かつての理系女はマヨネーズを所望する
昼食は近衛騎士団の食堂で、生徒四人と女騎士四人で食べた。その食堂では、食べるのも喋るのもネリスが主役だった。
「やっぱ肉だよね、肉!」
そう、昼食のメニューは肉と野菜を焼いたもの、そしてパンにスープであった。味は濃いめ、量は多めでなく多い。パクパク食べるネリスにアンとフローラは引き気味だが、ネリス担当の女騎士ディアナが呆れたように発言する。
「ネリスはよく食べるな。ふつうあれだけ馬に振り回されたら食欲も減退しそうなものだが」
そう言うディアナにフローラ担当のラファエラは、
「ディアナもよく食べているではないか」
というのだが当のラファエラは、
「我々は騎士だ。これくらいで食が細くなることなどあり得ないではないか」
と、返している。アンは普通の食欲なのだが、量が多すぎる。ヘレンも同様だ。
「ヘレン、無理して食べなくてもいいのだぞ」
「ありがとうございます。でもエリザベート様、残すなんてもったいないことできません」
その考えにはアンも同意であるが、とても食べ切れると思えない。困っているとレギーナが、
「アン、食べきれないものは厨房に頼んで包んでもらおう。午後に時間があいたときにおやつとして食べればよかろう」
と言ってくれた。
「ありがとうございます」
と礼を言ったのはなぜかネリスだった。
結局ネリスだけすべて食べきり、食器を下げる際、厨房にのこりものを包むよう頼んだ。
「あの、手間とは思うんですが、食べきれない分、午後に食べたいのでなにか包んでいただけないでしょうか」
「私からも頼む」
横からエリザベートも口を出してくれた。
厨房のおじさんは、
「サンドイッチにでもするか」
と言ってくれた。するとヘレンは、
「あの、お手数でしょうから、自分でやってもいいですか?」
と言う。それはいいことだとアンも思い、
「おじゃまじゃなければ私も」
と言ってみたら、
「ああ、いいぞ。騎士様、いいですか?」
とおじさんは言ってくれた。するとレギーナは、
「ああ、たのむ。ただこの子達は訓練で汚れているから、材料、道具を出してくれたら食堂でやらせるのだが」
と言ってくれる。
「そうですな、じゃあちょっと待っててください。必要なものを出しますから」
ここでネリスが口を出す。
「あの、すみません、私全部食べちゃったんですが、なにか残り物ありませんか?」
四人とも乗馬のせいで泥を浴びているので厨房には入れてもらえず、食堂の片隅で作業することになった。アンとフローラ、さらにヘレンの食べきれなかったパンと肉や野菜をサンドイッチにしていく。借りてきた包丁でパンを切り、四人で手際よくパンに挟んでいく。
「マヨネーズほしいわね」
と、アンは小声でつぶやいてしまったのだが、それにヘレンが反応した。
「多分作れるよ」
そう言って厨房の方へ行く。そこでヘレンは卵、酢、油、塩をもらってきた。
「卵白を捨てたほうが濃厚で美味しいけど、もったいないから入れちゃうね」
ヘレンは卵を割り、塩と酢を加えてよく混ぜていく。さらに油を少しずつ加えながら混ぜていくと、あっという間にマヨネーズができた。
「さすがワシの妾やな」
とはネリスである。そんなふうにわいわいやっていると、厨房のおじさんがやって来た。
「お嬢ちゃん、それはなんだい?」
「マヨネーズです」
「味見していいか?」
「どうぞ」
「おお、うまいなこれ、どうやってつくったんだ? もう一度作ってくれないか」
「はい、わかりました」
ヘレンがもう一度マヨネーズをつくっていると、騎士たちが集まってきた。
「俺にも味見させてくれ」
などと言う声にいちいち応じていると、アンたちの分がなくなってしまった。女騎士たちも味見に精を出している。流石に困り、フローラが、
「あの、私達の分が無くなってしまったんですが」
と抗議する。厨房のおじさんは、
「ああ、今度は俺が作ってみるから、お嬢ちゃん味見してくれ」
と言って作ってくれた。さすがプロ、あっという間にたくさん作る。
「これ、おいしいです」
というヘレンの感想におじさんは、
「よかった。ちょっとまっててくれ」
と言って厨房に引っ込んだ。
おじさんを待っている間、ヘレンはアンに言った。
「アンのおかげで、こっちでもマヨネーズが食べられそうだよ」
「いや、私は作り方知らなかった。ヘレンのおかげだよ」
「どうする、マヨラーが流行したら」
「卵高価だからそれはないんじゃない?」
おじさんが包を持ってやって来た。
「これさ、昨日の残りのお菓子なんだけど、食べてくれよ。子どもは食べなきゃ」
「「「「ありがとうございます!」」」」
「がんばってね!」
「「「「はい!」」」」




