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かつての理系女は宮廷教会に呼び出される

 ヴェローニカたちが退出したところで、フローラたち三人はあらためてソファーに座った。発言したのはフローラだった。

「まあ大体わかっちゃったけどね、一応友達として、ちゃんと説明してよね」

「うん」

 アンとしてはどう言おうか、迷った。するとヘレンは、

「私達を騎士にしたのだって、私達と気楽に話をするために必要なことだったんでしょ、気楽に言ってよ」

「うん、わかった。私、聖女になった」

 ネリスは満面の笑みで抱きついてきた。

「お主、夢の一つがかなったのう! これで我らもアンを聖女様と呼んでよいのじゃな!」

「いや、それはだめ」


 ネリスは体をアンから離し、残念そうに言った。

「ふーん、なんかテンションが下がったのう」

「ほんとね」

 ヘレンもがっかりしている。仕方がないので、アンは説明を始めた。

 先代聖女の遺書により聖女に指名されたこと。まだ自身が聖女たる存在に慣れていると思えないため、当面ジャンヌに代理を頼んだこと。暫くの間は王立女学校で教員として働きながら、聖女への研鑽をしていきたいこと。聖女の単独行動は安全上許されないので、護衛として3人を騎士としたこと。

 

「で、どうすんの?」

 ヘレンが聞いてきた。

「うん、明日ジャンヌ様、ヴェローニカ様と相談してからになると思うけど、しばらくは予定通り女学校で働くことになると思う。並行して私は聖女になる訓練をすることになるんじゃないかな?」

「そうだね」

「私のことに巻き込んじゃって、ごめん」

 そういったとたん、ヘレンが怒った。

「アン、そういう言い方は良くないよ。私達は最初っから同じ運命のもとにあるんだし、何があってもアンといっしょにいるよ」

 ネリスも、

「そうだよ、最後まで、一緒に乗り越えるんだよ、私達」

と言った。フローラは、

「アン、私達は文字通り、運命共同体だよ」

と言う。

「うん、ごめん、みんな、これからもよろしく」


 その夜アンは、フローラ達3人の護衛のもと、いつもどおりに寝ることができた。ただし、廊下には常に女騎士2名が警備していたという。

 

 翌日食堂へ向かうと、下級生たちはまだ学期が残っているので全員いたが、6年生はすでに女学校を離れた者がおり、その分席が歯が抜けたように空いている。それを目にすると、あらためて自分たちが卒業したことを再認識してしまう。

「う~ん、最後まで残るのって、私達なんだよね」

 フローラが言い出した。

「なんかおいてかれるみたいで、きついなぁ」

 アンはつい下を向いてしまう。すると隣のフローラがアンの脇腹をつついた。

「アン、あんたのせいじゃないわよ。四人、運命共同体だから」

「うん、ごめん」


 食後は職員室へ向かう。ジャンヌ聖女代理から宮廷教会へ呼ばれているので、その事を念の為伝えておこうとアンは考えたのだ。その途中で、副担任だったローザに出会った。

「あなたたち、ここにいたのね。ヴェローニカ様がいらしているわよ。校長室へ行きなさい」


 校長室の用事は、フローラ、ヘレン、ネリスの騎士への任命だった。

「まあ、四人とも座ってくれ。フローラ、ヘレン、ネリスの任務と待遇について説明し、異論がなければもう一度宣誓をしてもらう。アン様も無関係な話ではないですから、お付き合いください」

 ヴェローニカの話では、3人は基本的にアンといっしょに行動し、アンの警護をすることになる。少しずつ騎士としての訓練も行う。これにはアンも同行して欲しいとのことだ。そして騎士として初年度の給与が出るだけでなく、時間外の手当も出るらしい。常時アンと行動するということは常時勤務中になるので、その手当は相当の金額になるらしい。お金の話のときヘレンがとてもうれしそうで、アンはヘレンが実家に仕送りするつもりだろうと思った。

 もちろん3人に異論があろうはずもなく、あらためて宣誓が行われた。3人には短剣が渡され、できるかぎり常に携行するよう、ヴェローニカが命じた。


 宣誓が終わると、正門へ移動する。女学校正門には見慣れた第三騎士団の馬車がおり、レギーナたちが騎乗したまま待っていた。

「おはようございます」

 なんとむこうからから丁寧に挨拶されてしまう。とりあえず挨拶を返し、案内されるまま四人で馬車に乗り込む。さらに驚くことに、同じ馬車にヴェローニカが乗り込んできた。

「狭苦しくて申し訳ありませんが、宮廷教会に着くまで、簡単に打ち合わせを」

「よろしくお願いいたします」

 ヴェローニカは窓から「出せ」と命令を発した。

 

 アンは居心地が悪く、ヴェローニカに文句を言った。

「ヴェローニカ様、その口調やめていただけませんでしょうか。今まで通り、目下のものに話すようにしていただけませんか?」

 ヴェローニカはニヤッと笑って、

「ご命令とあれば」

と言う。アンはヴェローニカがこの状況を楽しんでいる事に気づいた。

「命じます」

「ありがとうございます」


 ヘレンが聞いた。

「ねぇアン、どういうこと?」

「あのね、私聖女になっちゃったから、身分的にヴェローニカ様より上なのよ。それにとまどっている私を、ヴェローニカ様は楽しんでらっしゃるのよ」

「え、じゃ、私もまずいですね」

 フローラもネリスもなんだか嬉しそうだ。

「やめてよ、今まで通りにしてよ」

「ご命令とあれば」

「怒るよ!」

 ヴェローニカも含め、馬車内に爆笑が満ちた。

 

 急にヴェローニカの表情が引き締まった。

「フローラ、ヘレン、ネリス、これからもずっと、このように楽しく、アンを支えてやってくれ。聖女様の任務は、重く、厳しく、尊いものだからな」

「「「はい」」」


 それから宮廷教会へ向かう途中、ヴェローニカから今日の予定などについて簡単に伝えられた。

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