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かつての理系女は両親に話す

 陽も大きく傾き、風も涼しくなってきた。遠くにアンの故郷の村が見える。そのなかにある尖った屋根は、生まれ育った教会だ。今までの帰省は馬車だったから、こんなに遠くから村を見なかった。しかし今は馬上なので正面が見えるし、なにより遠くまで見える。そしてその村が、フローラに話した野菜で囲まれているのもわかる。

 早く帰りたくて馬を駆けさせたい衝動を、アンは必死に押さえた。

 

 長い旅にも終わりは来る。村のはずれの家の横を通り、少し進むとすぐに教会前の広場に着いた。先行した騎士団の団員のお陰で、広場にはもう父さま母さまが待っていた。手を振りたくなる気持ちを抑え、少しうなずくだけにしておく。父さま母さまは手をふってくれ、まわりには村の人が総出で待っていた。ところどころから「アンー」という声がかかり、うれしいのが半分、はずかしいのが半分であった。

 村長や父さまの挨拶をうけたヴェローニカは馬から降り、少し言葉を交わす。早く馬から降りて父母のもとへ行きたい。

 じれったい待機のあと、アン達四人とレギーナ達四人にヴェローニカの護衛として教会に行くよう指示が出た。ほかの騎士たちはそれぞれの持場へと動いていく。

 

 レギーナ、ラファエラが先に教会に入り、ヴェローニカも教会に入る。アンたちも続く。

 中の明るさに目が慣れる頃、ヴェローニカはアンに指示した。

「アン、ご両親に挨拶なさい」

「ありがとうございます」


「父さま、母さま、ただいま」

「おかえり」

「おかえり」

 母さまはアンを強く抱きしめ、騎士の制服を着ていたからすこし遠慮していたアンも、母さまを強く抱き返した。

 

 ヴェローニカは少し待ってくれていたのだろう、ちょっとしたところでアンの両親に語りかけた。

「お父上、お母上、ちょっといいだろうか」

「なんでしょうか」

「ちょっと折りいって話があるのだが」

「わかりました。では事務室へ」

「いや、ここ礼拝堂のほうがよかろう。ただ、人払いを」

「わかりました」

 アンの両親と、騎士団のヴェローニカ、アン達4人、レギーナ達4人だけが礼拝堂に残った。


「アン、自分から話すか? 私から話してもよいが」

 ヴェローニカの問いかけに、アンは即答した。

「私のことですから、私が話します。ただ、どこまで話して良いものか」

「ご両親のことだ、全部話して良いぞ」

「ありがとうございます」

「念の為、なるべく小さな声でな」

「はい」


 アンは両親に向き合った。話そうと思うが、なかなか声が出ない。

 しばらくして、ヴェローニカが小さく優しい声で、

「やっぱり私から話そうか?」

と言ってくれた。しかしかえってそれで、アンの覚悟が決まった。アンはヴェローニカに礼を言ったうえで話し始めた。


「父さま、母さま、私、聖女になった」

 父さまはだまっていたが、母さまは動揺したようだ。

「あ、アン、聖女様って、ジャンヌ様よね」

「うん、ジャンヌ様は聖女代理。ジャンヌ様が聖女代理になったのは、わたしのせいなの」

「どういうこと?」

「先代の聖女様のご遺言には、私が指名されていたの。でもまだ私が幼いのでジャンヌ様が代理に就かれたの」

「でもアン、あなたにそんな力があるの?」

「母さま、私、小さい頃から村の動物の治療ができてたの」

「……」

「あとね、実は黙って森に入ったことが何回かあるんだけど、魔物は私を襲ってこないの」

「それは偶然じゃないの?」

「ううん、何度もある」

「そう」

 母さまはそれだけ言って、だまってしまった。

 

 アンは話を続けることにした。

「あのね、女学校の卒業を機に聖女になったんだけど、私、まだ聖女の仕事をする準備ができてない。だからしばらくは第三騎士団の団員になったということにして、しばらくはジャンヌ様に聖女代理をおねがいしたの」

 ここで父が聞いてきた。

「女学校で教える、と言う話はどうなったんだ?」

「うん、それも続ける」

「だいじょうぶなのか?」

「うん、いろんな人から支えられてるから……」

「そうか、ならば、期待には答えないとな」

「うん」

 ヴェローニカが発言した。

「というわけで今回の騎士団の視察は、実のところアン様の帰省、我々はアン様の護衛というのが本当のところです。ですからどうかこの話は、ご両親だけにとどめ、アン様はあくまで第三騎士団の新人騎士ということにしてください」

「わかりました」

「ただ、家族水入らずというわけにいかないのです」

「どういうことですか」

「大変申し訳無いのですが、今やアン様は我が国で王に次ぐ重要人物です。したがいまして、複数の騎士の護衛のない状況が許されないのです」

「はぁ」

「そのために、アン様のご学友のこちらの三人が常にアン様の護衛につきます。この3人は第三騎士団の正規の騎士です。女学校で6年間一緒に過ごした仲間です。ご家庭にアン様のお友達を迎えるとお考えいただけないでしょうか」

 父さま、母さまはその説明でほとんどのことはわかってくれたようだった。母さまは、

「承知しました。お心遣い、感謝します。アンは四人で泊まれる部屋を用意します」

と言ってくれた。父さまは、

「ヴェローニカ様はどうされるのですか?」

と聞く。

「私は広場に天幕を設営させていただきます。あと、礼拝堂の片隅を一部の団員に貸していただけると助かる」

「それは全く構いません。必要なことはお申し付けください」

 ヴェローニカは話を終えると、レギーナ達4人を引き連れ礼拝堂を出ていった。

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