表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/120

かつての理系女は共犯者にされる

 近衛騎士団に言った翌日は、ひさしぶりにのんびりすることになった。補習という名目で毎日いろいろなことをやっている四人にアレクサンドラ校長から一日完全休養するよう厳命されたのだ。朝一番で校長室に呼び出されたのだが、校長はアンの目を見て「勉強も禁止」と言った。


 そんなわけで午前中は自室でごろごろすることにした。

 朝の礼拝の後、アンはさっそくベッドにダイブする。

「わーい、こんなの何年ぶりだろ」

 ベッドの上で伸びをするとフローラに言われた。

「十年ぶりくらい?」

「私まだ九歳にもなってないんだけど」

 フローラはニヤッとしている。

「そんなことより制服脱ぎなよ。しわになるよ」

「えー、めんどい」

「だからしわになるって」

 フローラに制服を脱がされ、下着でベッドに潜る。

「寝巻くらい着なよ」

「いいじゃん」

「ふんっ」

 鼻を鳴らしてフローラは部屋を出ていった。

 

 ふとんはまだあたたかく、しあわせである。素肌に触れる寝具がとても気持ちがいい。フローラの言う通り、このような幸せは通算十年くらい、勉強やら恋愛やらで寝る間も惜しんで活動してきたのかもしれない。

「二度寝最高」

 口にすると眠気が襲ってきた。

 

 突然、お腹を弄られた。

「ふむ、お主、なかなか良い肌をしておるのう」

 ネリスだった。アンの背中にネリスが張り付いているようだ。

 フローラの声がする。

「ねえヘレン、ネリスって百合の気があるの?」

「いや、ノーマルだと思うけど、共学育ちだからね」

「禁断症状か?」

 アンは身の危険を感じて身を固くした。するとネリスは、

「アン、安心せい。ワシの妾はヘレンじゃからな。それともお主もワシの妾になるか?」

 ネリスはアンの脇腹をくすぐりだした。

「や、やめてよ」

「やめるわけがないじゃろ」

「ひ、ひぃ」

「は、は、は」

「逆襲じゃ!」

 アンは反撃することにした。

 

 再びフローラの声がする。

「ヘレンも被害にあったの?」

「いや、私は大丈夫」

「じゃ、今のうちに寝とこ」

「そうだね」

 するとネリスは、

「アン、フローラとヘレンがずるいぞ」

などという。そうだと思ったアンはベッドから出て、フローラとヘレンを攻撃することにした。


 いきなり部屋のドアが開いた。

「あんたらうるさいよ!」

 隣の部屋のクラスメイト、カリーナだった。

「す、すみません」

 真っ先に誤ったのは大騒ぎの原因を作ったエロオヤジだった。

「すみません、アンがあまりにかわいくて、つい」

「休むなら休むでしっかり休みなよ。それにしてもアン、そのかっこうは何? アンがいちばんおとなしい子だと思っていたのに」

「い、いえ、はやく寝たくて、寝巻を着るのもめんどうで」

「しかたないわね、私が着せてあげるわ」

「い、いえ、いいです」

 それを無視してカトリーナがズカズカと近づき「やっぱりあんた、かわいいわね」というと、カトリーナもアンをくすぐりだした。

 

 そんなわけで午前中はほとんど寝れなかった。

 

 昼食の時間になった。いっしょに大騒ぎしていた隣室のカリーナとクリスタといっしょに食堂に行く。カトリーナは、

「笑いすぎてお腹すいた」

と言っていた。クリスタもくすぐり大会に途中参加していたので、お腹を抑えている。

 友達を作るのが上手なネリスは

「クリスタもお腹すいたの?」

と聞くが答えは、

「ちがう、腹筋痛い」

とのことだった。


 週末の食堂は、実はあまり期待できなかった。厨房の職員を交代で休ませる必要があるため、作り置きなど簡素なメニューにどうしてもなる。ただ、量は多い。王都の貴族出身者は実家にもどっていることが多いが、食堂としてはその者たちの分も一応作っておく。余った分はおかわりとして食べられる。争奪戦になるから、平日よりも食事の集合はみな早い。カリーナとクリスタも当然早足で、アンたちにも急ぐよう急かしてくる。

 今日はパンにサラダ、そして肉が用意されていた。簡素であるが、パンに野菜と肉を挟んで食べるとまあおいしい。パクパク食べ、アンたち四人はカリーナとクリスタよりも早くおかわりを貰いに行った。

 席に戻るとクリスタが呆れたように言った。

「あんたたち、体はちっちゃいのによく食べるのね」

 ネリスは

「成長期ですから」

と応えるが、アンは違うと思った。昨日近衛騎士団でたらふく食べ、胃袋が大きくなっているのだ。今は服を着ているからわからないが、昨日寝る前下着になるとお腹の上部が膨れていた。さりげなくフローラを見ても同様だった。しかし騎士団でたくさん食べられるとは、うらやましがられるのが確実なので口には出せない。食べる量を遠慮するのと少し運動を増やそうと思うアンであった。

 そんなアンの気持ちはわからないらしく、ヘレンは、

「パンとか卵とか、余ってたみたいだよね」

などと言っている。アンは嫌な予感がして、

「まだ食べるの?」

と聞いたが、

「あれさ、おやつにできないかな?」

と答えが返ってくる。それを聞きつけたネリスは、

「もしかしてあと牛乳とシロップ?」

と言った。ネリスはアンと同じ考えのようだ。フローラは、

「なんのこと?」

と聞いてきた。アンは周りに聞こえないよう小声で、

「ヘレンのフレンチトースト、あっちでよく食べてた」

と教えておく。

 アンの気持ちはヘレンにわかるはずもなくネリスに援軍を頼む。

「ネリス、厨房にさ、自分たちで作れないかお願いするの手伝ってよ」

「うむ、あれは美味かったからのう」

 今日のネリスはずっとオヤジモードのようだ。アンは食べ過ぎと目立ち過ぎが気になり、

「ねぇ、いいのかな?」

と言ったら、

「食べたくないなら、別にいいよ」

と言われてしまった。

「そんなことないよ」

「じゃ、みんなでお願いしに行こう」

 結局共犯にされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ