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かつての理系女はドラゴンに出会う

 森の入口でアン達四人は馬車から馬に乗り換える。気づけば女騎士たちが総勢五十人ほどもいる。騎士たちは周囲への警戒を怠らず、実戦モードに入っていることが伺われる。先刻ヴェローニカは軽い口調でアン達を森へと誘ったが、やはりフローラの言うとおり、なにかしらアンにどうしても見せたいものがあるに違いない。

 たまらずアンはヴェローニカに尋ねた。

「ヴェローニカ様、森になにかありましたか?」

「ああ、やっぱりアンには隠せないな。実は数日前、村から森の方で大きな音がしたという報告があった。雪が降っている中でもわかるほどの、とてもとても大きな音だったそうだ」

「そうですか、森には魔物がいます。それもとても大きいのが」

「やはりそうか、種類はわかるか?」

「わかりません、ですが私が見たことがないほど強大なものだと思います。ただ、傷ついて弱っています」

「放置すべきか?」

「わかりませんが、なにかあっちから呼んでいるような気がします」

「では行くしか無いな」

「はい」

「アン、案内してくれ」

「わかりました」


 アンは直感を信じるまま、魔物の気配のする方へアウグストを進ませる。アウグストは少し不安そうで、耳をくるくると方々へと回している。アンはアウグストの首筋をたたいて落ち着かせようとした。

 アンの右にはヴェローニカ、左にはレギーナがついて警戒してくれている。振り返るとアンの後ろにフローラ、ヘレン、ネリスが騎乗して続き、アン同様両脇を騎士が護衛している。そのうしろに二十人ほどの騎士がおり、その真中に馬に引かれた橇が2台見える。

「ヴェローニカ様、あの橇は?」

「うん、非常時用の装備だ。いつ吹雪くかわからないのでな」

「なるほど」

 第三騎士団が今回の任務に本気で取り組んでいるのがよくわかる。

 

「フローラ、なんでそんなに振り返るの?」

 ヘレンが聞いている。

「うん、帰りの地形を頭に入れてるの」

「足跡でわかるじゃん」

「吹雪いたら、すぐ消えるよ」

「そうか。でも旗も立ててるよね」

「うーん、ちょっと間隔が大きい気がする」

 

 アンは思い出した。フローラ、かつての木下優花はお父さんに連れられて何回か山に登ったことがあったのだ。

 そしてヴェローニカが反応した。

「おい、旗の間隔を半分にしろ。あと、帰り道のため、各員時々振り返って地形を頭に入れろ!」

 フローラは

「恐れ入ります」

と言った。


 魔物の気配がかなり近づいた。眼の前の真っ白な急斜面を越えると多分居る。もう馬ではむりなので降りてカンジキをつける。アンは魔物の気配がする方向へと進もうとしたら、フローラに止められた。

「アン、ここは雪崩れるかもしれない。樹林帯の方が良い。木がないと言うことは以前に雪崩た可能性が高い」

 なるほどと思い、少し遠回りだが木の生えている斜面を進む。フローラはさらに、

「ヴェローニカ様、この斜面では、旗でなく、目印は木につけたほうがいいと思います」

「ほう、なんでだ?」

「この木はしなやかに曲がります。雪崩が起きても折れないのです。つまりこの斜面も、雪崩からは安全とは言えません。アンはやむをえずここを通っていますが、雪崩れると竿で立てた目印の旗は流されます」

 フローラの示す木は、ダケカンバを思い出させる。

「うむ、わかった。フローラの言う通りにせよ! それとアン、体力的に大丈夫か?」

「いえ、しんどいです」

「うむ、誰か、アンの代わりに道を付けてくれ」

「では私が参ります」

と言って、レギーナが先頭に立った。


 深い雪をもがきながら、ひたすら上を目指す。レギーナは雪を階段状に踏み固めながら登ってくれている。踏み跡のない雪に比べれば大幅に楽だが、いかんせん階段の一段一段が高い。また気をつけないと段を踏み崩しそうになる。汗を流し息を切らしていると、おしりを押された。振り返るとヴェローニカが支えてくれている。

「ありがとうございます」

「うむ」


 どれほどの時間雪の中をもがいていたかわからない。目の前にレギーナの手が差し出された。見上げると青空の中に振り返るレギーナの緊張した面持ちが見える。手を取るとぐっと引き上げられ、坂の頂上に出た。そして無言でレギーナはある方向を指差し、アンが見やるとそこには黒いドラゴンがいた。

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