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かつての理系女は任命する

 職務があるということなので、聖女代理のジャンヌは宮廷教会へと帰っていった。細かいことはまた明日話すので、宮廷教会まで来てほしいと言っていた。ジャンヌが去ると同時に、ヴェローニカが戻ってきた。

 

 とりあえず卒業パーティーにもどる。廊下を警護の騎士たちと進む。視界を遮らぬようヴェローニカがアンの左前に立ち、レギーナ、ラファエラ、エリザベート、ティアナが二列になって続く。ものものしい感じで違和感しか無い。それをつい口にすると背後からレギーナの声で「すぐに慣れます」と言われた。

 

 大食堂につくと、まずヴェローニカがすっと中に入った。ヴェローニカは女子生徒から絶大な人気を集めており、歓声があがる。すっと手を挙げるのは、後ろから見ていても美しい。つい見とれていると、アンの左右からレギーナとラファエラが前に出て、小さな声で「どうぞ」と言う。言われるがまま入室すると、クラスメートたちが駆け寄ってきた。

「アン、待ってたのよ」

「何してたの?」

など、口々に言われる。

「ちょっとジャンヌ様に呼び出されて」

と応えると当然のことだが、

「何のお話でしたの?」

と聞かれる。本当のことを言えるわけもないので、

「うん、お仕事のこと」

とぼかして答えると、

「そうだよねぇ、がんばってねぇ」

と納得してくれる。


 なんとなくもとにいた席のあたりに行ってみると、ネリスが結構な量の手つかずの料理を前にしていた。まだ食べるのかと呆れていると、

「アン、お主の好物、死守しといた!」

とネリスはドヤ顔で言ってきた。

「あ、うん、ありがと」

と返事してみると、確かに串焼きとか、ひき肉を丸めて焼いたものとか、イモのサラダとか好きなものばかりである。

「もしかして、食べずに待っていてくれたの?」

「イヤ、食べた。お主の嫌いな魚類は討伐しておいたぞよ!」

 もう笑うしかなかった。

「よし、フローラ、ヘレン、アンが戻ったぞ! 一緒に食べよう!」

 まだ食べる気らしい。


 好物ばかりが目の前にあったが、残念ながらアンはそれをなかなか楽しめなかった。まず、クラスメートや後輩たちが入れ替わり立ち替わり挨拶しに来る。後輩たちはともかく、当分会えそうにないクラスメートたちとの会話は短く終るわけなど無い。手を握られた場合には、食べながらの会話もできない。そうは思うが、相手の手を握る自分自身の手に力が入っていることに途中で気づいた。

 それよりも、先程のジャンヌの話がまだ心に引っかかっていて、どうしても思考が上の空になる。クラスメートたちはそれを卒業の感激だととらえてくれているようだ。

 しかし長年の親友はちがった。アンのまわりにクラスメートたちがいなくなった瞬間、フローラが聞いてきた。

「ジャンヌ様、何だって」

「うん、後で話す」

 それだけでわかってくれたらしく、フローラは次にやってきたクラスメートに話しかけた。

 

 アンは「後で話す」と一言言えただけで、ずいぶんと力が抜けた。パーティーの残りの時間は割と気楽に歓談できた。ネリスのとっておいてくれた料理も堪能できた。

 

 卒業パーティーは、卒業生が全員退室して終る。結局アンたち四人は最後に会場を出た。出たと思ったら、アレクサンドラ校長が待っていた。

「お話があるのでしょう。校長室をお使いください」

そう言って先に立って歩き出した。ヴェローニカ、アン、フローラ、ヘレン、ネリス、そしていつもの女騎士四人が廊下を進む。途中生徒や先生たちとも何人もすれ違ったが、みな道を開けてくれた。

 アレクサンドラは校長室の鍵を開け、

「私は職員室におります。終わりましたらお声がけください」

と言う。ヴェローニカが、

「かたじけない」

と応じ、校長室に入った。


 校長室に入ると、女騎士四名が四隅にすっと立った。アンは校長室の接客用のソファーに向かうと、ヴェローニカはいつもは校長がすわる一人がけのソファーにアンが座るよう促した。アンはそれを断り、ヴェローニカに座ってもらう。そういった無言のやりとりにフローラたちも緊張してきたようで、誰も口を開かない。

 

 一同が着席したところで、ヴェローニカがアンに話しかけた。

「まず、騎士の任命をされたほうが良かろうかと思います」

「なぜですか?」

「護衛騎士なしに、あなたを置いておくわけにはいかないからです」

 ヴェローニカは、フローラたちを騎士に任命してしまえばアンと騎士が同席しているので他に騎士は必要なくなる。だから四人だけで話をすることができると言っているのだ。

「わかりました」


 アンは今一度居住まいを正し、仲間三人に話した。

「フローラ、ヘレン、ネリス、あなた達三人に、今、この場で、第三騎士団の騎士になってほしいの」

 しばらく誰も発言できなかった。

 最初に口を開いたのはネリスだった。

「私はもともと騎士志望だからありがたいお話だけれど、フローラは魔術師、ヘレンは女官になりたいんでしょ。あんた、それを知ってて言ってるの?」

 アンは返答に困った。するとヴェローニカが「いいでしょうか」と断ったうえで、

「騎士と言っても、所属は秘密になる。だから表向き女官や魔術師であってもかまわない。当面はいままでどおりに活動してもらうことになる」

と言った。フローラが、

「では、騎士としての本当の任務はなんでしょうか?」

と聞くと、その答えは、

「聖女様の警護だ」

であった。続けてヘレンが聞く。

「試験もなにもなしにですか?」

「聖女様の強いご希望だ。第三騎士団に異論などあろうはずがない」

「念のために聞きますが、アンは騎士にならないのですね」

「ならない」

 

 フローラがアンの方に向かって質問した。

「もう一度聞く、アン、あなたは私達三人に、騎士になってほしいのね」

「うん、嫌だったらいいのだけれど、ぜひ、なって欲しい」

「わかったわ、ヴェローニカ様、私は第三騎士団へ入団を希望いたします」

 そしてヘレンとネリスもそれに続いた。

 するとヴェローニカは立ち上がって言った。

「うむ、きちんとした契約は明日王立女学校でもう一度行うが、とりあえず仮の契約を行う。三人とも立ちなさい」

 三人が立ち上がって、ヴェローニカの方に向いた。

「ここにいる者が証人になる。一人ずつ行う。まずフローラ、ひざまずき、胸に手を当て、私の言葉に続くように」

「はい」

「私、ネッセタールのフローラは」

 フローラが復唱を始め、神と、王と、聖女に対し忠誠を誓った。同じ儀式をヘレンとネリスにも行ったうえで、ヴェローニカは命を下した。

「それではフローラ、ヘレン、ネリス、只今より聖女様の警護にあたるように」

「「「ハイッ」」」

 つづけてヴェローニカはレギーナたちに退室するよう命じ、自分も部屋を出ようとした。ネリスが釣られて出ようとすると

「おい、もう命令違反か? ネリスの担当はこの部屋だ!」

「あ、はい、すみません」

 ヴェローニカは笑っていた。

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