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かつての理系女は指名を受ける

 聖女代理ジャンヌの示した聖女の遺書は、次代聖女候補の筆頭としてアンを指名していた。

 

 一応この世界にやってきたアンにとって聖女は目標の一つであった。しかしまだ十四才であるし、聖女の仕事について何一つ勉強していない。辞退したらどうなるのかと遺書を読み進めると、候補第二位がフローラ、第三位はヘレン、第四位はネリス、そしてやっと第五位に聖女代理のジャンヌの名があった。ジャンヌより上位の4人がすべて聖女を辞退または死去した場合にはじめてジャンヌが聖女になることができるのだ。

 ジャンヌが口を開く。

「聖女様のご指示により、あなた方が聖女就任可能な年令になるまで、私が聖女代理を務めてまいりました。アン、あなたは聖女に就任しますか?」


 ここで辞退すればこの場にフローラが呼ばれ、アンと同様に聖女になるか聞かれるであろう。おそらくフローラもヘレンもネリスも辞退し、ジャンヌが正式な聖女に就任することになるだろう。

 ジャンヌがここ5年、聖女代理としてしっかりとその努めを果たしてきたことは明白である。アンとしてジャンヌの聖女への適格性は疑うべくもないが、ここでジャンヌに聖女の仕事を任せることが、先代の聖女の遺志に沿うことになるのか?

 

 ここまで考えて、アンは心を決めた。

「謹んでお受けいたします、ただし」

 ジャンヌが不思議そうな顔でアンを見つめる。

「ジャンヌ様、私が聖女としての職務が果たせるようになるまで、今しばらく代理としてお仕事を続けていただけませんでしょうか?」

「お安い御用です、聖女様、私の微力が、聖女様のお役に立てるならば」

「あの、そのような口調はおやめいただけませんでしょうか」

「とんでもない、あなたはもう、聖女様です。私は聖女様の忠実な下僕です。では最初の仕事として、次代の聖女を指名するご遺書をお書きください」

 すでにその用意はされていた。

「同じ内容で、六通、お書きください。次代聖女候補は、最低でも8名、お書きください。なお、必要に応じて書き改めることができます。もちろん日付の新しいものが優先となります」

「わかりました」

 アンはあわてて自分が死したときのため、次代の聖女候補の順位をかき始めた。先代の聖女の遺志を踏まえ、単純に自分をのぞき、残りのものを一位ずつ繰り上げたものにした。

 封筒に入れ、ロウで封緘し、通し番号と日付を記入する。ジャンヌによれば、通し番号1が宮廷教会、2が王室、3が近衛騎士団、4が第一騎士団、5が第2騎士団、6が第3騎士団に保存される。原則として1を用いて次代聖女を指名し、2以下を保存するものから異議ががある場合のみ、2から6を同時開封し、遺書を用いた多数決になる。こうして先代聖女の遺志を間違えなく次代に引き継がれるしくみになっているそうだ。

 6通すべてアン自ら封緘したら、ジャンヌが面談室の外に声をかけた。ドアが開き、第三騎士団のヴェローニカ団長が入ってきた。ジャンヌが何事かささやくと、ヴェローニカは手を胸に当て、ひざまずいた。

「アン聖女様、第三騎士団は聖女様ご就任をお祝いし、忠誠を誓うことをここに誓います」

 アンがとまどっていると、ジャンヌは、

「アン様、誓いをお受けください」

というのでやむを得ず、

「よろしくおねがいいたします」

と返すと、ヴェローニカは「恐悦至極に存じます」と今一度深く頭を下げた。


 ジャンヌはアンの遺書の通し番号1を自身で持ち、それ以外の5通をヴェローニカに渡した。

「早馬を」

とジャンヌが言うと、ヴェローニカは「ハッ」と短く答え、足早に歩み去った。


 呆然としていると、ジャンヌが杏に聞いた。

「それではアン様、卒業パーティーにおもどりになりますか」

「は、はい。それよりもジャンヌ様、皆さんの前では今まで通り、目下のものとしてあつかっていただけないでしょうか」

「アン様、それはしばらく聖女様にご就任されたということを隠されたいということでしょうか」

「そうです。私はあまりにも未熟です。きちんと職務をはたせるようになるまで、今しばらくお願いできないでしょうか」

「聖女様のご命令とあれば」

 アンとしては命令などしたくないのだが、ジャンヌのいたずらっぽい笑顔から、アンの希望を聞いてくれていることは理解できた。

 

 廊下に出ると、第三騎士団の顔見知りの騎士、レギーナ、ラファエラ、エリザベート、ディアナが控えていた。四人ともひざまずいて、レギーナが発言する。

「アン様、これより常に、第三騎士団のものがおそばの警備につきます。どうかご安心を」

「ありがとうございます。でも、いつもですか」

「はい、ご不自由かと存じますが、アン様の安全のためです」

「あの、警備なし、ということはできないでしょうか」

「申し訳ありませんができません。聖女様は、我が国において王の次の重要人物ですから、警備無しでの行動は認められません」

「そうですか」

 正直なところ、ちょっとうっとうしい。レギーナたちにはさんざんお世話になっているし、親しくさせてもらっている。そうであっても常時身近に警備の騎士がいるのに慣れるには、かなり時間がかかりそうだ。

 困ったな、というのが顔に出ていたのだろう。レギーナが、

「ちょっとお耳を」

と言ってきた。レギーナは口をアンの耳に近づけ、

「ネリスや、フローラ、ヘレンを騎士に任命してしまえばいいのですよ。完全にみなさんだけでの行動はだめですが、安全な場所では私達はちょっと離れたところで警備いたしますから」

と教えてくれた。

「ありがとうございます」

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