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かつての理系女は実家に泊まる

 礼拝堂にはアンと、アンの両親、そしてフローラ、ヘレン、ネリスだけが残った。

「みなさん、ベルムバッハにようこそ」

「みなさんのお家のように、ゆっくりしてね」

 両親はとりあえず3人を歓迎してくれた。つづけて母さまが、

「アン、みなさんを紹介してくれないかしら」

と言うので紹介する。

「うん、こちらがフローラ。魔法がすごいの。あとね、きれいなもの、かわいいものに詳しいんだ」

「それからね、ヘレン。料理とか上手だけど、武術もつよいんだよ」

「あとね、ネリス。この中じゃ一番武術はつよい。強いだけじゃなくて、いろんなことに気遣いができる子だよ」

 すると母さまが言う。

「ああ、オヤジの人ね。手紙でよく聞いてるわ」

「なんじゃ、わしだけひどいではないか」

 みんなで大笑いした。

 

 夕食づくりはヘレンとネリスが手伝ってくれた。アンとフローラは教会の事務の手伝いをした。そして一つの部屋を掃除して、今夜の四人の寝床を確保した。


 夕食は六人で囲んだ。テーブルにはアンの好物ばかりが並べられていた。しかし内容に喜んだのはフローラだった。

「アン、聞いてはいたけれど、野菜がおいしいね」

 それを聞いて母さまが喜ぶ。

「そう言ってくれるとうれしいわ。なにもない村だから」

 するとヘレンは、

「私も田舎育ちだけど、ここの野菜は美味しいよ」

 と言う。しばらくして、父さまが気づいた。

「ネリスさん、あまりお口に合いませんか?」

 これにはヘレンが答えた。

「あ、ネリスはつまみ食いのしすぎです」


 夕食から夕食後と、会話ははずんだ。父さまも母さまもアンの女学校での様子を聞きたがり、フローラたちは喜んで話した。父さまも母さまも驚いたのは、アンの勉強の様子だ。

「もともと勉強もできたし調べたりするのも好きな子だったが、騎士団の方に算術を教えるまでになっていたとは」

「そうね、いつの間にか、大きくなっていたのね」

 アンは両親を心配させまいと、勉強のことはあまり詳しくは伝えていなかったのだ。

 そして今更思う。

 勉強する理由は、仲間と共に元の世界に帰るためだ。でもそのときは両親は連れていけない。それはそれでとても残念なことだ。


 そうは言っても、6年もかけて勉強しても元の世界に帰る方法は何も見つけられていない。大学院で学んでいたことを取り戻すのが精一杯、特殊相対論は少し進めることができたような気がするが、この世界には教科書も論文もないのだ。自分のやっていることが正しいか確かめる術がない。

 そして一番大事なことだが、男子たちを誰も見つけられていない。


 懐かしさにつつまれながらいろいろなことを考えていると、だんだんと眠くなってきた。眠そうなアンを見て、話は尽きないのだが就寝することになった。

 

 夜中目を覚まして台所で水を飲んだ。物音がするので窓から外を見ると、不寝番が教会のわまりを警戒に歩いているのが見えた。

 

「アン、起きなよ」

 ヘレンの声で起こされた。

「う、うん、もうちょっと」

「起きないとネリスにくすぐられるよ」

「うん、起きる」

 アンが飛び起きると、横にはネリスがいて、まだねむそうだった。

「なんか呼んだか」

などと、目をこすっている。

「ヘレン、だましたな!」

 しばらくくすぐり合いをやっていると、

「何をやっているんだ、朝から騒々しいな」

とヴェローニカに叱られた。四人一列に並ばされ、

「アン様、身分が上の方を叱りつけるなど、心臓に悪いことをさせないでください」

と、主にアンが叱られた。


 朝食では、近所の人の動向が話題になった。アンは気になっていたことを聞いた。

「父さま、昨日ニーナはいたけどヨハンはいなかったね。どうかしたのかな?」

「ああ、ヨハンは春に森で足を痛めてな」

「春? 長いね」

「ああ、医者にも診てもらってるんだが、なかなか治らないらしい」

「わかった、時間があるときに行ってみる」

「いいのかね?」

 ここで父さまが言っているのは、聖女であることをまだ隠していることについてなのは、アンにはすぐわかった。

「うん、ヴェローニカ様に相談してみる」

「それがいいだろう」

 フローラが聞いてきた。

「ねぇアン、ヨハンさんって、どんな人?」

「うん、同い年のニーナのお兄さんでね、2つ上かな?」

「だから、どんな人?」

 フローラが珍しくしつこく聞いてくる。

「どんな人って言っても、近所のお兄さんだよ、そうだ、教会の前に日時計あるでしょ、あれ作るの手伝ってくれた」

「ふーん」

 フローラを含め3人はいやな目でアンを見てくる。

「なんか変な誤解してない?」

「いや別に」

 すると母さまが急に話に参加してきた。

「アン、ヨハンとそんな関係だったの?」

「母さままでなんてこと言うの!?」

 食卓が笑いに包まれた。

 

 朝食が終ると、アンはヴェローニカのところに行った。

「おはようございますヴェローニカ様、ちょっとご相談が」

「ああ、アン、どうした?」

 アンはヴェローニカにヨハンのことを話した。

「ああわかった、それならば私が視察することにして、アンが同行していればいいだろう必要であれば治してみればいい」

「あの、秘密保持は?」

「騎士団の衛生兵も同行させよう。それでなんとか誤魔化す」

「わかりました。ありがとうございます」

「礼には及ばないよ」

「いえ、ヴェローニカ様の予定を変更するのですから」

「そんなことより、その、ヨハンとアンは、どんな関係なんだ?」

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