあった。

「フローラ、一人で行かせるわけはない、実はラファエラを守ってほしいのだ」

「私が、ですか」

「そうだ、聖女様は大丈夫だとおっしゃっているが、念の為強力な防御魔法をもつフローラがいれば、心強い」

「心得ました」

「ラファエラ、フローラの疲労に気をつけてくれ」

「承知しました」


 フローラとラファエラが出発した。アンが見たところ、馬上のフローラは姿勢も良く大丈夫そうだ。手を振ると、手を振り返して行ってしまった。

 

 森の様子は相変わらず平和だ。この平和が続いてほしいと思う。アンは御札にこめる祈りの内容を考えていた。考えている間に、レギーナがどこにしまっていたのか小さな机を出してきた。

「これをお使いください」

「ありがとうございます」


 机の前にあぐらをかいて座る。あたりをみまわす。アンはふと思いだした。女学校の一年目の冬に出会ったドラゴンのことを。

 ルドルフはもう大きくなっているだろう。ルドルフがときどきこの森に顔を出してくれれば、変な魔物は恐れおののいてこの森には来ないだろう。

 アンは前に聖女室で見たカードに書かれた祈りの言葉を思い出し、だいたいそれに似せた文を森の実情にあわせて書く。


 平和な森を。

 植物、動物、魔物が正常な食物連鎖を保つ森を。


 人間が適度に手を入れ、人間が適度に恵みを受けられれば、それでよかった。それをルドルフが見守ってくれればな、と思って、文言の最後にドラゴンの絵を書いた。我ながら下手な絵に笑ってしまう。

「アン、真剣にやってよね」

 笑っているのを見たヘレンに注意された。

「真剣よ、だけどね」

と言って、ヘレンに御札をみせた。

「なにこれ?」

「ルドルフ」

 ネリスもやってきて覗き込んだ。

「これはルドルフに失礼じゃな」

「しかたないじゃない、私、絵は下手なんだから」

「だけどなんでルドルフ?」

「ずいぶん会ってないけどさ、ルドルフがたまにここに寄って、森を見守ってくれないかなって思ってね」

 突然陽光が一瞬陰った。

 

 不審に思って空を見上げると、ドラゴンが一頭、空を舞っていた。

 

 ヴェローニカをはじめ、騎士たちがアンたちを取り囲んだ。

「ドラゴンが出ました。あの大きな木の下なら、攻撃を受けにくいと思います」

 ヴェローニカの声に緊張感が漂う。

「ヴェローニカ様、あれはルドルフです」

「ルドルフ?」

 あのヴェローニカが敬語を忘れている。

「お忘れですか、5年前の冬、卵から孵したルドルフです」

「わかるのか?」

「まちがいありません。降りるところを探しているのでしょう」

 アンはそう言って、開けているところに出てみた。

「ルドルフー」

 思い切って大きな声を出すと、ドラゴンは首をこちらへ向け降りてきた。

 

 どーんと衝撃があって、アンの眼の前にドラゴンは着地した。

「ルドルフ、久しぶりね」

 アンは嬉しくて我を忘れ、ルドルフの顔にしがみついてしまった。

「うれしい、おぼえていてくれたのね」

「ウォーン」

 ルドルフが返事した。ヘレンとネリスもルドルフに抱きついた。

「ウォーン」

 しばらく抱きついていたら、アンの気持ちは落ち着いてきた。

「まずい」

「ウォン?」

「私、フローラに恨まれる」

「ウォン」

「ルドルフ、フローラが戻ってきたら、しっかりかまってあげてね」

「ウォーン」


 恐る恐るといった感じで、ヴェローニカたちが近づいてきた。

「アン、話ができるのか?」

「意思疎通はできているとおもいます」

「ウォーン」

 ルドルフはヴェローニカの方に首を伸ばした。

「ヴェローニカ様、ルドルフは覚えているようですよ。挨拶したいようです」

「そ、そうか」

 ヴェローニカは腰砕けになってしまっていたが、なんとかルドルフの顔をなでていた。後ろに控える、レギーナ、エリザベート、ディアナが複雑な表情をしている。ネリスがディアナに近づいていって聞いた。

「ディアナ様、どうされました?」

「いや、ヴェローニカ様が動揺されているのを初めてみたので」

「おい、ディアナ、聞こえているぞ。諸君もルドルフに挨拶しろ」

 もうヴェローニカはもとの調子にもどっていた。

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