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かつての理系女は進路を提案される

 校長室に行くと、アレクサドラ校長のみならず、ルドルフ神官長、マティアス武官長、ミハエル医官長がそろっていた。そのメンバーを見れば、卒業後の話だと瞬時にわかる。うながされるままにソファに座ると、アレクサンドラが話を始めた。

「みなさん、進路は結局決まりましたか?」

 明らかに決まっていないことを知っている口調である。だから四人とも、

「はぁ」

くらいしか返答のしようがない。

「まだ決断できていないようですね。そうであれば女学校から提案があります。みなさん、教員として女学校に残る気はありませんか」


 アンは衝撃を受けた。じつのところ留年してでもまだ女学校にいたいと密かに考えていたのだ。アンとしては最高の申し出であるが、他の3人はそれでいいかはわからない。他の3人の顔をみるとうんうんとうなずいている。自分が女学校に残るのを賛成してくれているのはわかる。でも3人と分かれて別の道にすすむ覚悟はまだない。だからそれぞれの希望を聞いたうえで、場合によっては誰かとくっついていってもいいかとも思えた。

「あの、先生、私についてはちょっと考えさせていただいていいでしょうか?」

 そう言ったらネリスが切れた。

「アン、あんたバカじゃないの。あんた女学校にまだいたいんでしょ?」

「そ、そうだけど、なんで知ってるの?」

「アンみたいに一直線にやりたいことやる人が、ぐちゃぐちゃと言って進路を決めないんだから、女学校に居たいって考えてるの、みんな知ってるよ」

 三人のみならず、アレクサンドラ校長までうなずいている。

「うん、だけど、はずかしんんだけど、私一人残ってもね」

「だからほんとバカね。私達はみんな、アンといっしょに居たいと思ってるよ」

 ネリスの言葉に、やはり三人とも頷いている。

「でもネリス、あんた騎士団に行きたいって」

「それは第二志望、第一はアンといっしょに仕事することだよ」

 するとフローラも言い出した。

「私だってそうだよ。また私一人だけのけものにするの?」

 大学院進学時、一人だけ川崎に残ったことを言っているらしい。

 ヘレンは、

「まだ私達、別の道へ進むには早いよ。まだ準備できてない」

 アンは涙が出てきた。

 

 アンの気持ちが落ち着くのまで、しばらく大人たちは待っていてくれた。

「というわけで皆様、この四名は秋から女学校の教員になってもらいます」

 するとマティアス武官長が言った。

「うむ、しかしこの四人を女学校で独占というのはのめませんぞ、騎士団への指導は継続していただけませんと。そもそもネリスは騎士志望であるし」

 ルドルフ神官長も発言する。

「教会も定期的に来てもらわないと困りますな。もっと魔法についても学んだり研究したりしてもらわないと」

 視線はヘレンとフローラに向いていた。

「もちろん中央病院もです。ネリスの研究やアンの治癒魔法は国家にとって必要です」

 ミハエル医官長はネリスとアンを交互に見ながら発言した。

 まとめるようにアレクサンドラが言う。

「皆様、どの功績もこの四人が力をあわせてやってきたことはご存知でしょう。ですから私は四人は一緒に居るべきだとおもいますし、将来別の道を歩むにしても、その時期はこの子達自身が決めるべきだと思います。当面女学校を本拠地として、必要に応じて王宮、騎士団、病院などに行けばよいのではないですか」


 ここまで言ってくれているので、アンは自分の考えを述べた。

「皆様、私としては校長先生のお言葉に甘えて当分女学校に居させていただこうと思います。まだまだ勉強すべきことが多いのです」

 するとアレクサンドラは笑いながら言った。

「皆さんに受けてもらう授業はもうないですよ。先程お伝えした通り、教官としてやっていってもらいます」


 翌日には教室で、アンたちの卒業後の進路は広まっていた。個人情報保護の観点など無いこの世界、どうせ職員室辺りから漏れたに違いない。

「アン、フローラ、ヘレン、ネリス、おめでとう。あんたたちにとって、最高の進路だわ」

 そう言って祝福してくれたのは、ジョセフィーヌである。

「私はきっとそうなるって思ってたわよ」

 こちらはイングリットだ。二人は隣室でずいぶんと迷惑をかけてきただろうに、なんだか涙ぐんでいる。

 その他のクラスメートたちも、口々に祝福してくれた。

 同期で生徒会長までのぼりつめたヴァネッサは、

「卒業してすぐに女学校の教員になるのは、女学校卒業者の最高の名誉なのよ。ちょっと悔しいわ」

と言って笑った。

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