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かつての理系女は衛生管理に貢献する

 ヘレンのリンゴをアップルパイにすることは四人の間ですぐに決まったが、いつどこでパイにするかは若干揉めた。

 当然第一の候補に上がったのはゾフィー先生とともに調理室で行うことである。ゾフィー先生も大変乗り気であったが、リンゴの量が多いことと、そもそも補習は騎士団、教会、病院でみっちり予定が組まれていてパイを作る時間を入れ込めそうにない。週末のうち一日は近衛騎士団に行くことになっているし、残り一日はしっかり休まないといけない。週末に近衛騎士団に行く際にヴェローニカに相談したところ、第三騎士団に来てやるようにということになった。ヴェローニカの言うには、

「男だらけの近衛騎士団に菓子を食べさせても食べ散らかされるだけだ。第三騎士団なら貴族の娘だらけだから、お茶会のマナーも学べるぞ」

とのことだった。近衛騎士団にはうまく話を通してくれるとのことだった。


 週末の第三騎士団訪問を前に、もう一日中央病院に行く。もちろん寒天培地である。結果は目に見えているので、今日のねらいは水洗いの効果を確かめることにある。引率はやっぱりゾフィーである。

 女学校から外に出ると、もう日が暮れ始めている。北国の王都は冬がどんどん近づいてきているのが実感される。そんな街並みを歩きながら、ゾフィーが話しかけてきた。

「ネリス、結果が楽しみね」

「そうですね」

「ネリス、あなたあまり楽しみじゃないの?」

「いえ、そんなことないですよ」

 ネリスの返答はそっけなかった。ネリスのみならずみんな結果がどうなるかは前世の知識でわかりきっていたからだ。しかしゾフィーにそのあたりの事情を知られるわけにはいかないので、アンは口を挟むことにした。

「ゾフィー先生、ネリスは次のことを考えているからだと思います」

「どういうこと?」

「石鹸やポーションが有効なことは予想できているんですが、こないだは結構しっかり洗ったじゃないですか」

「そうね」

「でも、人間、ついつい手を抜きがちですよね」

 するとヘレンが口をはさむ。

「アンが手を抜きたいんでしょ」

「うるさい、とりあえず、ここまでいいですか? ゾフィー先生」

「そうね」

「ですから、どれくらい洗うとどれくらい効果があるか、それを明らかにする必要があるんです」

「なるほど、で、どうするの?」

 ここはやはりネリスに説明してもらったほうがいいだろうと目配せすると、ネリスがあとをひきとった。

「取り敢えず今日は、水での手洗いの効果を詳しく調べようと思うんです。水でもある程度の効果はあるかと思うんですが、どれくらい洗うか、というのを明らかにしたいんです」

「それでゼリーをまたいっぱい持ってきてたのね」

「はい、また自動的に、王都の水道の安全性も検証することになるかもしないです」

「まぁ、それは大丈夫でしょう。聖女様が日々浄化されていますから」

「それは安心ですね」


 前回と同じ部屋に行くと、薬剤師のフーゴーが待っていた。

「本来ならグントラム様とロッティさんを待ってからなのですが、みなさん結果を見たいでしょう」

 アンも聞き返す。

「お二人は、結果をご存知なのですか?」

「ええ、お二人共ちょくちょくと見に来ていましたから」

 その言葉から病院側のやる気が感じられた。早速見せてもらう。

 

 結果としてはほぼ予想通りだった。手を洗っていないものは大量に菌が繁殖し、それから手を水で洗ったもの、石鹸で洗ったものと菌が減っていき、ポーションを用いたものはほとんど菌が繁殖していなかった。土をつけた手についても、ほぼ同様の結果であった。

 やがて医師のグントラムと看護員のロッティもやってきた。グントラムが感謝するようにネリスに言った。

「ネリス、先日は本当にありがとう。あの患者は順調に回復しているよ。ポーションで洗う意味がよくわかったよ」

「よかったです」

 ネリスもうれしそうだ。アンもこの世界の衛生管理に一つ貢献できた気がして嬉しかった。すでに病院では積極的にポーションを使っているとの話だった。

 

 ポーションによって感染症を効果的に抑制できることはわかったが、それについて薬剤師のフーゴーから意見があった。

「手洗いや傷口にポーションを用いることが有効なことはわかりましたが、一つ問題があります」

 ネリスが答える。

「何でしょうか?」

 ネリス以外の3人も不安になった。

「ポーションの消費が激しく、現在の貯蓄量ではあっという間に尽きてしまいます」

 これだけで、これ以上説明されなくても生産量を消費量が上回ってしまっていることは理解できた。しかし念の為ネリスは聞いてみる。

「この国のポーションの生産量はどれくらいなのでしょうか?」

「いや、それはちょっと」

「軍事機密だということですね」

「お察しください」

 おそらく現状でのポーション生産は平時であるから使用量を生産量が若干上回っている程度で、戦時に備えて少しずつストックを増やしているのだろう。

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